【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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43 盟約

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 大聖堂がまばゆい光に包まれた。

 見上げた瞬間、空間に亀裂が走る。
 現れた裂け目から、巨大な影がゆっくりと降り立った。

(白い……犬?)

 その獣は、公爵が魔力暴走したときに見た犬の姿に、どこか似ている。
 けれどはるかに大きく、毛並みは雪のように白い。

「あのすがたは……!」

 大聖女が、はっと息をのんだ。

「けいじでみた、ていとをおそう、きょうじゅうですわ!」

(えっ。召喚ガチャを回しまくった結果、凶獣引いた!?)

 誰もが声を失い、白き巨体を見上げる。 

 私の腕の中にいたエトワールが、獣へと振り返る。
 そして私を守るように、ぱっと両腕を広げた。

「だめ、おっきいいぬしゃん! おかぁしゃま、ぱくってちない!」

(前にエトが泣いて話した「私が犬に食べられる夢」の犬って……!?)

 凶獣は舌なめずりをしながら、獲物を探すように周囲を見回す。

(あ、これ。全力で食べるときの顔だわ)

 小説内で凶獣に殺されたシーンが脳裏をよぎる。
 捕食者の目が私で止まり、優雅に跳躍した。

(こっ、こっちに来た!)

 けれど凶獣は身構えた私ではなく、祭壇へと歩み寄った。

 そこには整然と並べられた供物。
 私のかわいいキャラスイーツが、大きく口を開けた凶獣の牙に貪られていく。
 大司教は分厚い聖典を抱えたまま叫ぶ。

「あの神々しい姿……凶獣ではない。間違いなく神獣!」

 広間が一気にざわめく中、大司教は続ける。

「魔の飢えを鎮めるため、供物を欲しているのだ!」

 お供えは、ちゃんと意味があったらしい。
 神獣はもぐもぐと、最後のケーキを平らげる。

(スイーツで満足すれば、小説みたいに私を食べたりはしない、はず……よね?)

「実に美味。しかし、まだ足りぬ」

 鋭い眼光がこちらへ向けられる。
 まるで、最後のデザートを吟味するみたいに。

(ヒッ! 私を食べてもおいしくないわ、たぶん!)

「供物を捧げたのは、お前だな」

 なんかバレてるし。誤魔化すなんて、出来そうにない。

「……は、はい」

「気に入った。供物を重ねるならば、この地を守護しよう。盟約、結ぶか?」

(たぶんこれ、私の発言によって帝国の運命が変わるやつだわ)

 視線を送ると、大司教が勢いよく頷く。
 それを確認してから、私は白い獣を見つめた。

「神獣様の仰せのままに。今後も供物を捧げます。どうぞ、この国をお守りください」

「承知した」

 神獣は大きなあくびを一つすると、くつろいだ様子で身を伏せ、目を閉じる。
 ほどなく、静かな寝息を立てはじめる。

「……す、すごい」

 人々は祈るように手を合わせ、歓声と涙が交じり合った。

「神獣がこの国を守ってくれるなんて!」

 子どもも大人も、声を上げて笑う。
 先ほど召喚された山のような品々を抱え、大聖堂は一気にお祭り騒ぎになった。

 儀式の最後、女帝は参列者に告げた。

「祈りが奇跡を呼び、帝国民は神獣の守護を得た。この素晴らしい啓示の儀を、私は心から祝福する」

 その宣言とともに、新たな啓示の儀は幕を閉じた。

 女帝は去り際、ふと足を止めて振り返る。
 ほんの一瞬だけ、大聖女と交わし合った微笑み。
 そこには母と娘の想いがあった。

 再会は果たせた。
 けれど、まだ遠い。
 それでもいつか、肩書ではなく家族として、自然に笑い合える日が来てほしい。

 ふと、白い巨獣の気持ちよさそうに眠っている姿に、視線が止まる。

(それ、神獣がいれば叶うんじゃない?)

 腕の中のエトワールが、こくんと頷くように首を落とすと、すぐに寝息を立て始める。
 あれほどたくさん召喚したのだし、無理もない。

 私は眠るエトワールを腕に抱えたまま、深く息を吐く。

(……エトの魔力、ちょっと取り込みすぎたかも)

 腹の奥で、嫌な重みがじわじわと増していく。
 今の私は悪喰で吸った魔力を、そのまま貯める体質になっている。

(これ、「おなかいっぱい」どころじゃないわ。むしろ、はちきれそう)

 このままでは悪化して、私が魔力暴走しかねない。
 それでも、エトワールを抱いたまま倒れるわけにもいかない。

 そう思っても身体はいうことをきかず、踏みとどまろうとした足がよろめく。
 次の瞬間、背後から大きな腕が伸びてきて、私の肩をしっかりと包み込む。

(あ。少し、楽になった)

 不思議だけど。振り返らなくても誰なのか、わかる。

「もう、大丈夫だ」

 その温もりに身を委ねながら、私は静かに頷いた。
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