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第六章:大安吉日
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そして、母親も戻って来る。
戻って来た瞬間、顔色を窺うように、
僕と父親の顔を覗いた。
「羽柴さん、お寿司は口に合いません?
ぜんぜん食べていらっしゃらないようです
けど、遠慮なさらず沢山召し上がってね」
気遣うように、母親が寿司や料理の皿
を僕の方へと寄せる。
室内は広く、リビングとキッチンは
離れているが、話の内容までは聞こえ
なくとも、僕たちの険悪な空気は伝わっ
ていたのだろう。母親は気の毒なほど
僕に気を使い、その様子を見た弥凪は、
何かを察したのか、父親に訝しむような
眼差しを向けていた。
「ありがとうございます。お寿司、
とても美味しいです。どのお料理も
美味しくて、ちょっと食べ過ぎてしま
いました」
そう言って笑みを返すと、僕はすっかり
冷めてしまったクリームパスタに手を伸ば
した。せっかくの弥凪の手料理だが、何を
食べても味がわからない。
けれど、残してしまうのも申し訳ないの
で、僕は半ば強引に、水割りで喉の奥に
流し込んだ。
斜め前に座る父親は、まるで、この食卓
から切り離されたように、そっぽを向き、
ちびちびと水割りを飲んでいる。
結局、その後も重い空気が払拭される
ことはないまま、僕たちは時折、ぽつり
ぽつりと言葉を交わし、ただひたすら、
時間が過ぎるのを待っていた。
「今日はご馳走様でした」
通夜のような会食を終え、玄関に立った
僕は、見送りに来た二人を振り返り、白い
歯を見せた。
「これ、残り物を詰め合わせたものです
けど、良かったら明日の朝ご飯に……」
母親がタッパーに詰めたおかずを差し
出す。僕は紙袋に入れられたそれを受け
取り、ちらり、と中を覗いた。
おかずにしては重いな、と、思ったら、
袋の中には高そうなワインと洋菓子らしき
包み紙が見える。
僕は母親の心遣いに頬を緩め、改めて
頭をさげた。
「お土産まで沢山いただいてしまって、
すみません。ありがたくいただきます」
父親には拒絶されてしまったが、母親
は終始僕に気を使い、理解を示してくれた。
この先、僕たちの結婚がトントン拍子に
進むとは思えないが、それだけで、幾分、
気持ちは軽かった。僕は、母親の隣に立つ
弥凪に笑いかけると、(おやすみ)、と
唇を動かした。弥凪がぎこちなく笑う。
数時間前、僕がこの玄関に立った時は
あんなに嬉しそうだったのに……
彼女にこんな顔をさせてしまう自分が、
不甲斐なかった。
「じゃあ、失礼します」
僕を見つめながら立ち尽くす二人に背を
向けると、その背を追うように母親が声を
かけてきた。
「羽柴さん、あの、主人はあんなですけど、
良かったら、またいらしてね。それから……
娘のこと、これからもよろしくお願いします」
そう言って深々と頭をさげた母親に、
僕は目頭が熱くなるのを感じながら、
振り返り、深く体を折り曲げたのだった。
戻って来た瞬間、顔色を窺うように、
僕と父親の顔を覗いた。
「羽柴さん、お寿司は口に合いません?
ぜんぜん食べていらっしゃらないようです
けど、遠慮なさらず沢山召し上がってね」
気遣うように、母親が寿司や料理の皿
を僕の方へと寄せる。
室内は広く、リビングとキッチンは
離れているが、話の内容までは聞こえ
なくとも、僕たちの険悪な空気は伝わっ
ていたのだろう。母親は気の毒なほど
僕に気を使い、その様子を見た弥凪は、
何かを察したのか、父親に訝しむような
眼差しを向けていた。
「ありがとうございます。お寿司、
とても美味しいです。どのお料理も
美味しくて、ちょっと食べ過ぎてしま
いました」
そう言って笑みを返すと、僕はすっかり
冷めてしまったクリームパスタに手を伸ば
した。せっかくの弥凪の手料理だが、何を
食べても味がわからない。
けれど、残してしまうのも申し訳ないの
で、僕は半ば強引に、水割りで喉の奥に
流し込んだ。
斜め前に座る父親は、まるで、この食卓
から切り離されたように、そっぽを向き、
ちびちびと水割りを飲んでいる。
結局、その後も重い空気が払拭される
ことはないまま、僕たちは時折、ぽつり
ぽつりと言葉を交わし、ただひたすら、
時間が過ぎるのを待っていた。
「今日はご馳走様でした」
通夜のような会食を終え、玄関に立った
僕は、見送りに来た二人を振り返り、白い
歯を見せた。
「これ、残り物を詰め合わせたものです
けど、良かったら明日の朝ご飯に……」
母親がタッパーに詰めたおかずを差し
出す。僕は紙袋に入れられたそれを受け
取り、ちらり、と中を覗いた。
おかずにしては重いな、と、思ったら、
袋の中には高そうなワインと洋菓子らしき
包み紙が見える。
僕は母親の心遣いに頬を緩め、改めて
頭をさげた。
「お土産まで沢山いただいてしまって、
すみません。ありがたくいただきます」
父親には拒絶されてしまったが、母親
は終始僕に気を使い、理解を示してくれた。
この先、僕たちの結婚がトントン拍子に
進むとは思えないが、それだけで、幾分、
気持ちは軽かった。僕は、母親の隣に立つ
弥凪に笑いかけると、(おやすみ)、と
唇を動かした。弥凪がぎこちなく笑う。
数時間前、僕がこの玄関に立った時は
あんなに嬉しそうだったのに……
彼女にこんな顔をさせてしまう自分が、
不甲斐なかった。
「じゃあ、失礼します」
僕を見つめながら立ち尽くす二人に背を
向けると、その背を追うように母親が声を
かけてきた。
「羽柴さん、あの、主人はあんなですけど、
良かったら、またいらしてね。それから……
娘のこと、これからもよろしくお願いします」
そう言って深々と頭をさげた母親に、
僕は目頭が熱くなるのを感じながら、
振り返り、深く体を折り曲げたのだった。
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