83 / 173
episode4 帰れない道
83
しおりを挟む
「お前が寂しそうな顔してたからさ。
変に、嫉妬でもしてるんじゃないかと思って」
わしゃわしゃ、と大きな手でつばさの頭を掻きまわす。
心の中をすっかり見透かされていたことに驚きながら、
つばさはそんなんじゃないもん、と頬を膨らませた。
「そう。じゃあ、他に何かあった?俺がいない間に」
「何って?」
乱れてしまった髪を直しながら、つばさは斗哉の顔を
見つめた。何の事を言っているのやら?さっぱりわからない。
「俺の枕元で、ずっと塞ぎ込んでただろ?目を覚ますたびに
心配で、早く聞いてやらなきゃって思ってたんだけど」
「嘘、そんな顔してた?……わたし」
自分を指差したつばさに、斗哉が苦笑いをする。
看病をしているつもりが、逆に心配をかけていたなんて……
何だか情けない。
「隠し事ができないタイプだからな。わかりやすいよ、お前は。
そういうところが、俺は安心できるんだけど。で、何があった?」
すっかりいつもの顔をして、斗哉がつばさを見つめる。
つばさは、複雑な顔で頷くと、実はね……と話を切り出した。
「帰れないんだ」
「帰れないって?」
唐突に、意味不明な単語だけを口にされて、斗哉は顔を顰めた。
「話は長くなるんだけどね……」
つばさは、初めて異次元に迷い込んでしまった日の出来事から、
順を追って話した。実は、真理と会ったあの日を境に、つばさは
何度もあの場所に迷い込んでいるのだ。バスを降りてあの裏路地を
歩き出すと、突然、目の前の風景が一変してしまう。そうして、
あの鬱蒼とした畦道と、男の子の呼ぶ声。何度あの場所を訪れても
同じことの繰り返しで、掴まれた手の痕だけが日に日に濃くなってゆく。
つばさは、足首に残る手の痕を見せながら、男の子の声を思い出した。
「ここだよ。こっち、こっち」
楽しそうに自分を呼ぶあの声を、つばさは、前にも聞いたことがある
気がするのだ。いつだっただろう?それが思い出せない。そのことを
斗哉に話すと、斗哉はいっそう、眉間のシワを深くして腕を組んだ。
「お前を呼ぶ声に聞き覚えがあるなら、俺が恵ちゃんを忘れていたように、
お前も忘れている誰かがいるんじゃないか?」
もちろん、その忘れているかもしれない誰かは、当然、この世には
いないのだろう。けれど、クラスメイトの顔を思い起こしたところで、
その声の主は見つからない。つばさの知る限り、亡くなった
クラスメイトは恵ちゃん以外に思い当たらない。
「卒業してから誰がどうなったかなんてわからないし、心当たりも
ないんだけど、ずっとこんな事が続くのかと思うと、気が重くて」
つばさは怯えるように自分の腕を抱きしめて、暗い顔をした。
「なあ。神崎にはこのこと、相談してないのか?こういう、
心霊的なことに関しては、真っ先にお前が相談したい相手だろ?」
突然、斗哉の口から嵐の名前が出て、つばさはどきりとした。
実は、嵐のところには何度か足を運んだのだ。けれど、その度に
すれ違ったり、席を外していたりで、結局会えていない。
もしかして、避けられているのではないか?と思うほどで……
いや、携帯で新年のやり取りは普通にしたし、嫌われては
いないと思うのだけど……つばさは、知らず複雑な顔をして、
ため息をついた。
「嵐にも相談しようと思ったんだけど、まだ会えてないんだ。
でもね、嵐のくれた護符のお陰で帰ってこられてる気がする」
つばさはポケットから護符を取り出して斗哉に見せた。
真っ二つに割れたその板を、今も毎日持ち歩いている。
「あ、斗哉がくれたお守りも、ちゃんと持ってるからね」
「わかってるよ、そんなこと。神崎には俺も助けてもらってるし、
あいつが頼りになるのは十分わかってるからさ」
斗哉が苦笑いをして、首を振った。
変に、嫉妬でもしてるんじゃないかと思って」
わしゃわしゃ、と大きな手でつばさの頭を掻きまわす。
心の中をすっかり見透かされていたことに驚きながら、
つばさはそんなんじゃないもん、と頬を膨らませた。
「そう。じゃあ、他に何かあった?俺がいない間に」
「何って?」
乱れてしまった髪を直しながら、つばさは斗哉の顔を
見つめた。何の事を言っているのやら?さっぱりわからない。
「俺の枕元で、ずっと塞ぎ込んでただろ?目を覚ますたびに
心配で、早く聞いてやらなきゃって思ってたんだけど」
「嘘、そんな顔してた?……わたし」
自分を指差したつばさに、斗哉が苦笑いをする。
看病をしているつもりが、逆に心配をかけていたなんて……
何だか情けない。
「隠し事ができないタイプだからな。わかりやすいよ、お前は。
そういうところが、俺は安心できるんだけど。で、何があった?」
すっかりいつもの顔をして、斗哉がつばさを見つめる。
つばさは、複雑な顔で頷くと、実はね……と話を切り出した。
「帰れないんだ」
「帰れないって?」
唐突に、意味不明な単語だけを口にされて、斗哉は顔を顰めた。
「話は長くなるんだけどね……」
つばさは、初めて異次元に迷い込んでしまった日の出来事から、
順を追って話した。実は、真理と会ったあの日を境に、つばさは
何度もあの場所に迷い込んでいるのだ。バスを降りてあの裏路地を
歩き出すと、突然、目の前の風景が一変してしまう。そうして、
あの鬱蒼とした畦道と、男の子の呼ぶ声。何度あの場所を訪れても
同じことの繰り返しで、掴まれた手の痕だけが日に日に濃くなってゆく。
つばさは、足首に残る手の痕を見せながら、男の子の声を思い出した。
「ここだよ。こっち、こっち」
楽しそうに自分を呼ぶあの声を、つばさは、前にも聞いたことがある
気がするのだ。いつだっただろう?それが思い出せない。そのことを
斗哉に話すと、斗哉はいっそう、眉間のシワを深くして腕を組んだ。
「お前を呼ぶ声に聞き覚えがあるなら、俺が恵ちゃんを忘れていたように、
お前も忘れている誰かがいるんじゃないか?」
もちろん、その忘れているかもしれない誰かは、当然、この世には
いないのだろう。けれど、クラスメイトの顔を思い起こしたところで、
その声の主は見つからない。つばさの知る限り、亡くなった
クラスメイトは恵ちゃん以外に思い当たらない。
「卒業してから誰がどうなったかなんてわからないし、心当たりも
ないんだけど、ずっとこんな事が続くのかと思うと、気が重くて」
つばさは怯えるように自分の腕を抱きしめて、暗い顔をした。
「なあ。神崎にはこのこと、相談してないのか?こういう、
心霊的なことに関しては、真っ先にお前が相談したい相手だろ?」
突然、斗哉の口から嵐の名前が出て、つばさはどきりとした。
実は、嵐のところには何度か足を運んだのだ。けれど、その度に
すれ違ったり、席を外していたりで、結局会えていない。
もしかして、避けられているのではないか?と思うほどで……
いや、携帯で新年のやり取りは普通にしたし、嫌われては
いないと思うのだけど……つばさは、知らず複雑な顔をして、
ため息をついた。
「嵐にも相談しようと思ったんだけど、まだ会えてないんだ。
でもね、嵐のくれた護符のお陰で帰ってこられてる気がする」
つばさはポケットから護符を取り出して斗哉に見せた。
真っ二つに割れたその板を、今も毎日持ち歩いている。
「あ、斗哉がくれたお守りも、ちゃんと持ってるからね」
「わかってるよ、そんなこと。神崎には俺も助けてもらってるし、
あいつが頼りになるのは十分わかってるからさ」
斗哉が苦笑いをして、首を振った。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる