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episodeFinal 永遠のワンスモア
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「ありがと。何でもいいよ。車だから寒いわけじゃないし。あ、でも、私が
着てっちゃったら奧さん困るんじゃない?大事な洋服かもしれないし」
いったい、里帰りから戻ってきた奥さんにどんな言い訳をするのだろう?
と首を傾げながらつばさが顔を覗き込むと、斗哉は笑って首を振った。
「そういう心配は要らないよ。ちゃんと理由を話せばあいつはわかって
くれるから。それより、これに着替えたらリビングに来てくれないか?
ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」
つばさの背後に回って、しゅる、と帯を解きながら斗哉が言う。
つばさは、ふっ、と呼吸が楽になったのを感じながら、わかった、と
だけ答えた。
「ごめん。お待たせ」
着替えを終えてリビングへ行くと、斗哉はつばさを見て目を細めた。
「良く似合ってる。つばさは肌が白いから、そういう色が映えるよな」
嘘かホントか。フェミニンなロングスカートを似合うと褒められて、
つばさはへへっ、と得意げな笑顔を向ける。スカートの裾を摘まんで、
くるりと回って見せた。
「そうかな?フワフワしてるけど、このスカート、意外に温かいんだ」
丈もサイズもぴったりで、まるで自分にあつらえたような感じだ。
うっかり、これが斗哉の奥さんの服だということを、忘れそうになってしまう
ほどに……。ふ、と現実に引き戻されて笑顔をやめてしまったつばさに、
斗哉は温かなミルクコーヒーを淹れてくれた。斗哉の向かい側に座って
砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーをすする。大きな6人掛けの
リビングテーブルの上には、いつか見た捜査資料のような書類が何枚も
並べられていた。斗哉はマグカップに口をつけ、コーヒーをひと口飲むと
真剣な眼差しをつばさに向けた。つばさも、無意識に背筋を伸ばす。
「実は、お前に頼みたいことっていうのは、事件現場の霊視なんだ。
被疑者の拘留期限が迫ってる案件があるんだけど、このまま起訴
すべきか決めかねてる。事件現場はここからそう遠くないし、
元の世界に戻る前に、少しでいいからお前に見えたことを教えて
くれないか?」
神妙な面持ちでそう言って、斗哉がつばさの手を握る。つばさは、
思わず緊張からごくりと唾を呑んだ。事件現場を霊視する。
ということは、少なからず、いや、もしかしたら大いに被疑者の今後を
左右してしまうことになる。嵐と共に、七海を殺害した犯人を捜す手伝いを
した時よりも、責任が重いのではないか?
果たして、修行らしい修行をしていない自分が斗哉の役に立てるのだろうか?
そう考えて返事を迷っていたつばさに、斗哉は頬を緩め、続けた。
「もちろん、現場に行ってみて何も見えなかったらそれで構わないし、
何か見えたとしても、お前の証言を元に俺が捜査して裏を取るから
心配ない。それでも、気が進まないならこのまま澄子さんの家まで
送っていくから。どちらでも、つばさの好きな方を選んで構わないよ」
つばさの迷いを見透かしたようにそう言って、斗哉が笑みを深める。
つばさは、黙って斗哉の胸に光るバッジを見つめた。
いまや法務省の特別機関である、検察庁の一員となった斗哉が自分を
必要としてくれている。それは、自分が一番望んだことではなかったか?
嵐のように、誰かの役に立ちたくて自分は斗哉の元を離れたというのに。
いま、その機会を逃して何になるんだろう?
「行くよ、斗哉。わたし、事件現場見てみる」
つばさは顔をあげると、にんまりと笑んで見せた。斗哉が目を細めて、
握る手に力を込める。表情には安堵の色が滲んでいる。
着てっちゃったら奧さん困るんじゃない?大事な洋服かもしれないし」
いったい、里帰りから戻ってきた奥さんにどんな言い訳をするのだろう?
と首を傾げながらつばさが顔を覗き込むと、斗哉は笑って首を振った。
「そういう心配は要らないよ。ちゃんと理由を話せばあいつはわかって
くれるから。それより、これに着替えたらリビングに来てくれないか?
ちょっとお前に頼みたいことがあるんだ」
つばさの背後に回って、しゅる、と帯を解きながら斗哉が言う。
つばさは、ふっ、と呼吸が楽になったのを感じながら、わかった、と
だけ答えた。
「ごめん。お待たせ」
着替えを終えてリビングへ行くと、斗哉はつばさを見て目を細めた。
「良く似合ってる。つばさは肌が白いから、そういう色が映えるよな」
嘘かホントか。フェミニンなロングスカートを似合うと褒められて、
つばさはへへっ、と得意げな笑顔を向ける。スカートの裾を摘まんで、
くるりと回って見せた。
「そうかな?フワフワしてるけど、このスカート、意外に温かいんだ」
丈もサイズもぴったりで、まるで自分にあつらえたような感じだ。
うっかり、これが斗哉の奥さんの服だということを、忘れそうになってしまう
ほどに……。ふ、と現実に引き戻されて笑顔をやめてしまったつばさに、
斗哉は温かなミルクコーヒーを淹れてくれた。斗哉の向かい側に座って
砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーをすする。大きな6人掛けの
リビングテーブルの上には、いつか見た捜査資料のような書類が何枚も
並べられていた。斗哉はマグカップに口をつけ、コーヒーをひと口飲むと
真剣な眼差しをつばさに向けた。つばさも、無意識に背筋を伸ばす。
「実は、お前に頼みたいことっていうのは、事件現場の霊視なんだ。
被疑者の拘留期限が迫ってる案件があるんだけど、このまま起訴
すべきか決めかねてる。事件現場はここからそう遠くないし、
元の世界に戻る前に、少しでいいからお前に見えたことを教えて
くれないか?」
神妙な面持ちでそう言って、斗哉がつばさの手を握る。つばさは、
思わず緊張からごくりと唾を呑んだ。事件現場を霊視する。
ということは、少なからず、いや、もしかしたら大いに被疑者の今後を
左右してしまうことになる。嵐と共に、七海を殺害した犯人を捜す手伝いを
した時よりも、責任が重いのではないか?
果たして、修行らしい修行をしていない自分が斗哉の役に立てるのだろうか?
そう考えて返事を迷っていたつばさに、斗哉は頬を緩め、続けた。
「もちろん、現場に行ってみて何も見えなかったらそれで構わないし、
何か見えたとしても、お前の証言を元に俺が捜査して裏を取るから
心配ない。それでも、気が進まないならこのまま澄子さんの家まで
送っていくから。どちらでも、つばさの好きな方を選んで構わないよ」
つばさの迷いを見透かしたようにそう言って、斗哉が笑みを深める。
つばさは、黙って斗哉の胸に光るバッジを見つめた。
いまや法務省の特別機関である、検察庁の一員となった斗哉が自分を
必要としてくれている。それは、自分が一番望んだことではなかったか?
嵐のように、誰かの役に立ちたくて自分は斗哉の元を離れたというのに。
いま、その機会を逃して何になるんだろう?
「行くよ、斗哉。わたし、事件現場見てみる」
つばさは顔をあげると、にんまりと笑んで見せた。斗哉が目を細めて、
握る手に力を込める。表情には安堵の色が滲んでいる。
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