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第三章~幸せ願うは異形の像に
間話 ~小さな泉の小さな蛇
しおりを挟む間話 ~小さな泉の小さな蛇
昔々、森の奥にある泉に、小さな蛇がいました。
泉の畔にある光る石に身体を拘束されて、小さな蛇は身動きが出来ないでいた。幸いなことに、餌などに困ることはありませんでしたが、長い孤独に耐えられなくなっていたのです。
寂しさの中で小さな蛇を慰めたのは、遙か昔に失った子供らの思い出だけでした。
そんなある日、泉に他の動物の毛皮を身につけた、二足の獣がやってきました。
背格好で一番近いのは、猿。でも体毛は頭と顔以外は薄く、脚にはなにかを巻き付け、背中には大きな膨らみがありました。
小さな蛇が見たことのない、珍しい獣は泉に近寄ると、手で水を掬い、口に運んだ。獣にしては珍しい水の飲み方だ――と思っていた小さな蛇に、その獣は顔を向けました。
「ほお……こんなところで、妙な幸運があったものだ。元気かね、小さな蛇さんや。この姿に興味があるのかな? わたしは人間という動物だ」
人間なんて、初めて聞く獣の名前だ――そう思ったすぐあとに、小さな蛇は驚きました。
人間の喋った言葉が、理解できるのです。頭上で鳴く鳥や、昆虫たちの鳴き声、遠くから聞こえる狼の遠吠え――それらの意味するところは、まったく理解できないのに、この人間の声は、まるで同族のように理解できました。
――なぜ、言葉が通じるのだろう?
小さな蛇のか細い声に、その人間はあっさりと答えました。
「わたしも、君と同じだからだ。小さき蛇よ。我は自由を欲する者。そして、不自由を哀れむ者――だ。君は、なにを欲している?」
人間の問いかけに、小さき蛇は二つの望みを答えました。
一つ目は、自由。この束縛から解き放たれ、自由に動き回ること。二つ目は、失った若子との再会でした。
小さな蛇の返答を聞いて、人間はこう前置きをした。
「君に一つ、良いことを教えよう」
人間が小さな蛇に教えたのは、この状況から自由になる方法でした。
ただし、今も小さい蛇を束縛している光る石は、持ち歩く必要がある――そんな条件がついていたのです。
小さな蛇は人間に、ここから連れ出して欲しいと頼みました。ですが、人間は「それはできない」と断ってしまいました。
「こればかりは運命なのだよ、小さな蛇よ。他者が探したところで、見つかるわけではない。待ち給え、運命の日を。必ずや、それは訪れる。そして、自由になったとき、これを探すと良い」
人間は、石で出来た何かを膨らみから取り出した。頭部は猿、それに猫と豚のついた腕が一対に、偶蹄目に似た脚を持つ姿が彫られたそれを、人間は小さな蛇の前に置きました。
「これは、まだ四つしか出来ていない。少し特殊な石が必要でね。今の世界では、ほとんど見かけないのだ。魂器召喚の祭器の欠片を見つけては、それを使って彫っている。
これが六つ揃えば、二つ目の願いも叶うだろう。ただし、器となるものが必要になるし、満月の晩にしか使えない。それだけを気をつけてくれ」
石の像を小さな蛇の前に置きっぱなしにしたまま、人間は去って行ってしまいました。
それから刻は過ぎ、運命を諦めかけた小さな蛇の前に、再び人間が現れました。しかも、今度は三匹です。なにか急いでいるような三匹の後ろから、馬に跨がった人間が五匹も追いかけてきました。
手に光る金属の薄い板――剣を持つ五匹の人間たちは、最初に現れた三匹を襲いかかりました。
五匹の人間に斬られた三匹の人間は、そのまま地に伏しました。
襲ったにも関わらす、喰うことすらしなかった五匹は、三匹の身体を探ると、丸く光るものや、光る石などを奪っていきました。
五匹は立ち去ろうとしましたが、その中の一匹が蛇の近くに転がっていた、石の像を拾い上げました。
――返して!
蛇は何度も叫びましたが、今度の人間には声が届かなかったのか、石の像を持ち去ってしまいました。あとに残された小さな蛇は、嘆き悲しみました。
ですが、希望も残されていました。目の前にいる小さな人間は、虫の息でしたが、まだ生きていたのです。
小さな蛇は、微かな希望を抱きながら、以前に会った人間に教えてもらった通りの方法で、ようやく自由を手にしました。
小さな蛇の手によって、小さな人間――まだ六歳の少女は息を吹き返したのです。
少女は泉の畔にある光る石を手にすると、両親だった二人の遺体には目もくれず、歩き始めました。
少女はやがて、小さな集落に辿り着きました。
「こんな小さな女の子が、一人でここまでくるなんて」
集落の人々は、「きっとなにかの悲劇があったに違いない」と、少女を集落で育てることにしました。
少女は最初、ほとんど無口だったのですが、集落の住人たちが親身になって世話をした甲斐あって、の二ヶ月経った頃からぽつりぽつりと言葉を発し始めました。少女の年齢からすれば、かなり辿々しかったのですが、集落の人々は大層喜びました。
それから月日は流れ、集落での生活も随分と変わりました。
何世代もの住人が入れ替わったころ、集落では一人の女性が長となりました。その女性は、周辺の街や村から引き取ってきた孤児たちを、集落で育て始めました。
その行いから、女性は聖女と呼ばれるようになりました。聖女の首にはいつも、光る石を飾り石にしたネックレスが輝いていました。
その光る石は昔々、小さな蛇を束縛していたものでしたが――それを知る人間は、集落にはいませんでした。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
お客様がお読みになったものは、『転生して古物商になったトトと幻獣王の指輪』に間違い御座いません。大昔の話から始まった――ということで、少し実験的な地の文にしてみました。
予想以上に面倒くさかったです。
仕事の昼休憩中に昼寝をしていたら、出入りしているドリンク系の業者さんに叩き起こされまして。
「買ってくださーい」
というので、余っているものを聞いたら、今話題のアレでした。
それじゃあということで購入したんですけど……帰宅まで飲まなかったので、いつドリンク強盗が襲いに来るかと思って、ビクビクしながら帰りました。
すいません、さすがに後半は嘘です。
車の中で飲んだりました。今日は舌打ち爺さんもいないので、気が楽です。
次回は、土日のどちらかだと思います。ここ最近のパターンから予想すると、そんな感じだと思います。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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