彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode3 転入生  神崎 嵐

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「だから、来てくれたのか。急いで来ないと、取り返しのつかない

ことになると思って……」

落ち着いた様子で、斗哉が嵐に訊いた。嵐が、まあね、と頷く。

「すでにこの怨霊は、つばさや倉科まで巻き込んでる。放って

おけば、あんたの命だって危うい。霊能一族の当主としても、

つばさの仲間としても、知らん顔するわけにはいかないからな」

にいっ、と笑って嵐がつばさの顔を見る。その余裕に満ちた

顔を見れば、どんよりと暗く沈んでいた周囲の空気までもが、

軽くなっていく。つばさは、嵐の霊能力の凄さに感動しながら、

笑みを返した。その時、面会時間の終わりを告げるアナウンスが、

病室内に流れた。時計を見れば8時半まであと5分だ。

「面会時間が終わるな」

そう言った斗哉に、嵐が頷いて立ち上がる。

「面会が終わろうが、消灯しようが、帰るわけにいかないだろ。

付き添いで残れるように、俺から話してくるよ。ついでに、毛布も

借りてくるから、つばさはそこで待ってて」

「う、うん。ありがと」

つばさは、病室から出て行こうとする嵐の背中にそう声をかけると、

さっき、懐の中で弾けた護符を思い出し、そっと、胸に手をあてた。




「付き添い用のベッドは一台しかありませんよ。

風邪引かないようにしてくださいね」

友人が心配だから付き添いたいという嵐の申し出を、渋々、承諾した

看護婦が、点滴を差し替えながら言った。窓際にあるソファーは、

ベッドにもなるらしく、つばさは、用意してもらった毛布をソファー

に積み重ねた。このベッドで、すやすや眠ることはたぶん、ない。

少なくとも、斗哉を連れて逝こうとする彼女の魂を浄霊するまでは、

静かな夜は訪れないだろうと覚悟していた。そんな、つばさの

緊張を悟ったのか、嵐が缶コーヒーを買ってきて渡してくれた。

ミルクと砂糖たっぷりのカフェ・オレだ。つばさは、ありがたく

そのコーヒーを飲みながら、常備灯に照らされたベッド横の椅子

に座った。斗哉はベッドに躰を起こしており、嵐はどっか、と

ソファーに躰を預けている。オレンジの頼りない光に、3人の顔が

浮かび上がるその様子は、まるで怪談話でもしているような

雰囲気だった。



「倉科さん、どうなったかな?」

何となく、これからやって来るであろう怨霊の話をするのが怖くて、

つばさは倉科絵里奈の名前を口にした。

「除霊が上手くいっても、彼女の今後の処罰が問題だよな」

嵐が頭の後ろで腕を組んで、眉間にシワを寄せる。

斗哉が小さく頷いて、徐に口を開いた。

「傷害罪は、相手を傷つける意図がなくても、成立するからな。

警察が今回の怪我の程度を、どう判断するかにもよるけど……

初犯で怪我が軽傷の場合は、示談で済む可能性も大きいよ」

つばさは斗哉を見た。やはり、斗哉は被害届を出すつもりが

ないらしい。つばさも、そう考えていた。

「そう上手くいけばいいけど。突き飛ばした本人に記憶もなければ、

事情聴取を受ける、つばさやあんたも、本当のところは語れない。

明日には警察が来るだろうから、何をどう語るか、今のうちに話が

食い違わないように、決めておいた方がいいんじゃないか?」

嵐にそう言われて初めて、自分たちは傷害事件の当事者なのだと

つばさは自覚する。おそらく、突き落した現場を目撃した生徒も、

事情聴取を受けているだろう。間違って自分で足を滑らせた、とも

言えないし……やはり、嵐の言う通り、何とか示談で済むよう

上手く話さなければならない。
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