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第二章:こころの声

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(その人のこと、好きなんだね)

 羽柴さんとの出会いからいままでを、つぶさ
聞き出した彼女は、まっすぐ目を覗き
込んだ。
 少し躊躇ってから、こくりと、頷く。
 あらためて、自分の気持ちを探してみた
けれど、やはり、この答えにしか辿り着か
ない。
 彼に話しかけられると嬉しいし、彼のこと
を考えるだけで、きゅっ、と、胸が苦しくな
る。どうして、どこが好きなのか?と、理由
を聞かれると、それは上手く説明できない
けれど。
 彼と一緒にいたいと思うのだ。ずっと。
 こんな気持ちになるのは人生で初めてだし、
手話を勉強してくれると言ってくれた時は、
本当に、本当に嬉しかった。

 (好きな人出来て、よかったね。きっと彼
も、同じ気持ちだよ)

 咲ちゃんが満面の笑みで祝福してくれる。
 まだ、彼の気持ちを確かめた訳でもないの
に、彼女にそう言われると、そんな気がして
くる。

 (そうかなぁ。そうだといいな)

 首を傾げたあと、わたしは、ちょっと悲しい
ことを考えた。

 普通の、何の障がいもない二人なら、もしか
したら、このまま恋を実らせることが出来る
かも知れない。けれど、わたしたちは違うのだ。
 わたしには生まれつき難聴があって、彼には
視覚障がいがある。それにもし、将来、彼が光
を失うことがあったとしたら……

 漠然とした不安が心の中を散らかして、
散らかして、彼を想う温かな気持ちが、隅に
追いやられてしまう。
 その心境をそのまま伝えると、咲ちゃんは
とても真剣な眼差しを向けて、言った。

 (もしも、わたしが彼と同じ病気だったら、
弥凪は友達やめる?)

 彼女の問いに、ぶんぶん、と大きく首を
振る。

 (わたしも、同じ。たとえ、目が見えなく
なったとしても、弥凪と一緒にいたいし、一緒
にいられるように努力すると思う。そういう
ことなんじゃないかな。一番大事なことって、
二人の気持ちなんじゃないかな?)

 そう言われた瞬間、ツンと鼻先が痛んだ。
 咲ちゃんの言葉が、咲ちゃんの気持ちが嬉し
くて、何だか泣きたくなってしまう。
 こういう気持ちを、きっと、“幸せ”っていう
んだろうな、と、胸の内で思いながら、わたし
は満面の笑みを向けた。

 (ありがとう。気持ちが、軽くなった)

 笑顔を見た親友が、満足そうに頷く。
 そうして、さっき脇に寄せたばかりの
メニューを取り出すと、デザートのページ
を開いた。

 (ねぇ。一緒にパフェ食べない?)

 彼女の提案に、わたしは二つ返事で頷いた
のだった。





-----その会に参加するのは、しばらくぶり
だった。


  僕は閑静な住宅街の一角にある、総合福祉
会館の入り口をくぐり、エレベーターで
3階に上がった。
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