彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「俺がここに引っ越してきたばかりの頃だよ。あの時も、こうやって

熱出して寝込んでたら、看病にきたお前が……」

そこまで斗哉に言われて、つばさは思い出した!と声を上げた。

確かあれは、まだ、斗哉と仲良くなったばかりの頃だ。

新しい環境に疲れたのか、それとも、やんちゃなつばさに付き合って

疲れが出たのか、斗哉は高い熱を出して寝込んでしまっていた。

「もー、だいじょーぶかよ」

まっかな顔をして、苦しそうに浅い呼吸をしている斗哉を見て、

つばさは子供ながらに何とかしなければと、思ってしまったのだ。

そうして、思いついたのが、ドラマで観たワンシーンだった。

「うつせば治るよ」というセリフと共に、大人が口を合わせていた、

あの場面。つばさは、ぺろり、と唇を舐めると、寝ている斗哉に

覆いかぶさって、口を重ねた。


「………!!!」


むにゅ、と柔らかな感触にびっくりして斗哉が目を開ける。

ぱちぱち、と瞬きをしている斗哉の目を間近で見つめながら、

苦しくなったつばさは、数秒後、ぷはーっ、と口を離したのだ。

「つ、つばさちゃん……何してんの???」

あわあわ、と唇を震わせながら、自分を見上げる斗哉に、

つばさは得意そうに、にんまり笑って言った。

「こうやってうつせば、風邪が治るんだってさ。ドラマで観たんだ」

「でも……キスしたら結婚しなきゃいけないって、前に聞いたよ。

キスは結婚式でするもんなんだって」



いったい誰に聞いたのか?

半分正解で、半分間違っている話を、真剣な顔で斗哉が説明する。

つばさは、うーん、と腕を組んで考えると、じゃあ、と指を立てて言った。



「キスしちゃったから、結婚しよう」


-----幼き日の思い出である。



「あー、うん。したかもね。したした」

「思い出した?俺のファーストキスの相手が、お前なの」

くつくつ、と笑いながら斗哉が躰を起こす。

起き上がった斗哉に、つばさは体温計を差し出した。

「あれって、ファーストキスに入るのかな。

子供の頃の話だよ?」

「俺はそう思ってるけど。そうじゃなくても、お前の初めて

の相手は俺だろ?」


確認するように斗哉がつばさの顔を覗く。もちろん、

ファーストキスどころか、つばさがキスをした相手は

斗哉しかいない。けれど、斗哉は違う。あの時のキスを

カウントしなければ、斗哉のファーストキスの相手は、

元カノの倉科絵里奈なのだ。その先のことだって……

つばさは何だかモヤモヤして、無意識に口を尖らせた。

ピピッ、と電子音が鳴って斗哉が体温計を取り出す。

「37度4分……明日から登校できそうだな」

そう言うと、斗哉は思い切り両手を天井に伸ばした。


3学期が始まってすぐ、高熱を出した斗哉は、まだ数日

しか学校に行っていない。日々の猛勉強に、生徒会に、

バイトに。疲れが溜まっているところに、帰省先でスキーを

楽しんだのが、引き金になったのかもしれない。斗哉が

寝込んだのは、本当に数年ぶりなのだけど、それはそれで

よい休息になったのではないかと、つばさは思っていた。

突然、がし、と斗哉の手がつばさの首筋を掴んだ。

無防備のまま、引き寄せられて斗哉が唇を重ねる。

うつるから嫌だと言ったばかりの唇に、斗哉は躰の芯が

疼くような深い口づけを繰り返した。ちゅ、と音をさせて、

ようやく唇が離されてつばさは、斗哉の顔を睨んだ。

「うつっちゃうじゃん」

頬を上気させながらそう言っても、斗哉は微笑んで

ぺろりと唇を舐める。
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