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第四章:絡みつく真実の糸
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「お兄ちゃん!?」
わたしは予期せぬ再会に、つい声を上げて
しまう。するとその声に気付かれたと知った
兄は、くるりと踵を返し逃げ出してしまった。
「待って、お兄ちゃん!!」
商店街から脇道に入る暗がりの道を必死に
追い駆ける。土地勘のある兄は細い路地をく
ねくねと走っていき、その速さに追いつけな
いわたしは少しずつ引き離されていった。
「お願い、待ってっ!!」
息を切らしながら逃げる背中を呼び止める。
その声は届いているはずなのに、兄はまっ
たく止まってくれる気配がない。そしてつい
に路地を抜けた兄は横断歩道を走り、道路の
向こうに渡ってしまう。少し遅れて信号に辿
り着いたわたしは、無情にも目の前で信号が
赤に変わってしまい、行き交う車の向こうに
立つ兄を見つめた。
ほんの数秒、兄と視線が絡みあう。
その瞳が、くっ、と歪められたかと思うと、
兄は人混みに紛れるようにして歩いて行って
しまった。
「お兄ちゃん、どうして?」
会いに来てくれたのではないのだろうか?
なのに、どうして何も言わずに逃げてしま
うのだろう?すでに見えなくなった背中を見
つけようと、わたしは再び車の止まった横断
歩道を駆け抜ける。
けれどもう、どこを探しても、雑踏の中に
消えた兄の姿を見つけることは出来なかった。
『兄が会いに来た』
そんなメールが藤治さんから届いたのは、
新規の相談者を抱え、多忙な日々を過ごして
いた最中のことで。僕が仕事帰りに『みちく
さ』に立ち寄れたのはそれから二日後のこと
だった。
僕は仕事を終えると、事務所を出て商店街
へと急ぐ。すでに宵闇を迎え、人影が疎らな
商店街を足早に進んでゆくと、ふと、古書店
の方から歩いてくる見知った顔に歩を緩めた。
すると、向こうも僕に気付き「ああ」と人
の好い笑みを向けてくる。僕はその男性の前
で立ち止まると、「どうも」と頭を下げた。
確か、コンサルティング会社の浅利伴人と
いっただろうか?会釈に留めても良かったの
だが、にこやかに手を振られれば通り過ぎる
訳にもいかず、僕たちはなんとはなしに立ち
話を始めた。
「こんばんは。もしかしてこれから『みち
くさ』ですか?」
「はい、ちょっと『みちくさ』をしに」
そう返すと、彼は嬉しそうに眼鏡の向こう
の目を細める。そして、なぜか僕の顔を覗き
込むと、自分の頬を指差した。
「聞きましたよ、武勇伝。彼女を助けるた
めに川に飛び込んだのが、あなただったとは。
いやぁ勇気があるな。改めてネットの記事を
読ませてもらいましたが、よく真っ暗な川に
飛び込めましたね」
「いや、別に、そんな大したことじゃ」
頬に残るかさぶたに触れながら、謙遜する。
まさか、藤治さんが僕のことを話している
とは思わず、本人の知らないところで噂が広
まっていると思えば、どうにも気恥ずかしい。
わたしは予期せぬ再会に、つい声を上げて
しまう。するとその声に気付かれたと知った
兄は、くるりと踵を返し逃げ出してしまった。
「待って、お兄ちゃん!!」
商店街から脇道に入る暗がりの道を必死に
追い駆ける。土地勘のある兄は細い路地をく
ねくねと走っていき、その速さに追いつけな
いわたしは少しずつ引き離されていった。
「お願い、待ってっ!!」
息を切らしながら逃げる背中を呼び止める。
その声は届いているはずなのに、兄はまっ
たく止まってくれる気配がない。そしてつい
に路地を抜けた兄は横断歩道を走り、道路の
向こうに渡ってしまう。少し遅れて信号に辿
り着いたわたしは、無情にも目の前で信号が
赤に変わってしまい、行き交う車の向こうに
立つ兄を見つめた。
ほんの数秒、兄と視線が絡みあう。
その瞳が、くっ、と歪められたかと思うと、
兄は人混みに紛れるようにして歩いて行って
しまった。
「お兄ちゃん、どうして?」
会いに来てくれたのではないのだろうか?
なのに、どうして何も言わずに逃げてしま
うのだろう?すでに見えなくなった背中を見
つけようと、わたしは再び車の止まった横断
歩道を駆け抜ける。
けれどもう、どこを探しても、雑踏の中に
消えた兄の姿を見つけることは出来なかった。
『兄が会いに来た』
そんなメールが藤治さんから届いたのは、
新規の相談者を抱え、多忙な日々を過ごして
いた最中のことで。僕が仕事帰りに『みちく
さ』に立ち寄れたのはそれから二日後のこと
だった。
僕は仕事を終えると、事務所を出て商店街
へと急ぐ。すでに宵闇を迎え、人影が疎らな
商店街を足早に進んでゆくと、ふと、古書店
の方から歩いてくる見知った顔に歩を緩めた。
すると、向こうも僕に気付き「ああ」と人
の好い笑みを向けてくる。僕はその男性の前
で立ち止まると、「どうも」と頭を下げた。
確か、コンサルティング会社の浅利伴人と
いっただろうか?会釈に留めても良かったの
だが、にこやかに手を振られれば通り過ぎる
訳にもいかず、僕たちはなんとはなしに立ち
話を始めた。
「こんばんは。もしかしてこれから『みち
くさ』ですか?」
「はい、ちょっと『みちくさ』をしに」
そう返すと、彼は嬉しそうに眼鏡の向こう
の目を細める。そして、なぜか僕の顔を覗き
込むと、自分の頬を指差した。
「聞きましたよ、武勇伝。彼女を助けるた
めに川に飛び込んだのが、あなただったとは。
いやぁ勇気があるな。改めてネットの記事を
読ませてもらいましたが、よく真っ暗な川に
飛び込めましたね」
「いや、別に、そんな大したことじゃ」
頬に残るかさぶたに触れながら、謙遜する。
まさか、藤治さんが僕のことを話している
とは思わず、本人の知らないところで噂が広
まっていると思えば、どうにも気恥ずかしい。
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