罪の在り処

橘 弥久莉

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第四章:絡みつく真実の糸

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 が、それはほんの数秒のことで、はっ、と
我に返ると僕たちは顔を背ける。

 恋するままに唇を重ねてしまいたかったが、
今日は大事なことを話しに来たということを
既のところで思い出したのだ。

 僕はガリガリと頭を掻き、息を整えた。
 そしてカウンターに肘を預けると彼女の顔
を覗いた。

 「そういえばお兄さんが会いに来たって?」

 努めて自然にそう切り出したのだが、彼女
は途端に表情を曇らせてしまった。

 「会いに、来てくれたんだと思ったんです。
でも、声を掛けたら一目散に逃げてしまった
から、わけがわからなくて」

 だいたいのことは、メールで聞いていた。

 電柱の影に隠れて店の方を伺っていたらし
い早川永輝は、妹に見つかった瞬間、その身
を翻し逃げてしまったという。僕は、ふむ、
と鼻を鳴らすと思ったことを口にした。

 「ここにお兄さんが来たのは、初めてなの
かな?もしかしたら、仮釈放されてから何度
も来てたけど、たまたまそれを目にすること
がなかっただけかも知れない」

 彼女は首を振り、口を引き結ぶ。
 僕の言葉が納得できないという顔だった。

 「何度もここに足を運んでいたなら、なぜ
逃げるのか余計わからないんです。何か話し
たいことがあって来たなら逃げる必要なんて
ないのに。どうして兄は……」

 自分の静止を振り切り逃げてしまった、兄。
 ずっと避けられたまま、伝えたいことさえ
伝えられなかった彼女の遣る瀬無さは、想像
に容易い。僕は視線を入り口の方に向けると、
諭すように言った。

 「話したいことがあって会いに来たけど、
顔を見たら怯んでしまったんじゃないかな?
前にすみれさんが言ってただろう?合わせる
顔がないから、家族とは一生会わないつもり
だったって」

 「一生会わないつもりだったその兄がここ
に来たんです。何かよほど話したいことがあ
ったのか、そうでないなら……」

 「そうでないなら?」

 そこで言い淀んでしまった彼女の顔を覗く。
 苦し気に唇を噛んでいる顔を見れば、言い
たいことは何となく察しがついた。

 「やっぱりあの手紙も、鴉も、兄がやった
のかも知れない」

 「それは……」

 違うんじゃないかな、という言葉は彼女の
声に掻き消される。

 「だって他に思い当たる人なんて誰もいな
いじゃないですか?兄の姓が変わったことも、
仮釈放になったことも、知れる人なんてどこ
にもいない!」

 「じゃあすみれさんが言ったことは?僕は
彼女が嘘をついているようには見えなかった」

 いつになく感情を露わにする彼女に、僕も
語気を強めてしまう。けれど、被せるように
言った僕に、彼女は力なく首を振った。
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