73 / 127
第四章:絡みつく真実の糸
71
しおりを挟む
「実は確認していただきたいことがありま
して。まずは、こちらの手紙をご覧いただき
たいのですが」
唐突にそう話し始めたマサに、僕は慌てて
鞄から例の手紙を取り出す。テーブルの真ん
中に差し出されたそれを手に取ると、母親は
「何ですか?」と、首を傾げながら封筒から
手紙を取り出した。
するとあの奇怪な一文に目を走らせた途端、
表情を強張らせる。
母親の反応を観察するかのように、じっと
見つめていたマサは、落ち着いた声音で事の
詳細を話し始めた。
「その手紙は殺人事件の加害者家族である
藤治佐奈さんの元に寄せられたものなんです」
「藤治さん?」
母親が封筒の宛名を確認する。
けれどそれが誰なのかさっぱりわからない
と言った顔で、マサに説明を求めた。
「彼女は心春さんを殺害した西村永輝の妹
です。藤治というのは母親の旧姓で、事件後
は藤治佐奈と名乗っています」
西村永輝の名を耳にした瞬間、母親の顔つ
きがガラリと変わる。そして封筒を裏返すと、
差出人の名を見てさらに頬を歪めた。
「じゃあ、この早川永輝というのは……」
何かを堪えるように低い声で言った母親に、
僕たちは顔を見合わせる。この先の話をどう
進めるか。それを悩んだところで母親の心を
搔き乱すことなく話を聞き出すことは不可能
だろう。
マサは険しい表情を向ける母親に、真実を
告げた。
「早川永輝というのは西村永輝の改称です。
彼は服役中に結婚し、姓が『早川』に変わっ
たんです。失礼ですが、そのことを御存じで
はなかった?」
顔色を窺うように覗くと、母親は目を見開
き、「いいえ!」と首を振る。その様子は嘘
をついているようには見えず、けれどマサは
畳みかけるように質問を重ねた。
「それでは彼が仮釈放になったという事実
も、御存じではありませんでしたか?」
「釈放されたんですか?」
「はい。更生の様子が見受けられたため、
彼は先日仮釈放されました。いまは身元引受
人である妻の元で暮らしています」
「……そんな、だって。まだ」
震える声で言って、母親は手で口を塞ぐ。
娘を殺した犯人が、すでに自由の身となっ
ている。その事実に動揺を隠せない母親を目
の当たりにし、僕はテーブルの下で拳を握り
締めた。
母親が視線を遺影に向ける。
そしてついに堪えられなくなったのか、洟
を啜り始めた。マサはその様子に口を引き結
ぶと、己を鼓舞するように頷き真相に踏み込
もうとする。僕はただじっと事の成り行きを
見守り、隣で息を殺していた。
して。まずは、こちらの手紙をご覧いただき
たいのですが」
唐突にそう話し始めたマサに、僕は慌てて
鞄から例の手紙を取り出す。テーブルの真ん
中に差し出されたそれを手に取ると、母親は
「何ですか?」と、首を傾げながら封筒から
手紙を取り出した。
するとあの奇怪な一文に目を走らせた途端、
表情を強張らせる。
母親の反応を観察するかのように、じっと
見つめていたマサは、落ち着いた声音で事の
詳細を話し始めた。
「その手紙は殺人事件の加害者家族である
藤治佐奈さんの元に寄せられたものなんです」
「藤治さん?」
母親が封筒の宛名を確認する。
けれどそれが誰なのかさっぱりわからない
と言った顔で、マサに説明を求めた。
「彼女は心春さんを殺害した西村永輝の妹
です。藤治というのは母親の旧姓で、事件後
は藤治佐奈と名乗っています」
西村永輝の名を耳にした瞬間、母親の顔つ
きがガラリと変わる。そして封筒を裏返すと、
差出人の名を見てさらに頬を歪めた。
「じゃあ、この早川永輝というのは……」
何かを堪えるように低い声で言った母親に、
僕たちは顔を見合わせる。この先の話をどう
進めるか。それを悩んだところで母親の心を
搔き乱すことなく話を聞き出すことは不可能
だろう。
マサは険しい表情を向ける母親に、真実を
告げた。
「早川永輝というのは西村永輝の改称です。
彼は服役中に結婚し、姓が『早川』に変わっ
たんです。失礼ですが、そのことを御存じで
はなかった?」
顔色を窺うように覗くと、母親は目を見開
き、「いいえ!」と首を振る。その様子は嘘
をついているようには見えず、けれどマサは
畳みかけるように質問を重ねた。
「それでは彼が仮釈放になったという事実
も、御存じではありませんでしたか?」
「釈放されたんですか?」
「はい。更生の様子が見受けられたため、
彼は先日仮釈放されました。いまは身元引受
人である妻の元で暮らしています」
「……そんな、だって。まだ」
震える声で言って、母親は手で口を塞ぐ。
娘を殺した犯人が、すでに自由の身となっ
ている。その事実に動揺を隠せない母親を目
の当たりにし、僕はテーブルの下で拳を握り
締めた。
母親が視線を遺影に向ける。
そしてついに堪えられなくなったのか、洟
を啜り始めた。マサはその様子に口を引き結
ぶと、己を鼓舞するように頷き真相に踏み込
もうとする。僕はただじっと事の成り行きを
見守り、隣で息を殺していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる