彼にはみえない

橘 弥久莉

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episodeFinal 永遠のワンスモア

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「待った!!」

せっかくのムードを「待った」のひと言でぶち壊された斗哉が、思いきり眉を

顰めた。重なり損ねた唇が、恨めしそうに不平を漏らす。

「なんだよ?急に」

「ごめん。まだ、斗哉に話してないことがあって」

「……それって、嵐が関係してることか?俺にとっていい話じゃないよな?」

つばさの胸の内を見透かすように、斗哉がいぶかしげな目を向ける。

つばさは、うっ、と言葉に詰まりながら、おずおずと頷いた。

「実はね、私……」

「うん」

「………転校することに………した」

「…………はあっ!!!?」

すっかり暗くなった空に、斗哉の声が木霊した。無理もなかった。

つばさが口にした単語は、あまりに唐突で、あまりに突拍子もない。

そう言えば、昨日、嵐にも似たようなリアクションをされたな、と、内心

肩を竦めながら、つばさは目も口もあんぐり開けたままの斗哉を見た。

「ごめんね。突然で、びっくりさせちゃって。だけど、もう決めたんだ。

親もわかってくれたし、もいいよって言ってくれてる」

呆けていた斗哉の目に、すっ、と色が戻った。のひと言で、

つばさの意図が分かったらしい。つばさは、察しのいい恋人の言葉を

待った。

「もしかしてお前……澄子さんのところに修行に行くつもりなのか?」

そのものずばり、正解を口にしてくれた斗哉に、つばさは大きく頷いた。

途端に斗哉が眉間にシワを寄せる。言いたいことが山ほどあって、

それを無言のうちに頭の中で整理すると、斗哉はつばさの肩を掴んで

顔を覗き込んだ。






「嵐に影響されたからか?だとしても、転校まですることないだろ?

春休みでも、夏休みでも、澄子さんのところに泊まり込めばいいじゃ

ないか。ここにいれば嵐に教わることだってできるんだし、お前がしっかり

してくれるなら、俺はお前と嵐が一緒にいても構わないんだ。澄子さん

のいるところは、新幹線で3時間以上もかかるんだぞ?俺だって簡単

には会いに行けないし、俺と離れてまでしなきゃならないことなのか?」

そこまで一気に捲し立てて、斗哉は肩で息をした。斗哉が落ち着くのを

待って、つばさはまた静かに頷く。斗哉の表情が止まった。

つばさがこういう顔をするときは、決して譲らないのだと、彼は知っている。

「あのね、斗哉。私、嵐のことがすごく大事なんだ。もちろん、斗哉とは違った

意味でだけど。だって、いままで普通の人には見えないものが見えてしまう

仲間なんて、一人もいなかったから。だから、嵐のことは尊敬してるし、

頼りにもしてる。そのことで、斗哉を傷付けちゃうってわかってても、

どうしても私の中で嵐の存在は大きくなっちゃうし、嵐の背中を追いかけ

たいって思っちゃうんだ。だって……嵐は私の理想の姿だから」

こうして改めて口にすることで、また斗哉を傷付けてしまうかもしれない。

そう思っていても、つばさは言葉を止められなかった。大事なことは、ちゃんと

言葉で伝えあって、理解したい。そう思うのは、斗哉が一生側にいるかもしれ

ない、大切な恋人だからだ。つばさは、辛そうに顔を歪めている斗哉の頬に

手を伸ばした。

「だから私、ちゃんと修行して自分の能力を最大限に引き出したいんだ。

私なら出来るってお婆ちゃん言ってくれたし、一人で何とかできるようになれば、

斗哉を悲しませることだって少なくなると思うの。斗哉、前に言ってくれたよね?

私が怖いものを見て怯えてたら目を隠してやるし、怖いものが聴こえた時は

耳を塞いでやる、って。あれ、本当に嬉しかった。だからこそ、思っちゃったんだ。

私も斗哉を守れるくらい、一人前になりたいって」

ダメかな?と、最後に消え入りそうな声でそう言って、つばさは斗哉の顔を覗いた。
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