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第六章:大安吉日
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弥凪の手を引いて、歩き慣れた夜道を歩く。
先刻から降り出したらしい雨は、しとどに
アスファルトを濡らし、その道を、等間隔に
街灯が白く照らしている。
僕は夜目が効かなかったが、この道は何度
も歩いていることもあって、それほど不便は
ない。歩道のちょっとした段差やポストの
位置、飲食店が出している置き型の看板など
もちゃんと把握しているので、傘を差しなが
ら弥凪の手を引いて歩いても、特に危ないこ
とはなかった。
大人しく手を引かれている、弥凪の横顔
を覗く。やはり、父親と顔を合わせるのは
気が重いのか、彼女の表情はいつになく
暗かった。
「今日はこちらで預かります」と、母親
に連絡を入れれば良かっただろうか?
そう伝えた上で、一晩、距離を置けば、
お互いに冷静に考える時間が持てたのかも
知れない。そんなことを、ぼんやりと考えて
歩いたが、やはり、正解はわからなかった。
やがて大通りに出ると、夜道は一層明るく
なった。コンビニやガソリンスタンドから漏
れる灯りが、僕の狭い視界を照らしてくれる。
僕の家から弥凪の家までは歩いて約20分。
駅を超え、また住宅街を少し歩いた先に、
半円状のデザイン住宅が見えてくる。
僕は弥凪と手を繋いだまま、つい先刻、
一人で肩を落としながら渡った横断歩道を、
今度は二人で歩き始めた。
ところが、まもなく、信号を渡り切ろうか
というところで、突然、僕の手の中から弥凪
の手が、するりと抜けていった。
「……!?」
僕は振り返り、横断歩道の真ん中に突っ
立っている弥凪を見る。他に信号を渡る
人影はなく、夜中とあって赤信号を待つ車
の姿は見当たらないが、だからと言って
そんなところに留まっていれば、すぐに、
目の前の信号は赤へ変わってしまうだろう。
「弥凪、行こう。危ないよ」
そう言って、彼女の元に戻りかけた僕に、
彼女は大きく首を振った。
(行かない!ずっと、純と一緒にいる)
手話でそう言ったかと思うと、弥凪は、
いま、渡ったばかりの信号を戻り始めて
しまった。
「弥凪!?ちょっと待って……」
僕は慌てて、雨の中を一人で引き返して
いこうとする、弥凪を追いかけた。
そうして、彼女の肩に手を伸ばした。
けれど、その手が肩に届こうとした瞬間、
僕たちは、突然、黄色い光に包まれた。
それが、猛スピードで右折してきた
バイクのヘッドライトだと気付いた刹那、
僕はありったけの声で彼女の名を呼んで
いた。
「----弥凪ッ!!!!」
僕の声が聞こえたのか、聞こえなかった
のか……驚いた顔をして振り返った彼女
の腕を掴み、強く抱き締める。
と同時に、耳を刺すようなブレーキ音が
辺りに響き渡り、僕たちの体は強い衝撃に
襲われた。
先刻から降り出したらしい雨は、しとどに
アスファルトを濡らし、その道を、等間隔に
街灯が白く照らしている。
僕は夜目が効かなかったが、この道は何度
も歩いていることもあって、それほど不便は
ない。歩道のちょっとした段差やポストの
位置、飲食店が出している置き型の看板など
もちゃんと把握しているので、傘を差しなが
ら弥凪の手を引いて歩いても、特に危ないこ
とはなかった。
大人しく手を引かれている、弥凪の横顔
を覗く。やはり、父親と顔を合わせるのは
気が重いのか、彼女の表情はいつになく
暗かった。
「今日はこちらで預かります」と、母親
に連絡を入れれば良かっただろうか?
そう伝えた上で、一晩、距離を置けば、
お互いに冷静に考える時間が持てたのかも
知れない。そんなことを、ぼんやりと考えて
歩いたが、やはり、正解はわからなかった。
やがて大通りに出ると、夜道は一層明るく
なった。コンビニやガソリンスタンドから漏
れる灯りが、僕の狭い視界を照らしてくれる。
僕の家から弥凪の家までは歩いて約20分。
駅を超え、また住宅街を少し歩いた先に、
半円状のデザイン住宅が見えてくる。
僕は弥凪と手を繋いだまま、つい先刻、
一人で肩を落としながら渡った横断歩道を、
今度は二人で歩き始めた。
ところが、まもなく、信号を渡り切ろうか
というところで、突然、僕の手の中から弥凪
の手が、するりと抜けていった。
「……!?」
僕は振り返り、横断歩道の真ん中に突っ
立っている弥凪を見る。他に信号を渡る
人影はなく、夜中とあって赤信号を待つ車
の姿は見当たらないが、だからと言って
そんなところに留まっていれば、すぐに、
目の前の信号は赤へ変わってしまうだろう。
「弥凪、行こう。危ないよ」
そう言って、彼女の元に戻りかけた僕に、
彼女は大きく首を振った。
(行かない!ずっと、純と一緒にいる)
手話でそう言ったかと思うと、弥凪は、
いま、渡ったばかりの信号を戻り始めて
しまった。
「弥凪!?ちょっと待って……」
僕は慌てて、雨の中を一人で引き返して
いこうとする、弥凪を追いかけた。
そうして、彼女の肩に手を伸ばした。
けれど、その手が肩に届こうとした瞬間、
僕たちは、突然、黄色い光に包まれた。
それが、猛スピードで右折してきた
バイクのヘッドライトだと気付いた刹那、
僕はありったけの声で彼女の名を呼んで
いた。
「----弥凪ッ!!!!」
僕の声が聞こえたのか、聞こえなかった
のか……驚いた顔をして振り返った彼女
の腕を掴み、強く抱き締める。
と同時に、耳を刺すようなブレーキ音が
辺りに響き渡り、僕たちの体は強い衝撃に
襲われた。
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