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episode1 私、みえるんです
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「わかってるけど、あんな小さな男の子に助けてって
言われて、無視できないよ。私だって、できれば
関わりたくない、って思ってるけど、無理な時も
あるんだってば」
つい、語気が荒くなってしまって、つばさは斗哉から
目を逸らした。斗哉の気持ちは、嬉しい。だけど、
見えてしまえば、どうしたって避けられないことはある。
そのことが、見えない斗哉には中々伝わらない。
不意に、温かな指が、つばさの頬に触れた。
びっくりして斗哉を向けば、傷付いたような眼差しが、
つばさを捉える。どきりと心臓が跳ねた。
「悪かった。ちょっと、言いすぎた」
つ、と頬を撫でるようにして指が離れる。つばさは、
声もなくただ首を振った。顔が熱い。こんな風に、
斗哉に触れられたことは、一度もない。だから、
こんな時、どんな顔をすればいいのか、つばさには
わからなかった。
「べっ、別に。斗哉が謝ることは、ないけど」
顔を隠すように手にした台本を立てると、つばさは
台本の文字を目で追った。もちろん頭には入っていない。
台本の向こうから斗哉の頷く声が聴こえて、二人の間に
しばらく沈黙が流れた。数分後、瞼が重くなってきた
つばさの耳に、斗哉の声がした。いつもの声だった。
「はい、おしまい。早く写して帰りなさい」
つばさの視界に、男子とは思えないほど綺麗な字で、
びっしり書き込まれた数式が飛び込んでくる。
いつものことながら、まるで答えでも写しているかの
ようなスピードだ。台本の上に、ぱさ、と置かれた
プリントを見て、つばさは、にんまり笑った。
「さんきゅ~、斗哉」
さっそく、自分のプリントを広げて、真剣に写す。
斗哉は、どういたしまして、と一度伸びをすると、
ホチキスで綴じられた生徒会の資料らしき分厚い
プリントを広げ、ベッドの背にもたれかかった。
つばさは、時折、斗哉に話しかけながら宿題を終えると、
自宅へ戻り、部屋のドアを開けた。その部屋に、もう
あの足音は聴こえなかった。
「おはよ~」
まだ、くっきり冴えていない頭で、教室のドアを開けると、
クラスメイトの山岸 真理が爽やかな笑顔を向けた。
「おはよ。今日は早いじゃん」
毛先だけ綺麗にカールした、長い髪を掻き上げながら、
つばさを手招きする。つばさは、少し離れた自分の席に
どっか、と鞄を置くと、真理の前の席に座った。
「なになに」
ちょいちょい、と手招きを続ける真理に、耳を近づける。
何やら、内緒話があるらしい。
「黒沢。昨日もB組の子に告られたらしいよ」
ひそひそ声でそう言った真理に、つばさは、へぇ~、
と目を丸くした。昨日、斗哉の帰りが遅かった理由は、
生徒会だけじゃなかったらしい。
「で、断ったみたい。これは、かおるからの情報ね」
真理が得意げに言って、頬杖をつく。つばさは、
真理の情報網に感心して、また、へぇ~と驚いた。
「へぇ~、じゃないでしょ。昨日、告った子、
かなり可愛かったみたいよ。少しも心配じゃないの?」
真理がつばさの肩をつつく。同じような内容を
真理から聞かされて、同じように肩を突かれるのは、
何度目だろう?つばさは、そう言われても、と肩を
竦めた。
「まあ、黒沢はつばさ一筋みたいだし。余計な心配は
要らないんだろうけど」
周囲の女子に聴こえたら、呪われそうなことを言って、
真理がにっこり笑う。つばさは苦笑いしながら、
ないない、と顔の前で手を振った。
「だって、1年のとき、彼女いたし」
「あれだって、3ヵ月で別れちゃったじゃない。
付き合ってはみたけど、やっぱり好きになれなかった
のよ、きっと」
うんうん、と、頷きながら、ピロンと鳴った携帯に目を
向ける。そして、頬を緩めながら返信を始めた。
例の年上彼氏からだ、絶対。つばさは横目で見ながら、
口を尖らせた。
言われて、無視できないよ。私だって、できれば
関わりたくない、って思ってるけど、無理な時も
あるんだってば」
つい、語気が荒くなってしまって、つばさは斗哉から
目を逸らした。斗哉の気持ちは、嬉しい。だけど、
見えてしまえば、どうしたって避けられないことはある。
そのことが、見えない斗哉には中々伝わらない。
不意に、温かな指が、つばさの頬に触れた。
びっくりして斗哉を向けば、傷付いたような眼差しが、
つばさを捉える。どきりと心臓が跳ねた。
「悪かった。ちょっと、言いすぎた」
つ、と頬を撫でるようにして指が離れる。つばさは、
声もなくただ首を振った。顔が熱い。こんな風に、
斗哉に触れられたことは、一度もない。だから、
こんな時、どんな顔をすればいいのか、つばさには
わからなかった。
「べっ、別に。斗哉が謝ることは、ないけど」
顔を隠すように手にした台本を立てると、つばさは
台本の文字を目で追った。もちろん頭には入っていない。
台本の向こうから斗哉の頷く声が聴こえて、二人の間に
しばらく沈黙が流れた。数分後、瞼が重くなってきた
つばさの耳に、斗哉の声がした。いつもの声だった。
「はい、おしまい。早く写して帰りなさい」
つばさの視界に、男子とは思えないほど綺麗な字で、
びっしり書き込まれた数式が飛び込んでくる。
いつものことながら、まるで答えでも写しているかの
ようなスピードだ。台本の上に、ぱさ、と置かれた
プリントを見て、つばさは、にんまり笑った。
「さんきゅ~、斗哉」
さっそく、自分のプリントを広げて、真剣に写す。
斗哉は、どういたしまして、と一度伸びをすると、
ホチキスで綴じられた生徒会の資料らしき分厚い
プリントを広げ、ベッドの背にもたれかかった。
つばさは、時折、斗哉に話しかけながら宿題を終えると、
自宅へ戻り、部屋のドアを開けた。その部屋に、もう
あの足音は聴こえなかった。
「おはよ~」
まだ、くっきり冴えていない頭で、教室のドアを開けると、
クラスメイトの山岸 真理が爽やかな笑顔を向けた。
「おはよ。今日は早いじゃん」
毛先だけ綺麗にカールした、長い髪を掻き上げながら、
つばさを手招きする。つばさは、少し離れた自分の席に
どっか、と鞄を置くと、真理の前の席に座った。
「なになに」
ちょいちょい、と手招きを続ける真理に、耳を近づける。
何やら、内緒話があるらしい。
「黒沢。昨日もB組の子に告られたらしいよ」
ひそひそ声でそう言った真理に、つばさは、へぇ~、
と目を丸くした。昨日、斗哉の帰りが遅かった理由は、
生徒会だけじゃなかったらしい。
「で、断ったみたい。これは、かおるからの情報ね」
真理が得意げに言って、頬杖をつく。つばさは、
真理の情報網に感心して、また、へぇ~と驚いた。
「へぇ~、じゃないでしょ。昨日、告った子、
かなり可愛かったみたいよ。少しも心配じゃないの?」
真理がつばさの肩をつつく。同じような内容を
真理から聞かされて、同じように肩を突かれるのは、
何度目だろう?つばさは、そう言われても、と肩を
竦めた。
「まあ、黒沢はつばさ一筋みたいだし。余計な心配は
要らないんだろうけど」
周囲の女子に聴こえたら、呪われそうなことを言って、
真理がにっこり笑う。つばさは苦笑いしながら、
ないない、と顔の前で手を振った。
「だって、1年のとき、彼女いたし」
「あれだって、3ヵ月で別れちゃったじゃない。
付き合ってはみたけど、やっぱり好きになれなかった
のよ、きっと」
うんうん、と、頷きながら、ピロンと鳴った携帯に目を
向ける。そして、頬を緩めながら返信を始めた。
例の年上彼氏からだ、絶対。つばさは横目で見ながら、
口を尖らせた。
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