彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「そういうことなら、明日からは、俺も一緒に帰るよ」

「えっ、でも、斗哉は生徒会あるし、帰りが遅いんじゃ……」

「まあ、少しは遅くなるけど。教室で待っててくれれば、

一緒に帰れるだろう?」

「それはまあ、そうだけど……」

まだ、青白い顔で笑みを深めた斗哉に、つばさは頷いてしまった。

病み上がりの斗哉を巻き込むのは気が引ける。けれど、また、

ひとりであの場所に飛ばされるのも、同じくらい気が引ける。

「ありがとう、斗哉」

つばさは、斗哉の優しさに素直に甘えることにした。




翌日の放課後、斗哉を待つために教室に残ったつばさは、

教室を後にするクラスメイトたちの背中を見送っていた。

その中に、ちらちらとこちらを振り返りながら、つばさが手を

振っても、視線だけを投げかけて出て行く女子生徒が数人。

自分に向けられる視線が、いっそう冷ややかなものになって

いることに憂鬱になったつばさの視界に、ドアの向こうを歩く

嵐の姿が映った。

「嵐っ!!!」

つばさは、思わず大声で叫んで教室の入り口まで走った。

びっくりしたように目を見開いて嵐が足を止める。振り返って

つばさの顔を見ると、バツが悪そうに、久しぶり、と、はにかんで見せた。

「俺になにか用?」

用も何も……ずっと探していて、やっと会えたというのに……

どことなくよそよそしい嵐の態度に、つばさは、やはり避けられて

いたのだと気付く。そして、気付いてしまえば、沸々と湧き上がる

感情を止められなかった。

「なにか用って、ずっと嵐のこと探してたのに。そっちこそ、

なにか面白くないことがあるなら言ってよ。言ってくれなきゃ、

何にもわかんないよ!!」

数週間前とは明らかに違う嵐の態度に、不安が爆発する。

せっかく、分かり合える仲間ができたと思っていたのに、

何でも相談できる友達ができたと思ったのに。

こんな風に避けられたりしたら、堪らない。目に涙を溜めて、

キッ、っと嵐を睨みつける。廊下を歩く他の生徒たちが、

自分たちに好奇の目を向けているのがわかる。それでも、

嵐はつばさから目を逸らすことなくじっと、見つめると

周囲の生徒に気を留めるでもなく、つばさの前に立った。

「ごめん。つばさは何にも悪くないよ。でも、ここじゃ何だから、

場所を変えよう」

そう言うが早いか、くるりと踵を返して、嵐が廊下の先を行く。

その背中に、つばさは慌てて声をかけた。

「私っ、教室で斗哉を待ってなきゃならないんだ。

だから、ここで………話聞いて欲しいんだけど」

斗哉の名前を聞いた瞬間、嵐の顔が強張った気がして、

最後の方は声のトーンが下がる。

けれどすぐに、そっか、と嵐が笑みを見せてくれたので、

つばさは気のせいだと思うことにした。




「それで、話って?」

廊下から離れた一番窓側の椅子に腰かけて、嵐が壁に背を

預ける。廊下側の窓から2人の様子は見てとれるが、ドアを

閉めれば話し声までは聴こえない。つばさは、嵐の隣の席に

座って、嵐を向いた。

「ねぇ。本当に、何も怒ってない?」

「だから何も怒ってないって。

……それより、黒沢と上手くいったみたいだな」

肩を竦めて笑った嵐が、唐突に、話の矛先を変えたので、

つばさはポカンと口を開ける。

「上手くいったって、何が?」

「付き合うことになったんだろ?クラスの女子が噂してるの、

聞いたんだ。黒沢に告白したけど、彼女がいるって言われ

たって。その相手がつばさだってことも……そこらじゅう話が

広がってるよ」

「嘘。そんなの、ぜんぜん知らなかった」
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