「みえない僕と、きこえない君と」

橘 弥久莉

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第一章:幸せの配分

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 「相変わらず、よく食べるねぇ~。
羽柴クン」

 背後から聞き慣れた声がして体ごと振り返る
と、小さなビニールを手にぶら下げた、同僚の
町田まちだ たかしが立っていた。
 僕の手の中にある丼と皿をゲンナリとした顔
で一瞥し、隣の席に座る。
 昼休みの食堂は混雑していて、僕の目の前の
席は、他の会社の人が座っている。視界の外側
でガサガサとビニールの音を立て始めた彼に、
僕は少々ぶっきらぼうに返した。

 「町田さんこそ、それしか食べないんです
か。小鳥のエサですか、それ」

 彼が取り出したのは、ペッパーハムとチーズ
がサンドされたベーグルだ。その隣には、
ペットボトルのブラックコーヒーが置かれて
いる。
 デジャブなのか、昨日も同じものを食べてい
たような気がするけど……。
 僕は醤油ラーメンにカレーライスのルーを
投入した、オリジナルカレーラーメンを豪快
に啜った。
 麺を食べ終え、残った汁にご飯を突っ込めば
スープカレーになる算段だ。カレー味が大好き
な僕は、うどんでもラーメンでも、サイド
メニューにカレーを頼んで二度カレー味を
堪能していた。

 「俺は痩せの小食なの。君は間違いなく、
痩せの大食いだけどね」

 あっという間にラーメンを完食し、残った汁
にご飯を放り込んでいる僕を横目で見ながら、
肩を竦める。僕は子供のころから食欲旺盛で、
たぶん、普通の人の2~3倍は食べる。
 なのに、基礎代謝がいいのか、体型は
ほっそりとしていて、スポーツをやっている
わけでもないのに背が高い。
 町田さんも似たような体型なので、僕たち
は密かに“もやしコンビ”と職場の人たち
から呼ばれているようだった。

 「ところでさ、今週末、空いてる?」

 僕だったら10秒で食べ終えてしまいそう
な小さなベーグルサンドにかじりつきながら、
町田さんが聞きいてくる。

 「空いてますけど。何ですか?」

 散蓮華ちりれんげでカレー汁に浸ったご飯を
すくいながら、またもやぶっきらぼうに返した。

 「合コンあるんだけど、来ない?大学時代の
友達がセッティングしてくれるんだけどさ。
もう一人くらいいた方が、女の子の人数も増や
せていいかな~、って話してるんだわ」

 要するに、頭数要員ということだろう。
 以前、何度か彼の誘いにのったことがある
けれど、主催者の好みなのか、そういう女子
しか来ない場なのか、派手で軽そうな子ばかり
なので、参加しても心ときめくような出会いは
なかった。だから、僕は迷わず首を振っていた。

 「やめときます。予定はガラ空きですけど」

 「どうしてよ。もしかして、彼女でも
出来た?」

 そんなことあるわけない、と、わかっていな
がら聞いてくるところが天邪鬼だ。僕は口を
尖らせて、背もたれに体を預けた。
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