94 / 111
第六章:大安吉日
93
しおりを挟む
もしかしたら反対されるかも、知れない。
心のどこかで、そう、覚悟はしていたけ
れど……
父親の拒否反応は相当なものだった。
僕は、“障がいがある”と告げた途端に、
態度が一変してしまった父親を思い出した。
きっと、もう、会うつもりがないから
あそこまではっきりとした態度を取ったの
だろう。
同じように障がいを持つ弥凪の親だから、
理解してくれるだろうと安易に思っていた
が、障がいを持つ苦労を知っているからこそ、
許すことが出来なかったのかも知れない。
「さて、どうするかな……」
僕はひとり、そんなことを呟きながら、
狭い天井を見上げた。
-----その時だった。
ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪と、
続けざまにインターホンが鳴った。
-----誰だろう?こんな時間に。
僕は首を捻りながら、緊張が解れた重い
体を引きずるようにして、玄関へ向かった。
そうして、鍵を開ける。
開けた瞬間、ガチャ、とドアが開いて、
弥凪が飛び込んできた。
「っ、弥凪!?」
僕はびっくりして、思いきり声をひっく
り返した。
ドン、と抱きついてきた弥凪を辛うじて
受け止める。触れた肩は、髪は、水気を
含んでしっとりと濡れていた。
「どうしたの?何かあったの!?」
僕の胸に顔を埋め、子供のように首を振る
弥凪に、わけもわからぬまま問いかける。
が、その声が彼女に届くわけもなく……
僕は抱きついたままの弥凪を抱えながら
部屋へ入った。
そして、ホワイトボードの前で立ち止まる。
弥凪は顔を埋め、肩を震わせている。
泣いているのだと、わかればズキリと胸が
痛んだ。
-----何があったのか。
そんなことは、訊くまでもなかった。
僕と父親のやり取りを、知ってしまったの
だろう。あれだけ険悪な空気が食卓に漂って
いたのだ。気付かずにいることの方が、難し
かった。
僕は彼女の背をぽんぽん、と叩きながら、
湿った髪に頬を埋めた。
そのまましばらく、肩を抱いてやる。
弥凪の肩は小刻みに震えているが、
嗚咽が漏れて聞こえてくることはない。
-----どれくらい泣いていただろうか?
ようやく泣き止んだ弥凪が、腕の中から
僕を見上げた。その瞬間に、僕は、ぷっ、
と吹き出してしまう。
弥凪の顔は、涙と鼻水で文字通り、
ぐちゃぐちゃだった。
「あーあー。可愛い顔が台無し」
僕はくすくすと笑いながらティッシュに
手を伸ばし、それを弥凪の顔に押し付けた。
ちょっと強引に涙を拭いてやる。弥凪は
嫌がる様子もなく、母親にそうされる子供
のように、大人しく僕に拭かれていた。
やがて、涙の跡を頬に残したままで、
彼女の濡れた瞳が僕を覗き込んだ。
心のどこかで、そう、覚悟はしていたけ
れど……
父親の拒否反応は相当なものだった。
僕は、“障がいがある”と告げた途端に、
態度が一変してしまった父親を思い出した。
きっと、もう、会うつもりがないから
あそこまではっきりとした態度を取ったの
だろう。
同じように障がいを持つ弥凪の親だから、
理解してくれるだろうと安易に思っていた
が、障がいを持つ苦労を知っているからこそ、
許すことが出来なかったのかも知れない。
「さて、どうするかな……」
僕はひとり、そんなことを呟きながら、
狭い天井を見上げた。
-----その時だった。
ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪と、
続けざまにインターホンが鳴った。
-----誰だろう?こんな時間に。
僕は首を捻りながら、緊張が解れた重い
体を引きずるようにして、玄関へ向かった。
そうして、鍵を開ける。
開けた瞬間、ガチャ、とドアが開いて、
弥凪が飛び込んできた。
「っ、弥凪!?」
僕はびっくりして、思いきり声をひっく
り返した。
ドン、と抱きついてきた弥凪を辛うじて
受け止める。触れた肩は、髪は、水気を
含んでしっとりと濡れていた。
「どうしたの?何かあったの!?」
僕の胸に顔を埋め、子供のように首を振る
弥凪に、わけもわからぬまま問いかける。
が、その声が彼女に届くわけもなく……
僕は抱きついたままの弥凪を抱えながら
部屋へ入った。
そして、ホワイトボードの前で立ち止まる。
弥凪は顔を埋め、肩を震わせている。
泣いているのだと、わかればズキリと胸が
痛んだ。
-----何があったのか。
そんなことは、訊くまでもなかった。
僕と父親のやり取りを、知ってしまったの
だろう。あれだけ険悪な空気が食卓に漂って
いたのだ。気付かずにいることの方が、難し
かった。
僕は彼女の背をぽんぽん、と叩きながら、
湿った髪に頬を埋めた。
そのまましばらく、肩を抱いてやる。
弥凪の肩は小刻みに震えているが、
嗚咽が漏れて聞こえてくることはない。
-----どれくらい泣いていただろうか?
ようやく泣き止んだ弥凪が、腕の中から
僕を見上げた。その瞬間に、僕は、ぷっ、
と吹き出してしまう。
弥凪の顔は、涙と鼻水で文字通り、
ぐちゃぐちゃだった。
「あーあー。可愛い顔が台無し」
僕はくすくすと笑いながらティッシュに
手を伸ばし、それを弥凪の顔に押し付けた。
ちょっと強引に涙を拭いてやる。弥凪は
嫌がる様子もなく、母親にそうされる子供
のように、大人しく僕に拭かれていた。
やがて、涙の跡を頬に残したままで、
彼女の濡れた瞳が僕を覗き込んだ。
10
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる