6 / 173
episode1 私、みえるんです
6
しおりを挟む
「そんなこと、ないと思うんだけどな。だって、斗哉に
好きって言われたことないし、そんな素振りだって、
今までまったく……」
そこまで言いかけて、つばさは口を噤んだ。昨夜の、
指先の温もりを思い出す。あれはいったい何だったのか?
斗哉の顔が頭から離れなくて、昨夜は眠れなかった。
だから、今日は、人生初の寝不足を経験してしまったのだ。
「なに?黒沢と何かあったの?」
つばさの様子に気付いた真理が、すかさず、
問い詰めてくる。
「うーん、別に、大したことじゃ……」
「もしかして、チューでもされた?」
上目遣いで、つばさの顔を覗きながらそう言った真理に、
つばさは大きく首を振った。振りまくった。
「してないしてない!!そうじゃなくってっ……」
真っ赤な顔で必死に否定するつばさを見て、
楽しそうに、あははと笑うと、真理はしんみりと言った。
「あんたみたいな恋愛オンチを幼馴染に持つと、
黒沢もやりづらいよね。色気もないし」
色気がない、は余計だ。
つばさが反論しようと口を開きかけた、その時、
噂の張本人、斗哉が現れた。
「めずらしいな。つばさの方が、先に学校いるなんて」
鞄を肩に背負ったまま、斗哉が机の前に立っている。
つばさは真理の視線を気にしながら、斗哉を見上げた。
「うん。なんか目が覚めたから、早く来ちゃった」
「そんなことあるんだ。いつも目覚まし3つ鳴らしても
起きないのに」
斗哉が目を丸くする。二人のやり取りを、真理が
意味深な笑みを浮かべながら見守っているので、
落ち着かない。つばさは変な汗をかいてしまいそうだった。
「あ、今日の放課後、演劇の練習あるから。
ちゃんと講堂に来いよ」
「講堂ね。わかった!」
斗哉の言葉にかぶせるように返事をする。
早くこの場から、何か言いたそうな真理から斗哉を
遠ざけたい。そう、思った瞬間、HRを告げるチャイム音が
鳴り響いた。つばさは、ホッとしながら、じゃあまた、
と斗哉に笑顔を向けた。
「こんなキレイな白雪姫を、土の中に埋めること
なんかできない」
放課後の講堂で、舞台の上に造りつけられた段ボールの
棺の中で。つばさは七人の小人に扮した、屈強な男子たち
に囲まれ、眠りについていた。青白い顔で横たわる
白雪姫に、可愛らしい小人たちが涙するあの有名な
シーン。それを柔道部だのラグビー部だのに所属する、
図体のでかい男どもが白タイツを履いて演じれば、
もはやコメディーでしかなかった。棺の中で笑いを
堪えるのが、辛い。
それでも、死んだふりをしているので、セリフはない。
実は、白雪姫が一番楽な役なんじゃないか?と、
笑いを堪えながら考えていた時、王子様役の
斗哉が、つかつかと棺に歩み寄ってきた。
青い上着に、赤いマントを翻すコスプレ姿が、
やたらと様になっている。斗哉は白雪姫が眠る
棺の前に跪き、滑らかにセリフを口にした。
「このガラスの棺を、私に譲ってもらうことが
できないのなら、せめて、生まれて初めて
恋をした白雪姫に、別れの口づけをさせて
くれないだろうか?」
悲しみに暮れる王子様の懇願に、小人たちは
一度顔を見合わせて、頷いた。
「はい。王子様ならばきっと、白雪姫も
口付けを許してくれるでしょう」
目を潤ませた小人たちが、ガラスに見立てた
透明のプラスチックを、外す。つばさは、胸の上で
組んでいる手を、ぎゅっと握りしめた。
次は、いよいよキスシーンだ。ちゃんとした
リハーサルは今日が初めてだから、緊張する。
つばさは、どきどきしながら、待った。
やがて、斗哉がつばさの顔を覗き込んで言った。
「なんと美しい。まるで眠っているようだ」
情感の込められたセリフと共に、つばさの顔に
斗哉の息がかかった。目を閉じていて斗哉の顔は
見えないが、至極近くまで迫っているのは、
瞼の裏の影でわかった。
好きって言われたことないし、そんな素振りだって、
今までまったく……」
そこまで言いかけて、つばさは口を噤んだ。昨夜の、
指先の温もりを思い出す。あれはいったい何だったのか?
斗哉の顔が頭から離れなくて、昨夜は眠れなかった。
だから、今日は、人生初の寝不足を経験してしまったのだ。
「なに?黒沢と何かあったの?」
つばさの様子に気付いた真理が、すかさず、
問い詰めてくる。
「うーん、別に、大したことじゃ……」
「もしかして、チューでもされた?」
上目遣いで、つばさの顔を覗きながらそう言った真理に、
つばさは大きく首を振った。振りまくった。
「してないしてない!!そうじゃなくってっ……」
真っ赤な顔で必死に否定するつばさを見て、
楽しそうに、あははと笑うと、真理はしんみりと言った。
「あんたみたいな恋愛オンチを幼馴染に持つと、
黒沢もやりづらいよね。色気もないし」
色気がない、は余計だ。
つばさが反論しようと口を開きかけた、その時、
噂の張本人、斗哉が現れた。
「めずらしいな。つばさの方が、先に学校いるなんて」
鞄を肩に背負ったまま、斗哉が机の前に立っている。
つばさは真理の視線を気にしながら、斗哉を見上げた。
「うん。なんか目が覚めたから、早く来ちゃった」
「そんなことあるんだ。いつも目覚まし3つ鳴らしても
起きないのに」
斗哉が目を丸くする。二人のやり取りを、真理が
意味深な笑みを浮かべながら見守っているので、
落ち着かない。つばさは変な汗をかいてしまいそうだった。
「あ、今日の放課後、演劇の練習あるから。
ちゃんと講堂に来いよ」
「講堂ね。わかった!」
斗哉の言葉にかぶせるように返事をする。
早くこの場から、何か言いたそうな真理から斗哉を
遠ざけたい。そう、思った瞬間、HRを告げるチャイム音が
鳴り響いた。つばさは、ホッとしながら、じゃあまた、
と斗哉に笑顔を向けた。
「こんなキレイな白雪姫を、土の中に埋めること
なんかできない」
放課後の講堂で、舞台の上に造りつけられた段ボールの
棺の中で。つばさは七人の小人に扮した、屈強な男子たち
に囲まれ、眠りについていた。青白い顔で横たわる
白雪姫に、可愛らしい小人たちが涙するあの有名な
シーン。それを柔道部だのラグビー部だのに所属する、
図体のでかい男どもが白タイツを履いて演じれば、
もはやコメディーでしかなかった。棺の中で笑いを
堪えるのが、辛い。
それでも、死んだふりをしているので、セリフはない。
実は、白雪姫が一番楽な役なんじゃないか?と、
笑いを堪えながら考えていた時、王子様役の
斗哉が、つかつかと棺に歩み寄ってきた。
青い上着に、赤いマントを翻すコスプレ姿が、
やたらと様になっている。斗哉は白雪姫が眠る
棺の前に跪き、滑らかにセリフを口にした。
「このガラスの棺を、私に譲ってもらうことが
できないのなら、せめて、生まれて初めて
恋をした白雪姫に、別れの口づけをさせて
くれないだろうか?」
悲しみに暮れる王子様の懇願に、小人たちは
一度顔を見合わせて、頷いた。
「はい。王子様ならばきっと、白雪姫も
口付けを許してくれるでしょう」
目を潤ませた小人たちが、ガラスに見立てた
透明のプラスチックを、外す。つばさは、胸の上で
組んでいる手を、ぎゅっと握りしめた。
次は、いよいよキスシーンだ。ちゃんとした
リハーサルは今日が初めてだから、緊張する。
つばさは、どきどきしながら、待った。
やがて、斗哉がつばさの顔を覗き込んで言った。
「なんと美しい。まるで眠っているようだ」
情感の込められたセリフと共に、つばさの顔に
斗哉の息がかかった。目を閉じていて斗哉の顔は
見えないが、至極近くまで迫っているのは、
瞼の裏の影でわかった。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる