彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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つばさは、ついさっき、自分に向けられたクラスメイトの冷やや

かな視線を思い出した。新学期が始まってから、ここ数日の

居心地の悪さは、それが原因らしい。噂というものは、案外、

当人の耳には入らないものなのだ。そもそも、斗哉は数日

しか登校していないというのに、いつ告白されたのだろう?

自分は何も聞いていない。

ふと、つばさは、嵐の視線に気付いてぎこちなく笑った。

「もしかして、そのことで気を遣って、私のこと避けてた?」

「つばさは何も悪くない」という嵐の言い回しが、どうも引っか

かっていたのだ。だから、何もないと言われても、やはり、

額面通りに受け取ることはできなかった。


「まあ、それもあるけど……俺の方の都合も、あるっていうか……

それより、俺に相談したいことがあるんだろ?何があった?」

何となく含みを持たせたまま、嵐が話を区切って先を促す。

つばさはもう、それ以上詮索することができずに、実はね、と

話を切り出した。

「今まで普通に帰れた道が、ある日突然、別の場所に繋がるように

なったわけか。もともと、その場所の時空に歪みがあるんだろうけど……

一人で不安だったな」

昨日、斗哉にも話した内容を一通り話し終えたつばさは、嵐の言葉に

深く頷いた。

「斗哉にも言ったけど、あの男の子の声に聞き覚えがあるんだよね。

でも、思い出せないの。なんでかな?」

「つばさにとっては、その声の主との思い出が些細なものでも、

相手にとってはすごく大事な思い出だったりすることもあるからな。

思い出せないのは、仕方ないよ」

嵐が頬杖をついて、廊下の向こうに目をやる。教室の前を通る生徒は

おらず、2人きりの教室は至って静かだ。つばさは頷きながら、嵐の

次の言葉を待った。

「何か手がかりを掴むためにも、俺が一緒に帰った方がいいんだろう

けど……黒沢が付き添ってくれるんだろ?俺がいたら、邪魔だよな」

遠くに目をやったままで、嵐がつばさに訊く。つばさは、身を乗り出して

大きく首を振った。


「そんなことないって!斗哉だって嵐に相談した方がいいって言ってたし、

嵐がいてくれなきゃ困るし、来てくれるなら、本当に心強いよ!!」

つばさは必死に嵐に食い下がった。事実、嵐の力がなければ、今回の

一件も解決できる気がしない。助けてもらってばかりで申し訳ないが、

一人よりも二人、二人よりも三人だ。

「わ、わかったから。落ち着けって」

ぐい、と顔を近づけたつばさに、嵐はのけ反りながら両手で制した。

「じゃあ、行ってくれる?」

尚も心配そうに嵐の顔を覗くつばさに、笑って頷く。

よかったぁ、と胸を撫で下ろしたつばさを見つめて、嵐がぼそりと言った。

「つばさの頼みを、断れるわけないじゃん」

嵐のその声が、つばさの耳に届くことはなかった。





「よく考えてみたら、自分から異次元に飛ばされに行くって言うのも、

不思議な話だよな」

つばさの隣で、すん、と鼻をすすりながら斗哉が言った。

ホントだね、とつばさも頷く。

「しかも、飛ばされた後は出たとこ勝負だからな。鬼が出るか蛇が出るか……」

2人の前を歩いている嵐が、前を向いたままで言う。嵐がいれば、鬼が出ても

蛇が出ても何とかなりそうだけど……バスを降りて例の裏路地に向かいながら、

つばさはごくりと唾を呑んだ。やがて、その場所が見えてくる。

つばさは、ねぇ、と立ち止まって2人を呼び止めた。
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