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第四章:絡みつく真実の糸
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どんな顔をしていいかわからずに、そこで
口籠ってしまうと、彼はしみじみと言った。
「彼女、笑わない人だったんですよね」
「は?」
「いや、ほら。すごく綺麗な人なのに何と
言うか、ちょっと影を背負ってるところがあ
って、あまり笑顔を見せない人だったんです」
「ああ、確かに」
その言葉に僕は頷いてしまう。
初めて交流会で会った彼女は、感情を押し
殺しているような雰囲気があり、どことなく
冷たい空気さえ纏っていた。
「でもね、最近はよく笑ってくれるように
なったんです。どうしてかなと不思議に思っ
て聞いてみれば、身を挺して助けてくれたと
いうあなたの名前が出て来るじゃないですか。
ああこれは、そういうことかと……合点がい
きましたよ。あなたに出会えたから、彼女は
笑えるようになったんですね」
そう言って顔を覗く彼に、僕は返す言葉が
見つからない。けれど、肯定するように含羞
んで見せると、彼はさらに続けた。
「あなたといるとただの『藤治佐奈』でい
られるんだって、彼女、言ってました。その
言葉を聞いて、叶わないなぁって。僕なんか
まったく眼中にないみたいな顔してくれるか
ら、嫉妬する余地もなかったんですけどね。
でも本当に良かったですよ。彼女が前を向け
るようになってくれて」
どうやら彼女が加害者家族であることを、
彼は知っているらしい。口ぶりからそう察し
た僕は、一瞬、表情を止めてしまう。自分が
加害者家族であることを打ち明けるほど、彼
と親しい間柄ということなのだろうか?彼女
に対して好意を抱いているらしい彼に、僕は
ちょっと複雑な思いを抱いてしまった。
「あっ、一人でべらべら喋ってすみません。
彼女に用があるんですよね?お客さんとして
じゃなく」
「いや、客としても足を運ぼうと思ってる
んですけどね。店の雰囲気も気に入ってるし、
古本も温かみがあっていいなと思って」
いまさら否定するのも野暮だと思い冷やか
すような視線を受け止めると、彼は目を輝か
せ、嬉しそうに僕の手を握った。
「そうですか!いや、嬉しいなぁ。あの店、
僕がプロデュースしたんです。学校で使わな
くなった机と椅子を集めて、昭和感のあるイ
ンテリアを並べて。なかなか寛げるでしょう?
あの空間で本を読みながら、彼女お手製の
ほうじ茶チーズケーキを食べてみてください。
本を買ってくれたお客さんは二百円引きなん
です。すごくお得でしょう?」
「ほうじ茶のチーズケーキですか、美味し
そうだなぁ。是非、そうさせてもらいますよ」
ぶんぶん、と握った手を彼に振られながら
苦笑する。ヒカリ爺さんが言っていた通り、
彼は社交的で誰とでも打ち解けられる人種の
ようだ。もっとも、僕も人見知りではないが、
こんな明るい人なら彼女が心を許すのも頷け
る気がする。
口籠ってしまうと、彼はしみじみと言った。
「彼女、笑わない人だったんですよね」
「は?」
「いや、ほら。すごく綺麗な人なのに何と
言うか、ちょっと影を背負ってるところがあ
って、あまり笑顔を見せない人だったんです」
「ああ、確かに」
その言葉に僕は頷いてしまう。
初めて交流会で会った彼女は、感情を押し
殺しているような雰囲気があり、どことなく
冷たい空気さえ纏っていた。
「でもね、最近はよく笑ってくれるように
なったんです。どうしてかなと不思議に思っ
て聞いてみれば、身を挺して助けてくれたと
いうあなたの名前が出て来るじゃないですか。
ああこれは、そういうことかと……合点がい
きましたよ。あなたに出会えたから、彼女は
笑えるようになったんですね」
そう言って顔を覗く彼に、僕は返す言葉が
見つからない。けれど、肯定するように含羞
んで見せると、彼はさらに続けた。
「あなたといるとただの『藤治佐奈』でい
られるんだって、彼女、言ってました。その
言葉を聞いて、叶わないなぁって。僕なんか
まったく眼中にないみたいな顔してくれるか
ら、嫉妬する余地もなかったんですけどね。
でも本当に良かったですよ。彼女が前を向け
るようになってくれて」
どうやら彼女が加害者家族であることを、
彼は知っているらしい。口ぶりからそう察し
た僕は、一瞬、表情を止めてしまう。自分が
加害者家族であることを打ち明けるほど、彼
と親しい間柄ということなのだろうか?彼女
に対して好意を抱いているらしい彼に、僕は
ちょっと複雑な思いを抱いてしまった。
「あっ、一人でべらべら喋ってすみません。
彼女に用があるんですよね?お客さんとして
じゃなく」
「いや、客としても足を運ぼうと思ってる
んですけどね。店の雰囲気も気に入ってるし、
古本も温かみがあっていいなと思って」
いまさら否定するのも野暮だと思い冷やか
すような視線を受け止めると、彼は目を輝か
せ、嬉しそうに僕の手を握った。
「そうですか!いや、嬉しいなぁ。あの店、
僕がプロデュースしたんです。学校で使わな
くなった机と椅子を集めて、昭和感のあるイ
ンテリアを並べて。なかなか寛げるでしょう?
あの空間で本を読みながら、彼女お手製の
ほうじ茶チーズケーキを食べてみてください。
本を買ってくれたお客さんは二百円引きなん
です。すごくお得でしょう?」
「ほうじ茶のチーズケーキですか、美味し
そうだなぁ。是非、そうさせてもらいますよ」
ぶんぶん、と握った手を彼に振られながら
苦笑する。ヒカリ爺さんが言っていた通り、
彼は社交的で誰とでも打ち解けられる人種の
ようだ。もっとも、僕も人見知りではないが、
こんな明るい人なら彼女が心を許すのも頷け
る気がする。
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