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episodeFinal 永遠のワンスモア
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「…っ、つばさ?」
異変に気付いた斗哉が、膝をついたままつばさを見上げた。けれど、
その声に反応するように父親の鋭い眼差しが斗哉に向けられてしまう。
そして、そのことにつばさが気付いた瞬間に、父親は信じられないよう
な速さで、斗哉に向かっていた。
「……っやっ!!!」
一瞬のことで、つばさはどうすることもできなかった。何も見えない斗哉は、
それでも、何か不穏な空気を感じて暗闇を見据えている。
ザッとつばさの横をすり抜けた父親は、呻くような声を上げながら斗哉に
手を伸ばし、その皺だらけの指が斗哉に触れるより先に、目に見えない何かに
弾き飛ばされてしまった。
「お父さん!!」
部屋の隅まで飛ばされてしまった父親に、娘が悲鳴を上げる。つばさは慌てて
斗哉の側に行くと、背に庇うようにして父と娘を見やった。
「お父さん!!お父さん!?」
呆けたように天井を見上げている父親に、娘が駆け寄って顔を覗く。
父親に娘の声が届いている様子はなく、さっき、瞬間的に斗哉に向けら
れた負の念も感じられない。
このまま消えてしまうのだろうか?
そう心配になるほど、父親の姿形は白く揺らいでしまっていた。
「あの……」
つばさは、父親の側に佇んでいる娘に声をかけた。斗哉に襲い掛かった
のは恐ろしかったが、それでも、不幸な事件に巻き込まれ、命を落として
しまった2人を放っておくことはできない。
「……出てって」
つばさが一歩歩み寄ると、娘は父親を向いたまま、さっきと同じ言葉を
口にした。それでも、その場に立ち尽くしたまま、何か言わなければと
言葉を探すつばさに、鋭い声が飛んでくる。
「放っておいてって言ってるでしょ!!
あんたに出来ることは何もない。お願いだから出てって!!」
娘の背中は完全につばさを拒絶していた。だからもう、それ以上、
近づくことはできなかった。不意に、斗哉がつばさの手を掴んだ。
何かを感じ取ったのだろうか?
斗哉がつばさの手を引いて、建物の外へと連れて出て行く。
つばさは玄関を出る寸前に立ち止まると、振り返って手を合わせた。
-----祈る事しか出来なくて、ごめんなさい。
そう胸の内で呟いたつばさの目には、泪が滲んでいた。
「悪かった。辛い思いをさせて」
助手席で、スン、と鼻をすすったつばさに、斗哉はハンカチを
差し出した。つばさはそれを受け取りながら首を振る。事件の真相を
知ることができたとは言え、あの親子に何もしてやれなかったのが、
不甲斐ない。嵐だったら2人を成仏させてやることが出来たはずだ。
つばさは斗哉のハンカチでぐい、と泪を拭うと大きく息を吐いた。
「なんかさ、半年も修行したのに何の役にも立てないなんて、情けないよね。
私……斗哉と離れてまで修行する意味、あったのかな?」
らしくない愚痴が口をついて出てしまう。自分の無力さが恥ずかしくて、
つばさは斗哉の顔を見られずに俯いた。
「あったと思うよ、俺は」
斗哉が穏やかにそう言ったので、つばさはゆっくりと顔をあげた。
斗哉を向く。柔らかに笑んだ斗哉が、コートのポケットから取り出した
何かを見せる。つばさは斗哉の手の平に散らばった紙切れを見て、
はっとした。
「これって……私が渡した……」
「護符だ。さっき、ポケットに手を入れたら塵尻になってて、驚いた。
俺には、あの家で何が起こったのかわからなかったけど……きっとお前の
護符が俺を守ってくれたんだよな。確かに、いまのお前には出来ないこと
もあるだろうけど、ちゃんと出来るようになったことだってあるんだ。なのに、
それを自信に変えられなかったら前に進めないだろう?俺だって、まだ
右も左もわからない新人で、現場に出れば誰よりも未熟だよ。でも、たった
一つでも真実に辿り着けた時は、それを糧に頑張ってる。今日、お前が
霊視してくれたことだって、俺にとっては十分すぎる収穫だよ。これで、
拘留期限を延長する決心がついた。だから、そんな顔して泣くな」
異変に気付いた斗哉が、膝をついたままつばさを見上げた。けれど、
その声に反応するように父親の鋭い眼差しが斗哉に向けられてしまう。
そして、そのことにつばさが気付いた瞬間に、父親は信じられないよう
な速さで、斗哉に向かっていた。
「……っやっ!!!」
一瞬のことで、つばさはどうすることもできなかった。何も見えない斗哉は、
それでも、何か不穏な空気を感じて暗闇を見据えている。
ザッとつばさの横をすり抜けた父親は、呻くような声を上げながら斗哉に
手を伸ばし、その皺だらけの指が斗哉に触れるより先に、目に見えない何かに
弾き飛ばされてしまった。
「お父さん!!」
部屋の隅まで飛ばされてしまった父親に、娘が悲鳴を上げる。つばさは慌てて
斗哉の側に行くと、背に庇うようにして父と娘を見やった。
「お父さん!!お父さん!?」
呆けたように天井を見上げている父親に、娘が駆け寄って顔を覗く。
父親に娘の声が届いている様子はなく、さっき、瞬間的に斗哉に向けら
れた負の念も感じられない。
このまま消えてしまうのだろうか?
そう心配になるほど、父親の姿形は白く揺らいでしまっていた。
「あの……」
つばさは、父親の側に佇んでいる娘に声をかけた。斗哉に襲い掛かった
のは恐ろしかったが、それでも、不幸な事件に巻き込まれ、命を落として
しまった2人を放っておくことはできない。
「……出てって」
つばさが一歩歩み寄ると、娘は父親を向いたまま、さっきと同じ言葉を
口にした。それでも、その場に立ち尽くしたまま、何か言わなければと
言葉を探すつばさに、鋭い声が飛んでくる。
「放っておいてって言ってるでしょ!!
あんたに出来ることは何もない。お願いだから出てって!!」
娘の背中は完全につばさを拒絶していた。だからもう、それ以上、
近づくことはできなかった。不意に、斗哉がつばさの手を掴んだ。
何かを感じ取ったのだろうか?
斗哉がつばさの手を引いて、建物の外へと連れて出て行く。
つばさは玄関を出る寸前に立ち止まると、振り返って手を合わせた。
-----祈る事しか出来なくて、ごめんなさい。
そう胸の内で呟いたつばさの目には、泪が滲んでいた。
「悪かった。辛い思いをさせて」
助手席で、スン、と鼻をすすったつばさに、斗哉はハンカチを
差し出した。つばさはそれを受け取りながら首を振る。事件の真相を
知ることができたとは言え、あの親子に何もしてやれなかったのが、
不甲斐ない。嵐だったら2人を成仏させてやることが出来たはずだ。
つばさは斗哉のハンカチでぐい、と泪を拭うと大きく息を吐いた。
「なんかさ、半年も修行したのに何の役にも立てないなんて、情けないよね。
私……斗哉と離れてまで修行する意味、あったのかな?」
らしくない愚痴が口をついて出てしまう。自分の無力さが恥ずかしくて、
つばさは斗哉の顔を見られずに俯いた。
「あったと思うよ、俺は」
斗哉が穏やかにそう言ったので、つばさはゆっくりと顔をあげた。
斗哉を向く。柔らかに笑んだ斗哉が、コートのポケットから取り出した
何かを見せる。つばさは斗哉の手の平に散らばった紙切れを見て、
はっとした。
「これって……私が渡した……」
「護符だ。さっき、ポケットに手を入れたら塵尻になってて、驚いた。
俺には、あの家で何が起こったのかわからなかったけど……きっとお前の
護符が俺を守ってくれたんだよな。確かに、いまのお前には出来ないこと
もあるだろうけど、ちゃんと出来るようになったことだってあるんだ。なのに、
それを自信に変えられなかったら前に進めないだろう?俺だって、まだ
右も左もわからない新人で、現場に出れば誰よりも未熟だよ。でも、たった
一つでも真実に辿り着けた時は、それを糧に頑張ってる。今日、お前が
霊視してくれたことだって、俺にとっては十分すぎる収穫だよ。これで、
拘留期限を延長する決心がついた。だから、そんな顔して泣くな」
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