81 / 173
episode4 帰れない道
81
しおりを挟む
「ここ、何処???」
つばさは、その場に立ち尽くしたまま、きょろきょろと辺りを見渡した。
つばさが立っているのは、鬱蒼と木々が生い茂った畦道で、
木漏れ日が、あやとりの糸のように視界の先を照らしている。
今は12月の終わりで、自分は黄昏時の街を歩いていたはずだ。なのに、
一瞬にして変わってしまったその場所は、じわりと汗ばむほどの熱気と
明るい日差しが射し込んでいて、ここが、まったく別の場所であることを
告げていた。つばさは、ごくりと唾を呑んで、スカートのポケットに手を入れた。
硬い感触がある。嵐がくれた護符だ。
つばさは、人ならぬ者の気配をそこかしこに感じながら、恐る恐る、
歩き始めた。柔らかな土の感触を踏みしめ、先に進む。ここが、どこかの
山の中であることは間違いない。きっと、あの場所は時空が歪んでいたのだ。
そんなことを思いながら、いっそう薄暗い空間に足を踏み入れた時だった。
ざあ、と強い風が吹き荒れ、つばさは咄嗟に顔を覆った。
風に混ざり、どこからともなく、声が聴こえてくる。
「ここだよ……ねぇ。こっち……こっち」
男の子だろうか?
舌足らずなその声は、まるで、隠れん坊でもしているかのように、
つばさを呼んでいる。
「どこにいるの!?わかんないよ!!」
つばさは、辺りをぐるりと見回しながら叫んだ。
次の瞬間、にゅっ、と地面から伸びてきた手が、右足首を掴んだ。
痛いほどに心臓が跳ねる。恐る恐る足元を見たつばさは、
自分の足首を掴んでいる青白い子供の手を見て、悲鳴を上げた。
「いやぁぁっ!!」
叫び声と共に、ポケットの中の護符が割れる。突然、ぐにゃり、
と視界が歪んで、つばさは元来た裏路地に放り出された。
一瞬のことに、呆けてその場に座り込んでしまう。
辺りに人影はなく、子供の姿もない。掴まれた右足に目をやった。
そこにはくっきりと、赤い子供の手の痕が残されていた。
カーテンの隙間から月明かりが細く伸びている。
薄暗い部屋の中で、つばさは斗哉の額に滲む汗をそっと拭った。
額に手をあてる。昨日よりも、だいぶ下がっているようだ。
(良かった)
つばさは、ほっとして手を引っ込めようとした。その手を、がしり、と
斗哉の手が掴む。びっくりして顔を覗き込むと、斗哉が目を開けて、
つばさを見上げていた。
「ごめん。起こしちゃった?」
囁くようにそう言ったつばさに、斗哉が笑って首を振る。
「少し前から起きてた」
「えっ、そうなの?」
「お前がキスでもしてくれるんじゃないかと思って、待ってた」
掴んでいた手を離して、つばさの頬に斗哉が手を伸ばす。
昨日は40度近い熱があったというのに、熱が下がれば
斗哉の顔はすっかり恋人のものだ。
「やだよ。風邪、うつっちゃうもん」
「してくれただろ?昔は」
「そ、そんなことしたっけ?」
目を丸くして首を傾げるつばさに、何だ、覚えてないのか?
と、呆れたように目を細めて斗哉が頷いた。
つばさは、その場に立ち尽くしたまま、きょろきょろと辺りを見渡した。
つばさが立っているのは、鬱蒼と木々が生い茂った畦道で、
木漏れ日が、あやとりの糸のように視界の先を照らしている。
今は12月の終わりで、自分は黄昏時の街を歩いていたはずだ。なのに、
一瞬にして変わってしまったその場所は、じわりと汗ばむほどの熱気と
明るい日差しが射し込んでいて、ここが、まったく別の場所であることを
告げていた。つばさは、ごくりと唾を呑んで、スカートのポケットに手を入れた。
硬い感触がある。嵐がくれた護符だ。
つばさは、人ならぬ者の気配をそこかしこに感じながら、恐る恐る、
歩き始めた。柔らかな土の感触を踏みしめ、先に進む。ここが、どこかの
山の中であることは間違いない。きっと、あの場所は時空が歪んでいたのだ。
そんなことを思いながら、いっそう薄暗い空間に足を踏み入れた時だった。
ざあ、と強い風が吹き荒れ、つばさは咄嗟に顔を覆った。
風に混ざり、どこからともなく、声が聴こえてくる。
「ここだよ……ねぇ。こっち……こっち」
男の子だろうか?
舌足らずなその声は、まるで、隠れん坊でもしているかのように、
つばさを呼んでいる。
「どこにいるの!?わかんないよ!!」
つばさは、辺りをぐるりと見回しながら叫んだ。
次の瞬間、にゅっ、と地面から伸びてきた手が、右足首を掴んだ。
痛いほどに心臓が跳ねる。恐る恐る足元を見たつばさは、
自分の足首を掴んでいる青白い子供の手を見て、悲鳴を上げた。
「いやぁぁっ!!」
叫び声と共に、ポケットの中の護符が割れる。突然、ぐにゃり、
と視界が歪んで、つばさは元来た裏路地に放り出された。
一瞬のことに、呆けてその場に座り込んでしまう。
辺りに人影はなく、子供の姿もない。掴まれた右足に目をやった。
そこにはくっきりと、赤い子供の手の痕が残されていた。
カーテンの隙間から月明かりが細く伸びている。
薄暗い部屋の中で、つばさは斗哉の額に滲む汗をそっと拭った。
額に手をあてる。昨日よりも、だいぶ下がっているようだ。
(良かった)
つばさは、ほっとして手を引っ込めようとした。その手を、がしり、と
斗哉の手が掴む。びっくりして顔を覗き込むと、斗哉が目を開けて、
つばさを見上げていた。
「ごめん。起こしちゃった?」
囁くようにそう言ったつばさに、斗哉が笑って首を振る。
「少し前から起きてた」
「えっ、そうなの?」
「お前がキスでもしてくれるんじゃないかと思って、待ってた」
掴んでいた手を離して、つばさの頬に斗哉が手を伸ばす。
昨日は40度近い熱があったというのに、熱が下がれば
斗哉の顔はすっかり恋人のものだ。
「やだよ。風邪、うつっちゃうもん」
「してくれただろ?昔は」
「そ、そんなことしたっけ?」
目を丸くして首を傾げるつばさに、何だ、覚えてないのか?
と、呆れたように目を細めて斗哉が頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる