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36 予想外の歓迎
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「そんなことより、ティナの立場が複雑であることを忘れないでほしい」
レイナルトは冷めた視線を両親に送る。
「彼女は帝国へやってきてから多忙でした。俺と正式な婚姻を結ぶ前に、このような夜会で悪目立ちするのは避けるほうが賢明でしょう。なにより父上も母上も、こんなにかわいいティナに会わせたらうるさいのは目に見えています。彼女の自由を奪われるのは迷惑です」
「そんなこと言って、あなたが独り占めにしたいだけじゃないの?」
「はい。できる限りそうするつもりです」
「やっぱり」
皇妃は大きくため息をついた。
「あ、あの……?」
ミスティナは先ほどからの違和感を口にする。
「私はグレネイス帝国にとっての人質として、レイナルト殿下の婚約者候補に考えていただいたのだと思っていましたが」
「いやいや、まさか!」
「人質だなんて、とんでもないわ!」
皇帝陛下夫妻は慌てて否定した。
「あなたは我が国とローレット王国の友好を運んでくれる、女神様のような存在よ! しかも薬術の知識もすばらしくて、無礼王子の額に肉って書く愛嬌なんて最高で……もう、かわいすぎて声もかけられなかったの!!」
ミスティナは目を丸くする。
皇太子の婚約者として試されていると思っていたはずが、このような形で歓迎されるのは予想外だった。
*
ミスティナとレイナルトが皇帝夫妻と応接間へ向かった後。
皇城の夜会に出席する面々は、彼らのいるであろう応接間の方に目を向け、心配そうに囁きあっていた。
「ミスティナ王女は無礼なスクワート王子を撃退したり、皇太子との仲睦まじい姿を見せていたが……。皇帝陛下夫妻から婚約者と認めてもらえるかは、また別の話だろう」
「ああ、皇帝陛下夫妻と皇太子の不仲は有名で、顔を合わせれば無言か険悪のどちらかだ。しかも皇太子が連れてきたのは、敵対国であるローレットの王女だ。揉めごとは避けられないだろう」
「それだけならまだしも、皇太子は先代の暴君皇帝に認められる最強魔術師だ。もし皇帝陛下の命を狙うようなことがあれば……」
そのとき、応接間の扉が開く。
ホールにいた者たちは緊張した面持ちで、その先へと注目した。
皇帝夫妻とともに、ミスティナがレイナルトと応接間から出てくる。
「皇帝陛下、皇妃殿下、婚約パーティーの招待を快諾してくださって、ありがとうございます!」
「ふふ、またミスティナに会えるのを楽しみにしているわ。婚約式は話した通り、私たちの方で準備しておくから安心してね」
皇妃の弾んだ声に、人びとは耳を疑う。
隣に立つ皇帝も、いつもの厳しい表情ではなく笑顔を浮かべていた。
「おいレイナルト。そんなに急いでミスティナを連れて帰らなくてもいいだろう」
「帰ります。用は済みました」
「そんなことを言って、おまえがミスティナを独り占めしたいだけではないのか」
「はい。本音はそうです」
「でも私たちだって、もっとミスティナと話したいのに……。もう少しゆっくりしてもいいじゃない。ようやく女性を寄せ付けたがらないあなたから、婚約者を紹介してもらえたんだもの!」
「それならもう、スクワート王子のような者がいる夜会に呼ぶ真似はしないでください。そのせいで今日のティナは疲れているはずなので、早く休ませたいんです」
皇帝夫妻は不満を言い、レイナルトが冷淡に返事をする。
その応酬は不仲な彼らによくある光景のはずだが、普段と明らかに様子が違った。
ミスティナは会場から注目を集めていることに気づき、密かに微笑む。
(ふふ。来たころと違って、私が黙っていても会話は弾んでいるわ)
ミスティナが嬉しく思っている今も、レイナルトと皇妃は言い合いをしている。
皇帝は「おや。ミスティナがくれた薬を飲んでから、体まで軽くなった気がするな」と笑った。
(これならきっと、皇帝夫妻との不仲の噂も自然となくなるはず……もっと気軽に会えるようになるわよね)
レイナルトと皇帝夫妻は、去り際まであの調子だった。
ホールに集まった来場者たちは揉め続ける彼らの姿を、信じられないように顔を見合わせる。
「やはり皇帝夫妻と皇太子は、婚約者候補であるミスティナ王女のことで揉めていたらしい。が、婚約は認められているようだったし、その……なんだ」
「あれは、ミスティナ王女の取り合いというのか?」
「……平和だな」
「ああ、謀反を起こすとはとても思えない」
この夜会で起こった一連の出来事は、瞬く間に帝国中の噂となった。
敵国とされるローレットの王女が皇太子の婚約者として、皇帝陛下夫妻から正式に認められる。
それに対する反発ももちろんあったが、意外にもレイナルトを危険視していたはずの夜会出席者の祝福の声が強く、すぐに消えていった。
レイナルトは冷めた視線を両親に送る。
「彼女は帝国へやってきてから多忙でした。俺と正式な婚姻を結ぶ前に、このような夜会で悪目立ちするのは避けるほうが賢明でしょう。なにより父上も母上も、こんなにかわいいティナに会わせたらうるさいのは目に見えています。彼女の自由を奪われるのは迷惑です」
「そんなこと言って、あなたが独り占めにしたいだけじゃないの?」
「はい。できる限りそうするつもりです」
「やっぱり」
皇妃は大きくため息をついた。
「あ、あの……?」
ミスティナは先ほどからの違和感を口にする。
「私はグレネイス帝国にとっての人質として、レイナルト殿下の婚約者候補に考えていただいたのだと思っていましたが」
「いやいや、まさか!」
「人質だなんて、とんでもないわ!」
皇帝陛下夫妻は慌てて否定した。
「あなたは我が国とローレット王国の友好を運んでくれる、女神様のような存在よ! しかも薬術の知識もすばらしくて、無礼王子の額に肉って書く愛嬌なんて最高で……もう、かわいすぎて声もかけられなかったの!!」
ミスティナは目を丸くする。
皇太子の婚約者として試されていると思っていたはずが、このような形で歓迎されるのは予想外だった。
*
ミスティナとレイナルトが皇帝夫妻と応接間へ向かった後。
皇城の夜会に出席する面々は、彼らのいるであろう応接間の方に目を向け、心配そうに囁きあっていた。
「ミスティナ王女は無礼なスクワート王子を撃退したり、皇太子との仲睦まじい姿を見せていたが……。皇帝陛下夫妻から婚約者と認めてもらえるかは、また別の話だろう」
「ああ、皇帝陛下夫妻と皇太子の不仲は有名で、顔を合わせれば無言か険悪のどちらかだ。しかも皇太子が連れてきたのは、敵対国であるローレットの王女だ。揉めごとは避けられないだろう」
「それだけならまだしも、皇太子は先代の暴君皇帝に認められる最強魔術師だ。もし皇帝陛下の命を狙うようなことがあれば……」
そのとき、応接間の扉が開く。
ホールにいた者たちは緊張した面持ちで、その先へと注目した。
皇帝夫妻とともに、ミスティナがレイナルトと応接間から出てくる。
「皇帝陛下、皇妃殿下、婚約パーティーの招待を快諾してくださって、ありがとうございます!」
「ふふ、またミスティナに会えるのを楽しみにしているわ。婚約式は話した通り、私たちの方で準備しておくから安心してね」
皇妃の弾んだ声に、人びとは耳を疑う。
隣に立つ皇帝も、いつもの厳しい表情ではなく笑顔を浮かべていた。
「おいレイナルト。そんなに急いでミスティナを連れて帰らなくてもいいだろう」
「帰ります。用は済みました」
「そんなことを言って、おまえがミスティナを独り占めしたいだけではないのか」
「はい。本音はそうです」
「でも私たちだって、もっとミスティナと話したいのに……。もう少しゆっくりしてもいいじゃない。ようやく女性を寄せ付けたがらないあなたから、婚約者を紹介してもらえたんだもの!」
「それならもう、スクワート王子のような者がいる夜会に呼ぶ真似はしないでください。そのせいで今日のティナは疲れているはずなので、早く休ませたいんです」
皇帝夫妻は不満を言い、レイナルトが冷淡に返事をする。
その応酬は不仲な彼らによくある光景のはずだが、普段と明らかに様子が違った。
ミスティナは会場から注目を集めていることに気づき、密かに微笑む。
(ふふ。来たころと違って、私が黙っていても会話は弾んでいるわ)
ミスティナが嬉しく思っている今も、レイナルトと皇妃は言い合いをしている。
皇帝は「おや。ミスティナがくれた薬を飲んでから、体まで軽くなった気がするな」と笑った。
(これならきっと、皇帝夫妻との不仲の噂も自然となくなるはず……もっと気軽に会えるようになるわよね)
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ホールに集まった来場者たちは揉め続ける彼らの姿を、信じられないように顔を見合わせる。
「やはり皇帝夫妻と皇太子は、婚約者候補であるミスティナ王女のことで揉めていたらしい。が、婚約は認められているようだったし、その……なんだ」
「あれは、ミスティナ王女の取り合いというのか?」
「……平和だな」
「ああ、謀反を起こすとはとても思えない」
この夜会で起こった一連の出来事は、瞬く間に帝国中の噂となった。
敵国とされるローレットの王女が皇太子の婚約者として、皇帝陛下夫妻から正式に認められる。
それに対する反発ももちろんあったが、意外にもレイナルトを危険視していたはずの夜会出席者の祝福の声が強く、すぐに消えていった。
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※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
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