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episode3 転入生 神崎 嵐
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「斗哉とデート!?」
自室の机に向かい、カタカタとパソコンのキーボードを叩いて
いた月子が、椅子ごとくるりとつばさを向いて、目を丸くした。
「でっ、デートじゃないってば!斗哉とご飯食べに行くだけ」
予想以上の月子のリアクションに、つばさは照れて動揺してしまう。
顔の前でひらひらと手を振って見せると、月子は目を細めて
くすりと笑った。
「だから。クリスマス・イブにおしゃれしてご飯食べに行くのを、
デートって言うんでしょうに。洋服ねぇ、ちょっと待ってな」
月子は、席を立ってクローゼットを開けると、つばさに似合いそう
な服を何枚か取り出した。
「あいつが喜びそうな服かぁ……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、棒立ちのつばさに、ニットワンピ
やら、ミニスカートをあてがって眺める。そうして、何枚かの服の
中から、クリスマスカラーの赤いニットに、ベージュのショートパンツ
を合わせて、どう?とつばさに聞いた。
「うーん。ちょっと派手じゃない?」
「ぜんぜん派手じゃないって。クリスマスだし、このショートパンツ
だって、ぜったい斗哉が喜ぶと思うよ?」
長い髪を掻き上げながら、鏡の中のつばさを覗き見る月子に、
つばさは、そ、そうかなあ、と渋々頷く。鏡の中の自分はあまりに
普段と違い過ぎて、この姿を斗哉に見せるのは気恥ずかしい。
「じゃあ、それで決まり。早く着替えな。メイクしてあげるから」
いつまでも鏡の前で首を捻っているつばさにそう言うと、
月子は棚の上からメイク道具を持ってきて、机に並べた。
「いいって、メイクなんて!!」
姉に言われるまま、来ていた服を脱いで首を振ったつばさに、
月子が振り返って目を見開く。
「ちょっとつばさ、その下着で行くの?」
「う、うん。そうだけど」
姉にあきれ顔でそう言われて、つばさは自分の下着を見た。
グレー系ストライプのスポブラに、深履きのペアのショーツは
今日おろしたばかりの新品だ。きょとん、としているつばさに、
ため息をついた月子は、どこからか取り出してきた自分の
下着をつばさの手にのせた。
「これ。あげるから付けて行きな」
「ええーっ!?」
ぱさ、と手の平にのせられたものを見たつばさは、
声をひっくり返した。まだ、値札がついたままのそれは、
淡いピンクのふりふりで、スケスケだ。
「やだよ!こんなの。変態じゃん」
泣きそうな顔でそう抗議したつばさに、月子がムッとした。
「どこが変態よ。そういうのは、勝負下着って言うの。
それくらい普通に皆つけてるんだから、早くしなさい!」
ぴっ、と鼻先に人差し指を突きつけられたつばさは、
月子に相談したことを、かなり後悔した。が、時すでに遅し。
まあ、別に服を脱ぐわけじゃないし、と自分に言い聞かせ
ながら、つばさは言われるがまま下着をつけて、服を
着替えた。
「それにしても。やっと斗哉は一歩踏み出す気になった
んだね。姉貴分の私としては、嬉しいよ。本当に」
つばさの顔を油とり紙で拭いながら、化粧水で潤しながら、
月子がしんみりと口にする。つばさはもう、否定することも
出来ずに、黙って頷いた。
「感謝してるしね、あいつには。あんたのこと、全力で守って
くれたじゃない?斗哉が庇ってくれなかったら、あんたに
どんな傷が残ったかと思うと……さ」
そこまで言って、微かに声を震わせた姉を、つばさはじっと
見つめた。すっと、形の良い鼻の先端が、赤く染まっている。
涙を浮かべた瞳は、長い睫毛に覆われて、見るものを惹きこむ
くらい美しい。同じ親に生まれながら、知性にも容姿にも恵まれ
た月子は、つばさにとっても、そして斗哉にとっても自慢の姉
だった。
自室の机に向かい、カタカタとパソコンのキーボードを叩いて
いた月子が、椅子ごとくるりとつばさを向いて、目を丸くした。
「でっ、デートじゃないってば!斗哉とご飯食べに行くだけ」
予想以上の月子のリアクションに、つばさは照れて動揺してしまう。
顔の前でひらひらと手を振って見せると、月子は目を細めて
くすりと笑った。
「だから。クリスマス・イブにおしゃれしてご飯食べに行くのを、
デートって言うんでしょうに。洋服ねぇ、ちょっと待ってな」
月子は、席を立ってクローゼットを開けると、つばさに似合いそう
な服を何枚か取り出した。
「あいつが喜びそうな服かぁ……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、棒立ちのつばさに、ニットワンピ
やら、ミニスカートをあてがって眺める。そうして、何枚かの服の
中から、クリスマスカラーの赤いニットに、ベージュのショートパンツ
を合わせて、どう?とつばさに聞いた。
「うーん。ちょっと派手じゃない?」
「ぜんぜん派手じゃないって。クリスマスだし、このショートパンツ
だって、ぜったい斗哉が喜ぶと思うよ?」
長い髪を掻き上げながら、鏡の中のつばさを覗き見る月子に、
つばさは、そ、そうかなあ、と渋々頷く。鏡の中の自分はあまりに
普段と違い過ぎて、この姿を斗哉に見せるのは気恥ずかしい。
「じゃあ、それで決まり。早く着替えな。メイクしてあげるから」
いつまでも鏡の前で首を捻っているつばさにそう言うと、
月子は棚の上からメイク道具を持ってきて、机に並べた。
「いいって、メイクなんて!!」
姉に言われるまま、来ていた服を脱いで首を振ったつばさに、
月子が振り返って目を見開く。
「ちょっとつばさ、その下着で行くの?」
「う、うん。そうだけど」
姉にあきれ顔でそう言われて、つばさは自分の下着を見た。
グレー系ストライプのスポブラに、深履きのペアのショーツは
今日おろしたばかりの新品だ。きょとん、としているつばさに、
ため息をついた月子は、どこからか取り出してきた自分の
下着をつばさの手にのせた。
「これ。あげるから付けて行きな」
「ええーっ!?」
ぱさ、と手の平にのせられたものを見たつばさは、
声をひっくり返した。まだ、値札がついたままのそれは、
淡いピンクのふりふりで、スケスケだ。
「やだよ!こんなの。変態じゃん」
泣きそうな顔でそう抗議したつばさに、月子がムッとした。
「どこが変態よ。そういうのは、勝負下着って言うの。
それくらい普通に皆つけてるんだから、早くしなさい!」
ぴっ、と鼻先に人差し指を突きつけられたつばさは、
月子に相談したことを、かなり後悔した。が、時すでに遅し。
まあ、別に服を脱ぐわけじゃないし、と自分に言い聞かせ
ながら、つばさは言われるがまま下着をつけて、服を
着替えた。
「それにしても。やっと斗哉は一歩踏み出す気になった
んだね。姉貴分の私としては、嬉しいよ。本当に」
つばさの顔を油とり紙で拭いながら、化粧水で潤しながら、
月子がしんみりと口にする。つばさはもう、否定することも
出来ずに、黙って頷いた。
「感謝してるしね、あいつには。あんたのこと、全力で守って
くれたじゃない?斗哉が庇ってくれなかったら、あんたに
どんな傷が残ったかと思うと……さ」
そこまで言って、微かに声を震わせた姉を、つばさはじっと
見つめた。すっと、形の良い鼻の先端が、赤く染まっている。
涙を浮かべた瞳は、長い睫毛に覆われて、見るものを惹きこむ
くらい美しい。同じ親に生まれながら、知性にも容姿にも恵まれ
た月子は、つばさにとっても、そして斗哉にとっても自慢の姉
だった。
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