彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode4 帰れない道

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「ありがとう、つばさちゃん。僕を見つけてくれて」

声もなく、つばさは首を振る。まさか、こんな形で再会する日が来るなど、

あの時は想像もしていなかった。またね、と無邪気に笑って別れた春樹君の

顔が被って見える。せめて、冷たい湖の底から助けることができて良かった

と、そう思うしかないのだろうか?

「あのお家がなくなる前に、どうしても見つけて欲しかったんだ。

だから、かくれんぼが上手だったつばさちゃんを、呼んじゃった。

きっと、僕を見つけてくれるって思ったから」

へへ、と春樹君がいたずらっ子のような顔を見せる。あの夏、

かくれんぼをしてつばさに見つかった時も、やはり、こんな顔をして

笑っていたのだと思い出す。思い出してしまえば、鼻先がツンと痛んで、

つばさは無理に笑って見せた。そのつばさの耳元で、嵐が囁く。

「……ご両親が、来た」

嵐が視線を向ける先に目をやれば、さっき、ベッドの片隅で泣いて

いた母親と、この場所をつばさに教えた父親が立っていた。春樹君が

その姿を見つけて駆け寄っていく。父と母の腕に飛び込んで顔を

埋めると、つばさを振り返って満面の笑みを向けた。

「つばさちゃん、僕、もう逝くね」

そう言った春樹君の後ろで、父親と母親がつばさに頭を下げる。

別荘で見た時は恐ろしくさえあったのに、春樹君を前に見せる

表情は、ごく普通の親のものだ。

「うん。さよなら、春樹君」

つばさが笑って手を振った瞬間、風に吸い込まれるように、すっ、と

親子の姿が消える。それは、涼介の時と同じように一瞬のことで、

あっけなく消えてしまった空間から、つばさはしばらく目を離すことが

できなかった。




「終わったな」

その声にはっとして顔を上げる。嵐を見れば、その顔が見事に

滲んで見えて、つばさは自分が泣いているのだと気付かされる。

「ほら」

嵐が手の平で、ぐい、と頬を拭う。その仕草があまりに自然過ぎて、

つばさは照れる間もなかった。ありがと、と笑って鼻を啜ったその時、

ぽろり、と足首から何かが落ちた。「あ」と声を漏らして目をやれば、

春樹君の手が外れて砂の上に落ちている。あんなにくっきり残って

いた手の痕も綺麗に消えていて、これですべてが終わったのだと

告げていた。



「さて、どうするかな」

「どうするって?」

懐のポケットから携帯を取り出した嵐に、つばさは首を傾げて訊いた。

「携帯。水に浸かって壊れちゃったからさ」

電源を入れても反応しない携帯を見せて、嵐がため息をつく。

つばさは、ああ、それなら、と明るい声で言って自分の携帯を取り出した。

「私のなら大丈夫かも。防水機能ついてるんだ、ほら」

手に取って電源を押す。けれど、液晶画面に出てきたのは充電切れを

示す空っぽの電池のマークだけで、電話をしようにも肝心のホーム画面が

表示されなかった。

「……ごめん、ダメみたい……」

がっくりと肩を落としたつばさに、嵐は少々白けた顔をした。

「そう言えばさ、この間俺が連絡先渡した時も、充電空っぽだったよな」

この間……と言うのは終業式の日ことだ。つばさも覚えている。

別に充電を怠っているわけじゃないのだけど、携帯が古いからか、すぐに

充電が切れてしまうのだ。けれど、いま、そんなことを言い訳したところで

何も始まらない。携帯を使えないということは、斗哉に連絡できないという

ことで………もっと端的に言えば、自分たちは助けを呼ぶことが出来ない、

ということだ。つばさは目の前の湖に目をやった。
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