100 / 173
episode4 帰れない道
100
しおりを挟む
対岸までは、かなりある。この寒空の下、向こうまで泳いで渡るのは
不可能だろう。そして振り返れば背後に広がっているのは断崖絶壁で、
ここも登ることなど出来そうになかった。
「……どうしよう」
つばさは、初めて自分たちが置かれている状況に気付いて顔を青くした。
「きっと今頃、黒沢が動いてくれてるだろ。俺たちはここで待つしかないよ。
凍死しないようにしながら、な」
そう言うや否や、嵐は立ち上がって次々と服を脱ぎ始めた。どさ、と水分を
含んだコートが投げ出されて、その上に、同じく水分を含んだニット、シャツが
積み上げられていく。つばさは、瞬く間に露わになった嵐の上半身を見て、
今度は顔を赤くした。
「ちょ、ちょっと!!何やってんの、嵐っ!!」
両手で顔を覆いながらも、指の隙間から嵐の躰をチラ見してしまう。
斗哉も無駄な肉ひとつない引き締まった躰だけど、嵐もかなり筋肉質だ。
細いのに腹筋が割れているのがわかる。
「仕方ないだろ?ここは山の中で、今は一月だ。夜まで助けが来なかったら
気温は氷点下になる。今だって濡れた服で体温が下がってるのに、このまま
何時間も待ってたら、凍死しない保証はないよ」
そう言いながら、嵐は脱いだニットをぎゅっ、と絞った。ポタポタと水滴が垂れて、
砂に染みが出来る。そうして、ジーパンまでも脱ぎ捨てるとつばさを振り返った。
「つばさも早く脱げよ。濡れたままの服着てると気持ち悪いし、体温奪われる
だろう?ニットは絞ればすぐに水が切れるから、俺に貸して」
「ええーっ、私もっ!?いっ、いいよ……だって、恥ずかしいし……」
あはは、と乾いた笑いをしながら、つばさはひらひらと顔の前で手を振った。
嵐はパンツ一枚というあられもない姿なのに、恥ずかしがる様子もなく、
いつもの顔で首を振る。
「そんな真っ青な唇で、ガタガタ震えながら何言ってんの?
別に何かしようとか思ってないから、早く脱いで服貸して」
そこまで言うと、ふい、と背を向けて、ばさりとコートの水を切り始める。
その様子を見れば、まるで自分だけが意識しているようで、つばさは
何となく傷付いてしまった。つばさだって、花も恥じらう17歳だ。
まったく女として意識されなければ、それはそれで悲しい。
「わかった。脱げばいいんでしょ、脱げば」
つばさは口を尖らせると、嵐に背を向けて、服を脱ぎ始めた。
重いコートを脱ぎ捨てて、カーディガンのボタンを外す。嵐の言う通り、
冷たいシャツがぴったり躰に張りついていて、気持ち悪い。
日差しはまだ、うっすらと空に残っていたけれど、冷たい風が濡れた
服越しに体温を奪っていくのがわかる。つばさはガタガタ震えながら、
下着姿になった。
「おいで」
胸を隠すように、両腕を握りしめていたつばさを、嵐が呼んだ。振り返れば、
コートを犠牲にして、その上に体育座りをした嵐が手を差し伸べている。
どうやら、躰を温め合おう、ということらしい。つばさは目を見開いて、
顔を赤くした。
「ごめん。嫌だろうけど、間違って凍死したくないからさ。今だけ我慢して」
さっきとは違う優しい声で言って、嵐がつばさの顔を覗く。その顔を見れば、
つばさの服を脱がせるために、あえて素っ気なく言ったのだとわかる。
嵐の頬は僅かに上気していた。つばさは、素直に頷くと、嵐の手を取って
躰を預けた。自分の足の間に座ったつばさを、抱きしめるようにして
水を切ったカーディガンで覆う。嵐も肩からニットをかけていたが、
それよりも、直接触れあっている肌が一番温かいはずだ。凍えてしまい
そうだった指先も、嵐が両手で包んで体温をくれる。辺りはだんだん
薄暗くなって、空気もさらに冷たさを増していたけれど、濡れた服を着て
いたときよりも、寒くはなかった。
不可能だろう。そして振り返れば背後に広がっているのは断崖絶壁で、
ここも登ることなど出来そうになかった。
「……どうしよう」
つばさは、初めて自分たちが置かれている状況に気付いて顔を青くした。
「きっと今頃、黒沢が動いてくれてるだろ。俺たちはここで待つしかないよ。
凍死しないようにしながら、な」
そう言うや否や、嵐は立ち上がって次々と服を脱ぎ始めた。どさ、と水分を
含んだコートが投げ出されて、その上に、同じく水分を含んだニット、シャツが
積み上げられていく。つばさは、瞬く間に露わになった嵐の上半身を見て、
今度は顔を赤くした。
「ちょ、ちょっと!!何やってんの、嵐っ!!」
両手で顔を覆いながらも、指の隙間から嵐の躰をチラ見してしまう。
斗哉も無駄な肉ひとつない引き締まった躰だけど、嵐もかなり筋肉質だ。
細いのに腹筋が割れているのがわかる。
「仕方ないだろ?ここは山の中で、今は一月だ。夜まで助けが来なかったら
気温は氷点下になる。今だって濡れた服で体温が下がってるのに、このまま
何時間も待ってたら、凍死しない保証はないよ」
そう言いながら、嵐は脱いだニットをぎゅっ、と絞った。ポタポタと水滴が垂れて、
砂に染みが出来る。そうして、ジーパンまでも脱ぎ捨てるとつばさを振り返った。
「つばさも早く脱げよ。濡れたままの服着てると気持ち悪いし、体温奪われる
だろう?ニットは絞ればすぐに水が切れるから、俺に貸して」
「ええーっ、私もっ!?いっ、いいよ……だって、恥ずかしいし……」
あはは、と乾いた笑いをしながら、つばさはひらひらと顔の前で手を振った。
嵐はパンツ一枚というあられもない姿なのに、恥ずかしがる様子もなく、
いつもの顔で首を振る。
「そんな真っ青な唇で、ガタガタ震えながら何言ってんの?
別に何かしようとか思ってないから、早く脱いで服貸して」
そこまで言うと、ふい、と背を向けて、ばさりとコートの水を切り始める。
その様子を見れば、まるで自分だけが意識しているようで、つばさは
何となく傷付いてしまった。つばさだって、花も恥じらう17歳だ。
まったく女として意識されなければ、それはそれで悲しい。
「わかった。脱げばいいんでしょ、脱げば」
つばさは口を尖らせると、嵐に背を向けて、服を脱ぎ始めた。
重いコートを脱ぎ捨てて、カーディガンのボタンを外す。嵐の言う通り、
冷たいシャツがぴったり躰に張りついていて、気持ち悪い。
日差しはまだ、うっすらと空に残っていたけれど、冷たい風が濡れた
服越しに体温を奪っていくのがわかる。つばさはガタガタ震えながら、
下着姿になった。
「おいで」
胸を隠すように、両腕を握りしめていたつばさを、嵐が呼んだ。振り返れば、
コートを犠牲にして、その上に体育座りをした嵐が手を差し伸べている。
どうやら、躰を温め合おう、ということらしい。つばさは目を見開いて、
顔を赤くした。
「ごめん。嫌だろうけど、間違って凍死したくないからさ。今だけ我慢して」
さっきとは違う優しい声で言って、嵐がつばさの顔を覗く。その顔を見れば、
つばさの服を脱がせるために、あえて素っ気なく言ったのだとわかる。
嵐の頬は僅かに上気していた。つばさは、素直に頷くと、嵐の手を取って
躰を預けた。自分の足の間に座ったつばさを、抱きしめるようにして
水を切ったカーディガンで覆う。嵐も肩からニットをかけていたが、
それよりも、直接触れあっている肌が一番温かいはずだ。凍えてしまい
そうだった指先も、嵐が両手で包んで体温をくれる。辺りはだんだん
薄暗くなって、空気もさらに冷たさを増していたけれど、濡れた服を着て
いたときよりも、寒くはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる