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episode4 帰れない道
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「めずらしいな」
翌日の昼休み。ひとり、屋上で休んでいた嵐は、出入り口から歩いてくる
人物を見て目を見開いた。二学年を表す赤いネクタイを風に靡かせて、
斗哉が向かってくる。
「クラスの奴に聞いたら、屋上だろうって言われたからさ。ここ、いいか?」
古びたベンチの端に腰掛けながら、斗哉が缶コーヒーを差し出す。
嵐は、どうも、と言ってそれを受け取ると、ペリリ、とアルミキャップを捻った。
ひとくち、ふたくち、と喉に流し込んで息を吐く。うっすらと白い息が
吐かれたのを見て、斗哉も同じ缶コーヒーのキャップを捻った。
「元気そうで安心したよ。風邪でも引いてなきゃいいな、って思ってたからさ」
そう言った斗哉に、嵐は前を向いたままで、ふ、と息を漏らした。
「そんな、心にも思ってないこと言いにわざわざここへ来たのか。
案外、暇なんだな。生徒会長って」
いつもの涼しい顔で、嵐が憎まれ口をたたく。そんな嵐に、斗哉もまた、
前を向いたままで、笑った。
「本当に、そう思ってるからわざわざ来たんだよ。倉科の一件から
こっち、嵐には救われてばっかりだからな。つばさが元気に帰って
こられたのも、お前のお陰だし。感謝してるよ、本当に」
嵐の物言いに臆することなく、感謝していると、そう言った斗哉に、
嵐は一度、チラと視線を向ける。そうして、息を吐くと、別に、と呟いた。
「俺がしたくて、やったことだから。黒沢に礼を言われる謂れはないよ」
突き放すように言って、またコーヒーを口に含む。斗哉は、その横顔に
僅かな苛立ちを垣間見ながら、慎重に言葉を選んだ。
「それでも、俺たちが神崎の世話になってることは変わりないだろ?
だからといって、俺としては、その礼をつばさからお前に返させるわけにも
いかないんだ。つばさがお前から受け取ってる護符の礼も含めて、な」
その言葉を聞いた瞬間、嵐は目を見開いた。
そうして、じっと自分を見つめる、斗哉に目を向ける。待っていたのは、
心を見透かすような、そんな眼差しで、嵐は眉間にシワを寄せた。
「………起きてたのか。悪趣味だな。盗み聞きなんて」
低い声でそう言って、アルミ缶を握りしめる。ペキ、と缶が軋む音がして
斗哉は、はは、と乾いた笑いをした。
「別に、狸寝入りしてたわけじゃないよ。ただ、目を閉じたけど眠れな
かったんだ。本当に。まあそのお陰で、気になる話が訊けたんだけどな」
斗哉はつい、と嵐の視線をかわすと、高くそびえるフェンスの向こうを
見やった。そうして、徐に、口を開いた。
「やっぱり……好きなのか。つばさが……」
「……………」
斗哉の問いかけに、返ってくる返事はない。けれど、その沈黙が意味する
ものは、肯定だった。斗哉は、細く息を吐いて、続けた。
「何を望んでるんだ?……つばさに」
「……………」
重ねた問いかけにも、嵐は答えない。答えられるわけがないと、
そう思いながら斗哉が訊いているのだと、嵐はわかっているはずだ。
嵐は、缶コーヒーを煽るように口に含んだ。
「キスしてやろうか。俺が」
唐突に、斗哉にそんなことを言われて、嵐は思いきりコーヒーを吹き出した。
ゲホッ、ゴホッ、と苦しそうに咳込む。斗哉はその様子を見て、
くつくつと可笑しそうに笑った。
「お前っ……タイミング見計らってただろう!!」
「いや、そこまで狙ったわけじゃないけど……絶妙だったな」
憎らしそうに斗哉を睨む嵐に、ほら、とハンカチを差し出す。
嵐はそのハンカチを一瞥すると、ぐい、と手の甲で口を拭った。
斗哉が立ち上がる。数歩足を踏み出して、そうして立ち止まった。
翌日の昼休み。ひとり、屋上で休んでいた嵐は、出入り口から歩いてくる
人物を見て目を見開いた。二学年を表す赤いネクタイを風に靡かせて、
斗哉が向かってくる。
「クラスの奴に聞いたら、屋上だろうって言われたからさ。ここ、いいか?」
古びたベンチの端に腰掛けながら、斗哉が缶コーヒーを差し出す。
嵐は、どうも、と言ってそれを受け取ると、ペリリ、とアルミキャップを捻った。
ひとくち、ふたくち、と喉に流し込んで息を吐く。うっすらと白い息が
吐かれたのを見て、斗哉も同じ缶コーヒーのキャップを捻った。
「元気そうで安心したよ。風邪でも引いてなきゃいいな、って思ってたからさ」
そう言った斗哉に、嵐は前を向いたままで、ふ、と息を漏らした。
「そんな、心にも思ってないこと言いにわざわざここへ来たのか。
案外、暇なんだな。生徒会長って」
いつもの涼しい顔で、嵐が憎まれ口をたたく。そんな嵐に、斗哉もまた、
前を向いたままで、笑った。
「本当に、そう思ってるからわざわざ来たんだよ。倉科の一件から
こっち、嵐には救われてばっかりだからな。つばさが元気に帰って
こられたのも、お前のお陰だし。感謝してるよ、本当に」
嵐の物言いに臆することなく、感謝していると、そう言った斗哉に、
嵐は一度、チラと視線を向ける。そうして、息を吐くと、別に、と呟いた。
「俺がしたくて、やったことだから。黒沢に礼を言われる謂れはないよ」
突き放すように言って、またコーヒーを口に含む。斗哉は、その横顔に
僅かな苛立ちを垣間見ながら、慎重に言葉を選んだ。
「それでも、俺たちが神崎の世話になってることは変わりないだろ?
だからといって、俺としては、その礼をつばさからお前に返させるわけにも
いかないんだ。つばさがお前から受け取ってる護符の礼も含めて、な」
その言葉を聞いた瞬間、嵐は目を見開いた。
そうして、じっと自分を見つめる、斗哉に目を向ける。待っていたのは、
心を見透かすような、そんな眼差しで、嵐は眉間にシワを寄せた。
「………起きてたのか。悪趣味だな。盗み聞きなんて」
低い声でそう言って、アルミ缶を握りしめる。ペキ、と缶が軋む音がして
斗哉は、はは、と乾いた笑いをした。
「別に、狸寝入りしてたわけじゃないよ。ただ、目を閉じたけど眠れな
かったんだ。本当に。まあそのお陰で、気になる話が訊けたんだけどな」
斗哉はつい、と嵐の視線をかわすと、高くそびえるフェンスの向こうを
見やった。そうして、徐に、口を開いた。
「やっぱり……好きなのか。つばさが……」
「……………」
斗哉の問いかけに、返ってくる返事はない。けれど、その沈黙が意味する
ものは、肯定だった。斗哉は、細く息を吐いて、続けた。
「何を望んでるんだ?……つばさに」
「……………」
重ねた問いかけにも、嵐は答えない。答えられるわけがないと、
そう思いながら斗哉が訊いているのだと、嵐はわかっているはずだ。
嵐は、缶コーヒーを煽るように口に含んだ。
「キスしてやろうか。俺が」
唐突に、斗哉にそんなことを言われて、嵐は思いきりコーヒーを吹き出した。
ゲホッ、ゴホッ、と苦しそうに咳込む。斗哉はその様子を見て、
くつくつと可笑しそうに笑った。
「お前っ……タイミング見計らってただろう!!」
「いや、そこまで狙ったわけじゃないけど……絶妙だったな」
憎らしそうに斗哉を睨む嵐に、ほら、とハンカチを差し出す。
嵐はそのハンカチを一瞥すると、ぐい、と手の甲で口を拭った。
斗哉が立ち上がる。数歩足を踏み出して、そうして立ち止まった。
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