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episode3 転入生 神崎 嵐
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「最高のクリスマスになるといいね」
淡いヌードピンクの口紅をつばさの唇に引きながら、月子が
笑みを深める。うん、と頷いたつばさは、次の瞬間には、あっ、
と声を漏らしていた。
「斗哉のクリスマスプレゼント、買ってなかった」
姉に顎を固定されたまま、目線だけで部屋の時計を見る。
時刻は夕方をとうに過ぎていて、買いに行く時間はとてもなかった。
「いいんじゃない、別に。ここにプレゼントあるし」
「へっ?ないよ?どこにも」
月子の言っている意味がわからず首を傾げたつばさに、
月子が人差し指を唇にあてて言った。
「大事な妹を、斗哉にプレゼント♡」
「お邪魔しまーす」
斗哉の母親に見つからないよう、インターホンを押してすぐ、
そそくさと階段を上がったつばさは、滑り込むように斗哉の
部屋に入った。ほう、と息をついてベッドに腰掛け、部屋を
見渡す。いつもと変わらない斗哉の部屋にいるのに、なぜだか
どきどきと心臓が騒いで息苦しい。
つばさは、寝ころんで漫画を読むわけにもいかず、ショート
パンツの中でごわごわするパンツを気にしながら、携帯の
ゲームで遊び始めた。が、始めてまもなく斗哉が帰ってきた。
「ごめん、遅くなった!」
駅から走ってきたのだろうか?
息を切らしながら部屋に飛び込んできた斗哉は、つばさを見るなり、
ドアノブを握りしめたまま、立ち尽くしてしまった。
大きく目を見開いたままの斗哉に、つばさがぎこちなく笑う。
「おかえり。私も、いま来たとこなんだ」
じっと、見つめられるのが恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。
そんなつばさに、斗哉は息をひとつ吐いて、目を細めた。
「びっくりした。いつもと雰囲気が違うから」
「ああ、これ?斗哉と出掛けるって言ったら、
お姉ちゃんがいろいろやってくれてさ。へん、かな?」
へへ、と視線を逸らしたまま照れ笑いをしたつばさに、
斗哉が首を振った。
「可愛いよ。すごく、似合ってる」
「かっ…か?」
初めて聞くような甘い声で、初めてそんなことを言われて、
つばさは思わず口をぱくぱくしてしまった。なのに、言った
本人は涼しい顔をして、いつものように、つばさの目の前で
服を着替えだしたのだからたまらない。つばさは、見慣れて
いるはずの斗哉の裸を直視できずに俯くと、衣擦れの音に
耳を澄ませながら、足の指先を見つめていた。
「お待たせ。行こう」
頭の上で斗哉の声がして、つばさは顔を上げた。
あっという間に支度を終えた斗哉も、今日はいつもと雰囲気が
違う。モノトーン系の服に黒のチェスターコートを羽織った姿は、
前髪を上げているせいか、いつもより大人びて見えた。
つばさは、ぎこちなく頷いて、差し伸べられた斗哉の手を握った。
斗哉に手を引かれて立ち上がる。顔が近づけば、唇に薄く
引かれた口紅を見られているようで、気恥ずかしい。
つばさは、言葉少なに、けれど、嬉しそうにつばさの手を引いて
先を行く斗哉の背中を、戸惑いながら見つめていた。
クリスマスで賑わう街中を、斗哉と歩くのは初めてじゃなかった。
つばさのゲームを選びに行くという約束をして、2人でクリスマス
の街に繰り出したのは、数年前だ。けれど、あの時はまだ、
斗哉はつばさより背が低かったし、つばさはつばさで、男の子
に間違えられることの方が多かったし、傍から見た2人の姿は、
いいところ仲良しの友達か、兄弟だった。
けれど、今日は違う。
つばさの肘から下は、斗哉がしっかり手を絡めて繋いでいる。
寄り添って歩く2人の姿は、たぶん、誰が見ても恋人同士だ。
つばさは、絶えず伝わってくる斗哉の体温に緊張しながら、
隣りを歩く斗哉を見上げた。
淡いヌードピンクの口紅をつばさの唇に引きながら、月子が
笑みを深める。うん、と頷いたつばさは、次の瞬間には、あっ、
と声を漏らしていた。
「斗哉のクリスマスプレゼント、買ってなかった」
姉に顎を固定されたまま、目線だけで部屋の時計を見る。
時刻は夕方をとうに過ぎていて、買いに行く時間はとてもなかった。
「いいんじゃない、別に。ここにプレゼントあるし」
「へっ?ないよ?どこにも」
月子の言っている意味がわからず首を傾げたつばさに、
月子が人差し指を唇にあてて言った。
「大事な妹を、斗哉にプレゼント♡」
「お邪魔しまーす」
斗哉の母親に見つからないよう、インターホンを押してすぐ、
そそくさと階段を上がったつばさは、滑り込むように斗哉の
部屋に入った。ほう、と息をついてベッドに腰掛け、部屋を
見渡す。いつもと変わらない斗哉の部屋にいるのに、なぜだか
どきどきと心臓が騒いで息苦しい。
つばさは、寝ころんで漫画を読むわけにもいかず、ショート
パンツの中でごわごわするパンツを気にしながら、携帯の
ゲームで遊び始めた。が、始めてまもなく斗哉が帰ってきた。
「ごめん、遅くなった!」
駅から走ってきたのだろうか?
息を切らしながら部屋に飛び込んできた斗哉は、つばさを見るなり、
ドアノブを握りしめたまま、立ち尽くしてしまった。
大きく目を見開いたままの斗哉に、つばさがぎこちなく笑う。
「おかえり。私も、いま来たとこなんだ」
じっと、見つめられるのが恥ずかしくて、目を逸らしてしまう。
そんなつばさに、斗哉は息をひとつ吐いて、目を細めた。
「びっくりした。いつもと雰囲気が違うから」
「ああ、これ?斗哉と出掛けるって言ったら、
お姉ちゃんがいろいろやってくれてさ。へん、かな?」
へへ、と視線を逸らしたまま照れ笑いをしたつばさに、
斗哉が首を振った。
「可愛いよ。すごく、似合ってる」
「かっ…か?」
初めて聞くような甘い声で、初めてそんなことを言われて、
つばさは思わず口をぱくぱくしてしまった。なのに、言った
本人は涼しい顔をして、いつものように、つばさの目の前で
服を着替えだしたのだからたまらない。つばさは、見慣れて
いるはずの斗哉の裸を直視できずに俯くと、衣擦れの音に
耳を澄ませながら、足の指先を見つめていた。
「お待たせ。行こう」
頭の上で斗哉の声がして、つばさは顔を上げた。
あっという間に支度を終えた斗哉も、今日はいつもと雰囲気が
違う。モノトーン系の服に黒のチェスターコートを羽織った姿は、
前髪を上げているせいか、いつもより大人びて見えた。
つばさは、ぎこちなく頷いて、差し伸べられた斗哉の手を握った。
斗哉に手を引かれて立ち上がる。顔が近づけば、唇に薄く
引かれた口紅を見られているようで、気恥ずかしい。
つばさは、言葉少なに、けれど、嬉しそうにつばさの手を引いて
先を行く斗哉の背中を、戸惑いながら見つめていた。
クリスマスで賑わう街中を、斗哉と歩くのは初めてじゃなかった。
つばさのゲームを選びに行くという約束をして、2人でクリスマス
の街に繰り出したのは、数年前だ。けれど、あの時はまだ、
斗哉はつばさより背が低かったし、つばさはつばさで、男の子
に間違えられることの方が多かったし、傍から見た2人の姿は、
いいところ仲良しの友達か、兄弟だった。
けれど、今日は違う。
つばさの肘から下は、斗哉がしっかり手を絡めて繋いでいる。
寄り添って歩く2人の姿は、たぶん、誰が見ても恋人同士だ。
つばさは、絶えず伝わってくる斗哉の体温に緊張しながら、
隣りを歩く斗哉を見上げた。
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