水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep1

干物

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「漁に連れて行くのはいいが、大ダコの残りを処理しねえと勿体ないから、先にやるのはそっちだな」

 ジンベエは、大ダコをスライスして竹で編んだざるに広げて行った。

「こうやって天日干しにすれば、腐らないで日持ちがするんだ。
 街に持って行けば、結構いい値で売れるんだ。」

「へえー そうなんですか。
 スラッシュ」

 何百もの水の刃が現れて、大ダコを切り刻む。
 あっと言う間に大ダコのスライスが完成した。

「あわわわ あんまり驚かさないでくだせぇ
 ふぅ~ あっと言う間だな。」

 それから二人して、切り身をザルに広げていった。

「これ、出来上がる迄、どのぐらい時間かかるんですか」

「そうだなぁ3日は干した方がいいかな。
 半生も旨いが日持ちさせるならカリカリがいい。
 それを炭火で炙って食えば、いい酒の魚になる。」

「へえー、アタリメのタコバージョンですね」

「アタリメ?何だそれ」

「スルメイカの干したものですね。
 博打好きの人が『スル』って言うのは縁起が悪いから、『スル』を『アタリ』変えて『アタリメ』って言うようになったそうです。」

「へえー、面白い話だな。じゃあこれは『アタリダコ』だ。うんそうしよう。」

「完成系の干し加減は、このくらいですか。」

 アクアは干しているタコを手にとってその能力でタコの身から水分のみを取り出して、カリカリに仕上げてみた。

「あれま。アクア様はこんなこともできるだか。
 オラ驚いてばかりだよぅ
 どれどれ」

 ジンベエはパクっとそれを食べて、味を確認した。

「気ぃ~悪うせんでくれな。
 オラまだ死にたくないんで。
 うん、まぁ こりゃこれで旨いと思うが、やっぱちゃんと天日干しにしたほうが、うめえ気がする」

「やっぱり、そうですか。そんな気はしてたんですよ。」

 〈確かシイタケとか干すとビタミンDや旨味成分が何倍にもなるって前世で聞いたことがあるわ〉

「タコは、お日様にお任せして、漁に行きませんか」

「ああ、そうだな。ついといで」

 ジンベエについて海岸に行くと、ジンベエは海に入って、足で何かを探ってから手を海の中に突っ込んだ。

「これを餌にして魚を釣るんだ」

 〈潮干狩りかぁ。子供の頃親に連れてってもらったなぁー〉

 アクアは○ルヒヤーのようにジェット水流を起こして次々と貝を見つけた。

「アア アクア様 もう十分だ
 こんだけありゃあ、今から釣るには余るくれえだ」

 二人は、小舟に乗って海へと出た。
 小舟は千鳥が淵でカップルが乗ってるような小さな舟で、この舟で海に出るのは、よほど慎重にしないといけなさそうだ。

 少しだけ沖に出た所がポイントのようだ。
 貝の殻を石で割って針につけて釣りが開始される。

 竿は無くて、糸巻きから出た糸に針とおもりをつけただけの手釣りのようだ。

スルスルと糸を繰り出して底をとり、一尋ひとひろ(手を広げたほどの長さ)ほど糸を巻き取る。
時々手を上下させているのは、魚に誘いを掛けているんだろうか。

「よし キター」

ジンベエが糸を大きくあおりあげてから、たぐりあげる。
時折魚が抵抗するのか、たぐる手が止まる。

「逃がさねえよ」

「タモは無いんですか」

「タモ 何だそれ」

「水面から引き上げる時に、バラさないように魚をすくい上げる網のことです。」

「ああ、そんなもんねぇな。
よし、あと少しだ」

水面近くに来ても、魚は、右に左にと逃げようと泳ぎ回っている。

「魚が弱るまで待つんですか」

「いや、そんなまどろっこしいことはしねえよ」

魚が真下に来たタイミングで、ジンベエは、一気に糸を引き上げた。

魚は空中でもビチビチはねている。

その時、魚の口から、針が外れた。

「あっ」
「あっ」

「ポチャン」


「ほいっと」

魚が四角く切り取られた海水と共にあがってきた。

「あはは 面目ねえ。
流石アクア様だ」

「いやいや、それよりタモを用意しましょうよ」

その後は、バラす事もなく、五匹の魚を釣り上げた。

「まぁまぁだな」

「そうですね。
所で海が荒れて舟が出せない時はどうしてるんですか。」

「干物とかで食いつなぐんだ」

「時化が続く時も有りますよね。
穀類の備蓄とかは無いんですか」

「無いなぁ」

「厳しい生活ですね。アサリさんが出て行った後のジンベエさんが心配です。」

「なら、ご加護でもくれるか」

「残念ですが、私は神では無いので、加護は差し上げられません。ごめんなさい。」

「だったら、仕方ねぇな。構わねぇでくれ。
オラはアサリの足枷にはなりたくねぇ。
もちろん、アクア様の世話にもなりたくないしな。」

「ちょっとだけなら、おせっかいを焼いてもいいですか?
私の知ってることをお教えするだけです。
貝をもう少し拾って帰りましょう。」

「貝を?ありゃ魚の餌だぞ、もしかして食うのか?」

「食べたこと有りますか?」

「ああ、砂だらけでとても食えたもんじゃねえぞ」

「砂抜きさえしたら、美味しく食べれますよ。
貝は何千年も昔から人の食べ物ですよ。」

「アクア様は、何千年も生きてるのか」

「ま まさか。
女性の歳を聞くのは失礼ですよ。」

「すまねぇ、オラ田舎もんだでその辺の礼儀はよく分からねぇ
許してくれ。」

「フフフ いいですよ。悪気が無いのは分かってますから」



アクアは、貝の砂抜きの方法や、日本流の干物の作り方をジンベエに教えた。

ジンベエは、冒険者時代に戦った魔物の特徴や弱点、冒険者ギルドでのランクのことや、色々な魔法のことをアクアに教えた。

「何だか私の方が、いっぱい教わることが多かったわ」

「いやいや、オラのほうこそ食えるものが増えて、魚を旨く日持ちがする方法を教えてもらって、助かった。
アクア様、ありがとうございます。」





次の日の朝には、アサリも復活した。

早速アサリにアサリ汁と伊勢海老の鬼殻焼きを振舞った。

「こんな旨いもんがここで食えるのか!」

「そうね、もう少しジンベエさんに修行つけてもらってからでもいいかもね。
素潜りする気があれば、伊勢海老のいるスポット教えるわよ。」

「素潜りって、泳いで海に潜るのか」

「そうよ、当たり前じゃない。
そのあたりでウニやアワビの高級食材も採れるわよ」

「高級食材かぁ~
でもなぁ~」

「でもなに?」

「俺泳げないんだ」

「えっえっ 漁師やってる癖に?」

「ああ、俺も親父もカナヅチだ」

「そこ、胸張って言うんだ。
で、泳ぎの練習からやるつもりなの?」

「天女の力でパパッと泳げるようになったりしないのか」

「ジンベエさんにも言ったけど、私は神じゃないから、人に加護を、与えたりは出来ないのよ。
アドバイスはできるけど、出来るようになるかどうかは本人次第よ。
結構大変よ、それでもやる?」

「男が一旦やると言ったら、やるんだ。」

「へぇー 
でもね、そこで男気出しても、何ともならないわよ。
明日から5日間。それで駄目だったら諦めて貰うけどその条件でいいかしら。」

「えっ たった5日間かよ」

「海の底で動き回れるようにするだけよ。
海上を何キロメートルも泳げるようにするわけじゃないわ。
本当は3日間って言おうかと思ったけど、念のため5日間って言ったのよ。」

「そうか、よし目標は3日間だ」


♤♡♢♧♤♡♢♧

この頃アクアは、まだまだマリを引きずってますが、次第にアクアの中のマリは、薄れていきます。
前世の知識を使ってどうのとかは、でて来ません。
こどものアクアが少しずつ成長してゆくストーリーにしたいと思ってます。

この先も読んでもらえると幸いです。よろしくお願いします。

お気に入り登録もお待ちしてます。
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