33 / 173
episode2 おかしな三角関係
33
しおりを挟む
「これだから、恋愛オンチは……。あのね、
人を好きになるのに、時間が要らない時もあるの。
一目惚れ、って言葉もあるでしょう?とにかく、
無事に修学旅行が終わるまで、彼とは上手に
距離を取るのよ」
そう言うと、真理は日誌書かなきゃ、と、
つばさの側を離れていった。
短い入浴時間を終え、ジャージに着替えたつばさは、
ひとり廊下を歩いていた。少し先を、同室のクラスメイト
と話しながら、真理が歩いている。真理は誰とでも
仲良くできるタイプで、交友関係も広い。女子特有の
独占欲を上手くかわしながら、誰からも好かれる術は、
つばさも見習いたいほどだった。
不意に、視線を感じて、つばさは立ち止まった。
首を捻って横を向けば、昨日、涼介と話した非常口の
ドアの前に、涼介が立っている。手招きをしていた。
つばさは、遠くなるクラスメイトたちの背中に、ちら、
と一度目をやると、涼介と非常階段のドアを出た。
「どこにいたの?涼介。
ずっと側にいないから、探しちゃったよ」
非常階段の踊り場に出るなり、つばさは口を尖らせて、
涼介の背中に言った。つばさの、問いかけには答えずに、
涼介が振り返る。そこに、いつもの笑顔はない。
「あいつ、つばさの彼氏?」
「彼氏って?」
「昼間、泣いてるつばさを抱きしめてた、あの男だよ」
涼介がそう言った瞬間、つばさは目を見開いた。
涼介は見ていたのだ。ずっと。つばさには姿を見せずに、
遠くから見守っていたのかもしれない。
「違うよ、幼馴染。幼稚園からずっと一緒なの」
何となく、あの場面を見られていたことが恥ずかしくて
下を向いたつばさに、涼介は首を振る。
「でも、好きなんだろ?あいつが」
「だから。好きとか、そんなんじゃないって」
「じゃあ、俺に好きだって言われても、
つばさは困らないんだな」
「えっ?」
唐突に、信じられない言葉が耳に飛び込んできて、
つばさは顔を上げた。そして、どきりと心臓が跳ねる。
いつのまに、こんな近づいたのか……涼介の顎が、
間近にあって、つばさは、どん、と壁に背中をついた。
着替えが詰め込まれたビニールを胸に抱いて、
涼介を見上げる。涼介の手の平が、つばさの頬に触れた。
「好きなんだ。つばさが。昨日会ったばかりでも、
俺に命がなくても、やっぱり、俺はつばさが好きだ」
「りょう…すけ」
どう応えればいいかわからずに、つばさはただ、涼介の
眼差しを受け止めた。真理の言った通りだ、と、今さら
反省したところで、もう遅い。すでに、自分がこの世のもの
ではないと知りながら、それでも、涼介は好きだと伝えて
くれたのだ。笑って誤魔化すことなど、できるわけがない。
つばさは、どうすれば涼介を傷つけずに済むか………
フリーズした頭で必死に考えた。
涼介の手が、するりとつばさの頬を滑って、首筋を掴む。
悩んでいる数秒の間に、気が付けば涼介の顔が近づいて、
つばさの唇に触れようとしていた。キスされる。
そう思った瞬間、つばさの脳裏に斗哉の顔が浮かんだ。
「や…っっ!!!」
涼介の唇が触れる寸前、つばさは壁に背中を擦りながら、
しゃがみ込んだ。ジャージがめくれあがって、臍が露わになる。
「つばさ……」
頭の上で、涼介の擦れた声がして、しゃがんだまま、
つばさは首を振った。
「ごめん。涼介はいい奴だし、気持ちは嬉しいけど……
やっぱり、そういうのは無理だよ」
つばさは持っていたビニール袋に顔を埋めた。
涼介の気持ちには応えられない。その理由は、たぶん、
彼に命がないからだけではない。唇が重なると思った瞬間、
斗哉じゃなきゃ嫌だ、と思ってしまったのだ。
そのことに、つばさ自身が、とても驚いている。
斗哉は、ただの幼馴染だと、言ったばかりなのに……
「そっか。わかった」
涼介の声が聴こえて、つばさは顔を上げた。
目の前に、涼介の顔がある。けれど、その顔はいつもの、
あの笑顔だ。
人を好きになるのに、時間が要らない時もあるの。
一目惚れ、って言葉もあるでしょう?とにかく、
無事に修学旅行が終わるまで、彼とは上手に
距離を取るのよ」
そう言うと、真理は日誌書かなきゃ、と、
つばさの側を離れていった。
短い入浴時間を終え、ジャージに着替えたつばさは、
ひとり廊下を歩いていた。少し先を、同室のクラスメイト
と話しながら、真理が歩いている。真理は誰とでも
仲良くできるタイプで、交友関係も広い。女子特有の
独占欲を上手くかわしながら、誰からも好かれる術は、
つばさも見習いたいほどだった。
不意に、視線を感じて、つばさは立ち止まった。
首を捻って横を向けば、昨日、涼介と話した非常口の
ドアの前に、涼介が立っている。手招きをしていた。
つばさは、遠くなるクラスメイトたちの背中に、ちら、
と一度目をやると、涼介と非常階段のドアを出た。
「どこにいたの?涼介。
ずっと側にいないから、探しちゃったよ」
非常階段の踊り場に出るなり、つばさは口を尖らせて、
涼介の背中に言った。つばさの、問いかけには答えずに、
涼介が振り返る。そこに、いつもの笑顔はない。
「あいつ、つばさの彼氏?」
「彼氏って?」
「昼間、泣いてるつばさを抱きしめてた、あの男だよ」
涼介がそう言った瞬間、つばさは目を見開いた。
涼介は見ていたのだ。ずっと。つばさには姿を見せずに、
遠くから見守っていたのかもしれない。
「違うよ、幼馴染。幼稚園からずっと一緒なの」
何となく、あの場面を見られていたことが恥ずかしくて
下を向いたつばさに、涼介は首を振る。
「でも、好きなんだろ?あいつが」
「だから。好きとか、そんなんじゃないって」
「じゃあ、俺に好きだって言われても、
つばさは困らないんだな」
「えっ?」
唐突に、信じられない言葉が耳に飛び込んできて、
つばさは顔を上げた。そして、どきりと心臓が跳ねる。
いつのまに、こんな近づいたのか……涼介の顎が、
間近にあって、つばさは、どん、と壁に背中をついた。
着替えが詰め込まれたビニールを胸に抱いて、
涼介を見上げる。涼介の手の平が、つばさの頬に触れた。
「好きなんだ。つばさが。昨日会ったばかりでも、
俺に命がなくても、やっぱり、俺はつばさが好きだ」
「りょう…すけ」
どう応えればいいかわからずに、つばさはただ、涼介の
眼差しを受け止めた。真理の言った通りだ、と、今さら
反省したところで、もう遅い。すでに、自分がこの世のもの
ではないと知りながら、それでも、涼介は好きだと伝えて
くれたのだ。笑って誤魔化すことなど、できるわけがない。
つばさは、どうすれば涼介を傷つけずに済むか………
フリーズした頭で必死に考えた。
涼介の手が、するりとつばさの頬を滑って、首筋を掴む。
悩んでいる数秒の間に、気が付けば涼介の顔が近づいて、
つばさの唇に触れようとしていた。キスされる。
そう思った瞬間、つばさの脳裏に斗哉の顔が浮かんだ。
「や…っっ!!!」
涼介の唇が触れる寸前、つばさは壁に背中を擦りながら、
しゃがみ込んだ。ジャージがめくれあがって、臍が露わになる。
「つばさ……」
頭の上で、涼介の擦れた声がして、しゃがんだまま、
つばさは首を振った。
「ごめん。涼介はいい奴だし、気持ちは嬉しいけど……
やっぱり、そういうのは無理だよ」
つばさは持っていたビニール袋に顔を埋めた。
涼介の気持ちには応えられない。その理由は、たぶん、
彼に命がないからだけではない。唇が重なると思った瞬間、
斗哉じゃなきゃ嫌だ、と思ってしまったのだ。
そのことに、つばさ自身が、とても驚いている。
斗哉は、ただの幼馴染だと、言ったばかりなのに……
「そっか。わかった」
涼介の声が聴こえて、つばさは顔を上げた。
目の前に、涼介の顔がある。けれど、その顔はいつもの、
あの笑顔だ。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる