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第四章:絡みつく真実の糸
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そんなことを頭の隅で考えていると、彼は
ぱっと手を離し、「じゃあまた」と手を振って
颯爽と去っていった。
「なんか清々しい人だな」
瞬く間に遠ざかってゆく背中を見送り、僕
は再び歩き始める。そうしてすでに閉店して
いる『みちくさ』古書店の前に立つと、僕の
ことを彼に話している彼女を想像し、綻んで
しまいそうになる頬を両手で張った。
「こんばんは」
カラカラと古い引き戸を開け店の奥に進ん
でゆく。と、カウンターで書き物をしていた
彼女が顔を上げた。
「あ、卜部さん」
ほっとしたような笑みを向けてくれる彼女
に、僕は胸を温かくする。たった数日会わな
かっただけなのに、遠く離れた恋人にやっと
会えたような感動があった。
「ごめん、遅くなって」
「ううん、忙しいのに来てくれてありがと」
帳簿らしきものを閉じて彼女がカウンター
から出て来てくれる。僕は後ろで手を組むと、
入り口を振り返った。
「すぐそこで浅利さんと会って、話してた。
彼、話しやすいし良い人だね。あ、この店の
ほうじ茶ケーキが絶品だって勧められた」
思い出したように言って頷く僕に、彼女が
肩を竦める。
「普通のチーズケーキと二種類作ってるん
ですけど、お客さんもほうじ茶の方が好きな
人多いみたい。ごめんなさい、今日は売り切
れてしまってもうないんです」
「そっか、じゃあ、ほうじ茶チーズケーキ
は次の機会に。それより浅利さん、けっこう
店に来るの?この間も来てたけど」
「ええ、週に一度くらいは。今日は今週末
にやるブックフェスティバルの打ち合わせで
来ていたんです」
「ブックフェスティバル。ふぅん、何だか
楽しそうだね。本のお祭りってこと?」
なんとなくイメージが湧かず、首を傾げる。
商店街の一角で店を広げるのだろうか?
それともどこかの会場や体育館を借りて?
そんな想像を巡らせていると彼女は一枚
の企画書を見せてくれた。
「区の管理する古民家を借り切ってフェス
ティバルを開催するんです。この商店街から
はうちと文具屋さんの隣にある『森の本屋』
さんも出店するんですけど、雑貨のお店とか
も入るから、けっこう集客が見込めるみたい」
「へぇ、古民家か。いいね、そういうの。
行ったことないな」
「良かったら遊びに来ませんか?わたしは
お店から離れられないけど。十時から十六時
までやってるんです」
カウンターに企画書を広げ、彼女が地図を
指差す。僕は彼女と頭を突き合わせるように
しながら「どれどれ」と企画書を覗き込んだ。
「東急東横線、名都大学駅から徒歩十分か。
うん、行くよ。週末は特になにも予定ないし」
「良かった。わざわざ声を掛けたら悪いか
なと思ってたから、来てもらえるならすごく
嬉しいです」
声を弾ませそんなことを言う彼女が可愛く
て、僕は笑みを向ける。向けた瞬間、息がか
かるほど近くに彼女の顔があって、僕たちは
互いの瞳に映る自分に吸い込まれてしまった。
ぱっと手を離し、「じゃあまた」と手を振って
颯爽と去っていった。
「なんか清々しい人だな」
瞬く間に遠ざかってゆく背中を見送り、僕
は再び歩き始める。そうしてすでに閉店して
いる『みちくさ』古書店の前に立つと、僕の
ことを彼に話している彼女を想像し、綻んで
しまいそうになる頬を両手で張った。
「こんばんは」
カラカラと古い引き戸を開け店の奥に進ん
でゆく。と、カウンターで書き物をしていた
彼女が顔を上げた。
「あ、卜部さん」
ほっとしたような笑みを向けてくれる彼女
に、僕は胸を温かくする。たった数日会わな
かっただけなのに、遠く離れた恋人にやっと
会えたような感動があった。
「ごめん、遅くなって」
「ううん、忙しいのに来てくれてありがと」
帳簿らしきものを閉じて彼女がカウンター
から出て来てくれる。僕は後ろで手を組むと、
入り口を振り返った。
「すぐそこで浅利さんと会って、話してた。
彼、話しやすいし良い人だね。あ、この店の
ほうじ茶ケーキが絶品だって勧められた」
思い出したように言って頷く僕に、彼女が
肩を竦める。
「普通のチーズケーキと二種類作ってるん
ですけど、お客さんもほうじ茶の方が好きな
人多いみたい。ごめんなさい、今日は売り切
れてしまってもうないんです」
「そっか、じゃあ、ほうじ茶チーズケーキ
は次の機会に。それより浅利さん、けっこう
店に来るの?この間も来てたけど」
「ええ、週に一度くらいは。今日は今週末
にやるブックフェスティバルの打ち合わせで
来ていたんです」
「ブックフェスティバル。ふぅん、何だか
楽しそうだね。本のお祭りってこと?」
なんとなくイメージが湧かず、首を傾げる。
商店街の一角で店を広げるのだろうか?
それともどこかの会場や体育館を借りて?
そんな想像を巡らせていると彼女は一枚
の企画書を見せてくれた。
「区の管理する古民家を借り切ってフェス
ティバルを開催するんです。この商店街から
はうちと文具屋さんの隣にある『森の本屋』
さんも出店するんですけど、雑貨のお店とか
も入るから、けっこう集客が見込めるみたい」
「へぇ、古民家か。いいね、そういうの。
行ったことないな」
「良かったら遊びに来ませんか?わたしは
お店から離れられないけど。十時から十六時
までやってるんです」
カウンターに企画書を広げ、彼女が地図を
指差す。僕は彼女と頭を突き合わせるように
しながら「どれどれ」と企画書を覗き込んだ。
「東急東横線、名都大学駅から徒歩十分か。
うん、行くよ。週末は特になにも予定ないし」
「良かった。わざわざ声を掛けたら悪いか
なと思ってたから、来てもらえるならすごく
嬉しいです」
声を弾ませそんなことを言う彼女が可愛く
て、僕は笑みを向ける。向けた瞬間、息がか
かるほど近くに彼女の顔があって、僕たちは
互いの瞳に映る自分に吸い込まれてしまった。
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