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ep3

王女と女王

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「城に行く前に、ちょっと『ほうれん荘』に寄って打合せしましょう」

「パール、なんの打合せをするんだ」

「バカミューラー、城の中で王女様にそんな話し方したら、不敬罪で投獄されるわよ。」

「王女様、なんの打ち合わせを、するんでございますか。
これでいいだろうメーリールー」

「二人は、いつも楽しそうね。
城での作法もあるけど、私たちの結婚を認めてもらう為の作戦を相談するのよ。
ギルマスのマーシーさんの前でする話じゃ無いでしょ」

ほうれん荘に着くと、早速ジャンヌさんが出迎えてくれた。

「あらっ また可愛い娘が一人増えたのね。
宿泊かしら」

「ジャンヌさん、今日は、仲間内での相談ができる場所が必要で来ました。」

「秘密の相談かしら。うちじゃあ会議室は無いわよ。せいぜい前に女の子たちが泊まった四人部屋位ね。」

「そこでお願いします。2時間程度お借りしたいです。
料金もお支払しますから」

「使ったあと綺麗にしてくれるなら、泊りの半額にしてあげる。」

ジャンヌは、部屋の鍵をブラブラ揺らしている。

パールが鍵を受け取り、皆で部屋へと向かった。

「なぁパール、もう夕方だぜ、2時間ここに居たら外は真っ暗だろ。そんな時間に城に行っても入れてくれるのか」

ミューラーの問いかけに、パールは少しだけ考えて

「それもそうね。4人部屋は泊まりに変更。追加で男用に2人部屋も抑えて来て。
朝食付きにしてよ。」
パールは、ミューラーに数枚の銀貨を渡した。

「はいはい 行ってきます」

ミューラーが戻るとパールは
「アイ ドアや窓が開かない用にあなたの糸で固めてくれる。
シンディ 私たちの会話が外に漏れない用に『聖女のベール』で出来ないかしら」

「わかった、開かない用にね。」
「防音ね。できるわよ。」

パールの話は、まず王位継承問題から始まった。

パールより先に第二夫人の子ダイヤが産まれている。
その後もまた別の側室が二人の娘(ルビーとヒスイ)を産んだが、男子は一人も居ない。
王位継承権は、第一夫人の子であるパールが一番で、それに次いでダイヤ、ルビー、ヒスイとなるそうだ。

パールの憶測では、先日の魔物使いもこの王位継承権問題と関係があるかもと言うことだ。

「第二夫人かダイヤが刺客を送ってきた首謀者ってこと」

シンディの問いかけにパールは

「可能性はあるけど、彼女らの周りに、ダイヤを王にすることで利権を得られる人も居る。
そういった人が勝手にやったのかも知れない
ルビーやヒスイだって動機が全く無いとも言えないわ。」

「そいつら皆殺して食えばいい」

「アイ それはだめよ。
まず第一にわたしは、彼女たちを殺したいとは思ってないわ。
それに証拠も無しにそんなことしたら、王位継承権は剥奪され犯罪者になるわ」

腕組みをして聞いていたパックが口を開いた

「所でパール、君は本当に女王になりたいの。
ぼくらと学院に通ったり、冒険者になったりとか、もっと強くなりたいとか、女王になりたく無いのかと感じてたんだけど」

「女王になったら、そのどれも出来ないじゃない。
今しかないのよ、私の自由は。
今だって女王になんかなりたくないわ。
でも、ダイヤもルビーもヒスイもその器じゃ無いのよ、ただただ贅沢をして、太鼓持ちの貴族とつるんでいるだけ。
平民の事なんて何も考えてないわ。
諸外国のこともパーティー仲間位にしか思って無いのよ。
戦争になるとか、クーデターが起きる可能性なんか無いと思ってるお馬鹿さんたちよ。
彼女たちに任せたら、この国は滅びの道を一直線よ。」

「で、自分が犠牲となってでも、この国を良い方に導きたいと思ってるんだね。
これまでの行動は、その為の武者修行だと。
じゃあぼくらは君にとってのなに。
君の為の政治のツールかい。」

「パックやみんなのことをツールなんて思って無いわよ。
パックのことは恋人だと思ってるわよ。」

「君は、ぼくらの仲間のパールからパール女王陛下に変わるんだろう。
そしたら、ぼくらも変わらないとならないのかい。」

「ちょっとパック。今になって、わたしとの結婚やめるって言うの
そんなの酷いわ。」

「いまのままのパールと結婚したいってことだよ」

「わたしは急に王女になった訳じゃ無いわ、産まれたときからそれは変わってないわ。王女が女王になっても私は私よ」

「君が女王になってもぼくらは、冒険者パーティー『X"エッグス』のままでいてもいいのかい」

「それは、みんながそう望むのなら。それでいいわ。」

「結婚と同時に王位継承権を放棄するつもりは全く無いの
そしたら刺客に狙われることもなくなるだろう」

「パック、私はこの国をより良くしたいの。国を食い物にして贅沢してる貴族の富を再分配したい。優秀な人は平民でも登用したい。
そういう仕組みを作るには、女王にならないと。
一冒険者では、無理なのよ。」

「ぼくは、王城に住まなくてもいいかい?」

「えっ、じゃあシンディとアイと3人で住むと言うの」

「自然とそうなるかな。城に住んだらまるでヒモ男、寄生虫みたいじゃないか。
そんな目で見られるのはイヤだし政治には関わりたくないよ。」

「私がやろうとしてることが間違ってると言うの」

「君が正義と思ってる国直しは、今の貴族を不幸にするよね、そしたら、その下で働く人やその家族は、より不幸になるよね。
君の腹違いの姉妹は、確実に不幸になるよね。
今助けを求めてる人を助ける。
その心がけは素晴らしいよ、でもその為に誰かを不幸にしてもいいのかな。」

「正義の為には多少の犠牲は仕方ないんじゃない」

「その犠牲者たちにとっては、正義を振りかざす者は、侵略者であり悪魔のような存在だよ。」

「話にならないわね。私が侵略者で悪魔だって言うの。」

そこにメーリールーとシンディが割って入って、熱くなってる二人を引き離した。

「二人共少し冷静になりなさいよ」
「こんなふうに言い合う二人は見たくないわ」



2~3分誰も話さなかった。



沈黙を破ったのはパールだった



「そうね。全部私の独りよがりよね。
これまで通り、パックもみんなもついてきてくれると、勝手に思い込んでたわ。
私に強制する権利は無いわ。
みんなの望む結婚の形はどんなの。
王宮で貴族諸侯や諸外国から要人も呼んできて披露宴してそれからパレードとかしたい人いる」

するとシンディが、話始めた
「私は小さい頃、お姫様に憧れてたわ。綺麗なドレスを着てみんなに祝福してもらうの。
でも、今は、違うわ。
目の前に本物のお姫様がいるんだもん。
パールと並んだら、ただの引き立て役にしかならないでしょ。
晴れの舞台は一人の花嫁の為のものでしょ。
みんなで一緒に式を挙げるなら、教会で内輪の人間だけがいいわ」

メーリールーがシンディに続き話した
「教会で仲間内でする結婚式に賛成。
ど派手披露宴は、パールとパックの二人でいいんじゃない。
あと、私が言うべきことじゃ無いかも知らないけど、結婚したら夫婦は一つ屋根の下に居るべきよ。」

「なぁパック。パールはこれからも暗殺者から狙われるんだろう。
俺たちがそばに居ない時を狙われたらと思うと心配だよ。
俺もパックは、パールと一緒に居るべきだと思うよ。
もちろんシンディやアイも一緒にね。」

「ミューラー ありがとう。
一人になってでも、パックと別れることになっても、とか考えてたけど、怖かった。
王宮は私が育った場所。
沢山の人が居るけどいつも寂しかった。
警護員も侍女も仕事で私のそばにいる人。
心を開いて話せる相手は、ここにいるみんなと会うまでは、母しかいなかったのよ。

パック

やっぱりだめかな、城で暮らすのは

わたしからの、お願い」



「パール 動揺させるようなことを言ったぼくが悪かった。
謝るよ。
みんなで城に住もう。
これからも君とシンディは、ぼくが守る。
明日朝教会に行ってみんなで式を挙げよう。
それから城へ向かおう。」

「初夜は王宮でかぁ」

「バカミューラー」
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