彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode5 朔風に消える

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嵐の話には、これまでの捜査情報にはなかった新しい手掛かりがいくつもあり、

メモを取りながら訊いていた黒住刑事は、興奮したように何度も頷いた。

嵐の証言と照らし合わせていくように、黒住刑事が話し始める。

「神崎さんの言う通り、被害者は鈍器のような物で頭を殴られ、その後、扼殺され

ました。でも、その凶器が灰皿だというのは我々も掴めていなかった情報です」

そもそも、遺体の状況すらつばさたちは知らされていなかったのだけど……

ひとまず、そのことは置いておいて、嵐はさらに霊視した内容を伝える。

「その灰皿も、丸い……大理石か何かだと思います。色は薄い緑色のように

見えました。犯行後、凶器は鞄に入れて犯人が持ち帰っています」

七海の血液と自分の指紋がついた凶器を、その場に残していくわけには

いかなかったのだろう。おそらく、今ごろは誰にも見つからない場所に捨てら

れているはずだ。その他の情報についても、黒住刑事がさらに掘り下げる。

「それと、犯人の顔が見えたと言ってましたが、この似顔絵を修正できそう

ですか?黒子の位置や口元の感じなんかも」

黒住刑事が似顔絵のコピーを取り出して、嵐に見せる。嵐は頷いて、

上唇の右上を指差した。

「黒子の位置は上唇の斜め上くらいです。唇はもう少し薄くて、顎のラインも

もっと、こう……すっとした感じでした」

嵐に言われた通りに、黒住刑事が似顔絵に修正を加えていく。警察署で

似顔絵の担当者が描いたほどではないが、黒住刑事も鉛筆を動かす手が

こなれている。唇も、顎のラインも修正されて、あっという間に、より犯人

に近い似顔絵が完成した。

「どうですか?」

修正を入れた似顔絵を、黒住刑事がかざす。嵐が唇を引き締めて頷いた。

「この画で、ほぼ間違いないと思います」

嵐の言葉に、その場にいる全員が高揚した。黒いマスクで顔半分覆われて

いた時の印象とは、かなり違う。線が細くて神経質そうな、若者の顔だ。

「すぐにこの画を本署にファックスしましょう。これで捜査が大きく前進する

かもしれません」

興奮気味にそう言って、黒住刑事が車を降りようとする。近くのコンビニか

何かで、ファックスを送るつもりなのだろう。すると、車のドアを開け、運転席を

降りようとする背中に、ずっと静かに見守っていた加賀見が声をかけた。




「あの、僕のマンションに場所を替えませんか?ここじゃ窮屈ですし、自宅なら

ファックスもありますから」

加賀見が前方の車窓から、少し先に見えるマンションを指差して言う。

運転席から後ろを振り返って話す黒住刑事を、気にかけていたのだろう。

隣に佇んでいる七海も、うんうん、と頷いていた。

「では、お言葉に甘えて場所を借りましょうかね。彼らも疲れているようですし、

落ち着いた場所で、じっくり話を聴いた方がよさそうですし」

穏やかな表情でそう言ったのは、門田刑事だった。つい、とつばさに目を

やって、目を細める。思いもよらず、凄惨な現場を霊視ことは

まだ口にしていなかったが、つばさの様子から何かを感じ取ったのかも

しれない。斗哉も心配そうにつばさの顔を覗き込んでいる。

「わかりました。では、すぐに移動しましょう」

黒住刑事はシートベルトを締めると、キーを回してエンジンをかけた。
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