彼にはみえない

橘 弥久莉

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episodeFinal 永遠のワンスモア

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自分を見上げながら口をパクパクしているつばさに、斗哉は首に巻き付けて

いたマフラーを外すと、しゅる、とつばさの首に絡めた。瞬く間に、斗哉の

温もりと匂いに包まれる。

「遅くなってごめん。寒かっただろ」

拍子抜けしてしまうほどいつもと変わらない斗哉に、つばさはポカンと

したまま首を振った。もっと、突き放すような態度を取られると思っていた

のに……斗哉の眼差しは、驚くほどに優しい。つばさは、彼の瞳に映る

自分をじっと見つめながら、それでも、言わなければならないことを、

口にした。

「斗哉……あのね」

「ん?」

「……ごめんなさい。斗哉を、傷付けるようなことしちゃって。嵐の気持ち

には応えられないって、昨日ちゃんと伝えたんだけど……でも、こんなこと

になるまで気付かないフリをしていた私がいけなかったんだよね。だから、

ほんとうに、ごめんなさい」

ぺこりと頭を下げて「ごめんなさい」と繰り返すつばさに、斗哉は黙って

目を細める。つばさは恐る恐る斗哉の顔を見上げた。表情からは、あの時の

ような怒りは感じられない。けれど、優しくも切なげに自分を見つめる眼差し

は、どこか言い知れぬ不安を感じさせる。つばさは、堪らずに下を向いた。

「ダメかな、斗哉。謝っても、赦してもらえない?もう、私のこと………

好きじゃない?お願い。何か言って、斗哉」

最後の方は、言葉にするのも怖かった。目の前にいるのに。こんなに、

斗哉が好きなのに。もしかしたら、その想いはすでに一方通行かもしれ

ない。そう思ってしまえば、どうにも泪が止まらなかった。

どうして、こんなことになってしまったのだろう?足元に、ぽたぽた雫が

落ちていく。不意に肩に手がかかって、つばさは強い力で引き寄せられた。

斗哉に抱きしめられたのだと、気付いた瞬間に顔が熱くなる。

「……寂しかった」

斗哉の腕の中、息を潜めていたつばさの耳に届いた声はあまりにも低く、

震えていた。






「……寂しかった。たった数日だけど、お前が側にいないだけで落ち着かな

くて……学校にいても、どこにいても、いつもお前の姿を目で追ってた。

それでも、待ってたんだ。嵐とのこと、ちゃんと答えを出した上で、俺の腕に

戻って欲しくて……。お前が嵐にキスされたって聞いた時……想像以上に、

平気じゃなかったから」

強く、肩を抱きながらそう言った斗哉に、つばさは声もなく頷いた。斗哉の

想いが、振動となって頬を寄せた胸からも伝わる。つばさの泪を吸い取って、

斗哉のコートには黒い染みが広がっていた。斗哉の温かな手の平が、

つばさの頬を包んで自分を向かせた。斗哉の鼻先が微かに朱く染まって

いるのが、暗闇でもわかる。

「愛してる。世界でいちばん。つばさのそういう不器用で、実直で、鈍い

ところも全部、好きで、好きで、しょうがない」

つばさは大きく目を見開いた。同じ言葉のはずなのに、いつかの夜、ベッドの

中で言われた時よりも、嬉しい。嬉しすぎて、また、止まりかけた泪が零れて

しまう。斗哉は、自分の指に伝う泪をそっと拭うと、柔らかに微笑んだ。

「だから泣くなって。もう怒ってないし、俺がお前を嫌いになるなんてこと、

あるわけないんだから。絶対に」

絶対に、の部分を強調した斗哉に、つばさは泪声でその言葉を反芻する。

「……絶対に?」

「ああ。絶対に。どんなことがあっても、離さない」

口元に笑みを浮かべて、斗哉が頷く。ほんの少し前まで、失くしてしまうかも

しれないと怯えていたというのに……嘘のように、心の中の不安が溶けていく。

つばさは、頬に触れる斗哉の大きな手に、自分の手の平を重ね、頷いた。

彼の温もりが、頬からも、手の平からも伝わる。幸せで心が震える。

斗哉の瞼が伏せられた。つばさの唇に息がかかって、薄く開いた唇がゆっくりと

降りてくる。キスされる。つばさも瞼を閉じて、与えられる温もりを待とうと、した。

が、唇が重なる寸前に、つばさはのけ反って顔を逸らしてしまう。そうして、

斗哉の肩を押すと、声を上げた。
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