24 / 54
第一部:恋の終わりは
23
しおりを挟む
「彼ならきっと、あなたのことを大事に
してくれると思うわ。家柄とか、財産とか、
そういったものが何もなかったとしても、
彼はあなたを選んだ気がするの。だから…」
-----“彼”のことは、早く忘れなさい。
そのひと言は口にしなかったが、母が
言葉を飲み込んだことで、紫月は暗に悟る。
紫月はまた小さく頷き、笑みを浮かべた。
彼に会う機会は、あと2回残っている。
そうして、その2回のデートをとても楽し
みにしている自分がいた。
「大丈夫、心配しないで。ちゃんと考えて、
二人にとって最良の答えを出すわ」
そう言ってティーカップに手を伸ばすと、
母は頷いて、ぽん、と軽く紫月の肩を叩いた。
そうして、立ち上がる。
キッチンへ戻って行く母の背中越しに
時計を見やれば、家を出る時間まであと
30分だった。紫月は焼き立てのトーストに
かじりついた。
-----次はいつ会えるのだろう?
そんなことを思いながら朝食を済ませる
と、急いで化粧をし、家を出たのだった。
“土曜は朝9時に車で迎えに行く。
今回は汚れてもいいような、軽装で
来るように”
というメールが彼から届いたのは、
その日の夜のことだった。
仕事を終え、帰宅した紫月が携帯の液晶
画面を確認すると、メールのアイコンに①
の表示。彼からのメールだ、と、半ば確信
しながらフォルダーを見れば、タイトルに
は“二日酔いは大丈夫だった?”の、ひと言。
その一文に目を細め、本文を読んだ紫月
は、すぐさま首を傾げてしまった。
「軽装???」
今回も、どこへ行くのかは書かれてい
ない。けれど、何となくこの一文から、
彼の意図を悟ることはできた。
レイはきっと、また自分に新たな経験を
させてくれるつもりなのだろう。ピーター
パンがウェンディの手を引いてネバーラン
ドへ飛び立つように、彼は自分を新しい
世界へと導いているような気がする。
だから、紫月は何も聞かずに“わかった
わ。二日酔いは大丈夫よ”と、短い返事を
送ったのだった。
-----そうして迎えた、当日。
“軽装で”というレイの指示通り、ジーパン
に白のパーカーを合わせ、それに紺色のジャ
ケットを羽織った紫月は、白のコンチネン
タルGTの車窓越しに手を振ったレイを見つ
け、門の外へと続く階段を駆け下りた。
「おはよう。やっぱり、紫月は何を着て
も似合うね。白のパーカーもいい感じだよ」
開口一番にそう言って、レイが助手席の
ドアを開ける。紫月は彼の言葉に白い歯を
見せると、「ありがと」と言って車に乗り
込んだ。
してくれると思うわ。家柄とか、財産とか、
そういったものが何もなかったとしても、
彼はあなたを選んだ気がするの。だから…」
-----“彼”のことは、早く忘れなさい。
そのひと言は口にしなかったが、母が
言葉を飲み込んだことで、紫月は暗に悟る。
紫月はまた小さく頷き、笑みを浮かべた。
彼に会う機会は、あと2回残っている。
そうして、その2回のデートをとても楽し
みにしている自分がいた。
「大丈夫、心配しないで。ちゃんと考えて、
二人にとって最良の答えを出すわ」
そう言ってティーカップに手を伸ばすと、
母は頷いて、ぽん、と軽く紫月の肩を叩いた。
そうして、立ち上がる。
キッチンへ戻って行く母の背中越しに
時計を見やれば、家を出る時間まであと
30分だった。紫月は焼き立てのトーストに
かじりついた。
-----次はいつ会えるのだろう?
そんなことを思いながら朝食を済ませる
と、急いで化粧をし、家を出たのだった。
“土曜は朝9時に車で迎えに行く。
今回は汚れてもいいような、軽装で
来るように”
というメールが彼から届いたのは、
その日の夜のことだった。
仕事を終え、帰宅した紫月が携帯の液晶
画面を確認すると、メールのアイコンに①
の表示。彼からのメールだ、と、半ば確信
しながらフォルダーを見れば、タイトルに
は“二日酔いは大丈夫だった?”の、ひと言。
その一文に目を細め、本文を読んだ紫月
は、すぐさま首を傾げてしまった。
「軽装???」
今回も、どこへ行くのかは書かれてい
ない。けれど、何となくこの一文から、
彼の意図を悟ることはできた。
レイはきっと、また自分に新たな経験を
させてくれるつもりなのだろう。ピーター
パンがウェンディの手を引いてネバーラン
ドへ飛び立つように、彼は自分を新しい
世界へと導いているような気がする。
だから、紫月は何も聞かずに“わかった
わ。二日酔いは大丈夫よ”と、短い返事を
送ったのだった。
-----そうして迎えた、当日。
“軽装で”というレイの指示通り、ジーパン
に白のパーカーを合わせ、それに紺色のジャ
ケットを羽織った紫月は、白のコンチネン
タルGTの車窓越しに手を振ったレイを見つ
け、門の外へと続く階段を駆け下りた。
「おはよう。やっぱり、紫月は何を着て
も似合うね。白のパーカーもいい感じだよ」
開口一番にそう言って、レイが助手席の
ドアを開ける。紫月は彼の言葉に白い歯を
見せると、「ありがと」と言って車に乗り
込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる