水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep1

親子対決

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「アクア様
起きてますか~
朝飯が出来ました。
用意ができたら降りてきて下さい」

階下からアサリの声がした。

「はーい。直ぐ行きます。」

アクアは、とっくに目覚めていたが、色々と思いを巡らせていた。
ベッドやベールは、朝まで消えることはなかった。

二人には元天女として認識されたので、着物ではなく水のベールを纏うことにした。もちろん透けないタイプのベールだ。

〈天女が舞い降りる話って、大体が周りを巻き込んでさんざんお騒がせ事件を起こしておいて、サラッと天界に帰っちゃうパターンか、漁師と夫婦になって子供を作るんだけど、迫害を受けて苦労して暮らして、最後には鬼だが天災を鎮めて死ぬのよね。
どっちも嫌だなぁー
ジンベエさんやアサリくんとの結婚も無いなぁ
そうすると余り深入りする前に消えるのが一番ね〉

下に降りると、二人がポカーンとしてアクアを見つめる。

「綺麗だ」
「本当に天女なんだ」

「止めて下さいよそんな、照れますから」

アクアは、前世でもさんざん「美人ね」とか「スタイルよくて羨ましい」と言われていたので、褒め言葉には免疫が有ると思っていたが、ここまでストレートに面と向かって言われると流石に照れた。


朝食は昨日の晩と同じ食事だった。
アラ汁と串に刺して焼いた魚だ。

〈せめて白米があればなぁ〉

そう思ったが、貧しい彼らが私の分まで食事を用意してくれたんだから、文句を言ったら私にこそバチが当たると思って、何も言わずに食べた。


食事が終るといよいよ親子の対決だ。
当然砂浜が舞台となり、二人は木刀を持っている。
審判を任されたアクアが仕切る。

「これは戦闘ではありません。
お互いの力を、計るための対決です。必要以上のダメージを与えることは禁止とします。
いいですか」

「ああ それでいい」
「わかった 始めよう」

一旦二手に分かれた二人が対峙する。
アクアが手を上げて「始め」の合図をした。

アサリが間合いを詰めて木刀を打ち込む。
ジンベエはそれを悉く捌いてみせる。
ジンベエの蹴りが入って、アサリが倒された。

「こんなもんじゃないよな。あんだけデカい口叩いたんだ。」

アクアは、アサリが倒れた時点で止めに入ろうかと思ったが、アサリの目を見るとまだまだ闘志があるようで、もう少し静観することにした。

「まだ序ノ口さ」

アサリが、何やら呪文を唱え始めると

「させねぇよ」

今度はジンベエが次々と木刀で打ち込んでいく。
アサリは、それを捌くのが精いっぱいで、詠唱を途中でやめざるを得なかった。

「魔法なんてのはなぁー
撃たせなきゃいいんだよ」

またしてもジンベエの蹴りがアサリの腹に決まった。

だが今回はアサリは倒れる事もなくそのまま剣を構えて立っていた。

「ほう 魔力で身体強化か
面白い、どこまでやれるか視てやる。かかってこい。」

アサリは、さっき迄とは別人のスピードでジンベエに斬り掛かっていった。
激しく木刀がぶつかる音が10分位続いた。
二人共肩で息をしている。

「親父 もういっぱいいっぱいじゃないか。降参したらどうだ」

「アサリ 生意気言ってんじゃねえ。お前こそ魔力が底をつきかけてんだろ。」

「分かった。次で決める。」

「おう こいや」

これまで以上の鍔迫り合いが始まって直ぐに、二人の木刀が同時に折れた。

「どうする。親父」

「当然、こうなりゃゲンコツ勝負だ」

限界を超えてまで戦う二人を、アクアは見守ることしかできなかった。

「あっ」

二人のパンチが交差するようにお互いの顔面に決まり、二人共崩れるように倒れた。

「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
ダブルノックアウト
この勝負引き分け!」

二人共大の字に寝てはいるけど、意識は回復したようだ。

「アサリ 強くなったな。
最後のパンチは良かったぞ」

「親父こそ。まだ現役の冒険者で行けるんじゃねえか。
ああ 体中が痛えよ」

「身体強化なんか使うからだ、俺は反動が嫌で使わないことにしてる」

「親父 身体強化使えたのか?」

「ああ、昔は使った後の反動をキャロラインが癒やしてくれてたんだ」

「また、母さん思い出して泣いてるのかよ。」

「仕方ねぇだろ。勝手に出てくる物は。
好きな時に出ていけ。いい女を見つけるんだぞ。」

ジンベエはアクアに向ってウインクをした。

〈それって私のことをアサリくんのお嫁さん候補として見てるってことよね。
だめよそんなの三十路の女とまだ青い少年となんて〉

「そうね、アサリ君ならきっといい人が見つかるかもね」

アクアは他人事のように相づちを言って誤魔化した。

寝てる二人の下にウオーターベッドを作り、二人を乗せたベッドを小屋へと移動した。

「さすが天女様だ」

ジンベエは私の能力に感心している。アサリの方は本当に辛そうだ。

「元天女よ、アクアって名前で呼んでって言ったでしょ」

「すまねぇ。世話になる」

アサリは声は出さずに手を上げて合図をした。

二人を小屋に置いて、アクアは海に入って行った。

〈私の能力で魚を捕まえられないかしら〉

アクアは自分の能力を再検証した。
海の中や上なら凄いスピードで動く事ができる。
海の水を噴水のように打ち上げる事もできる。
作り出した水の温度も好きに変えられる。
ウオーターベッドやバスタブなどは水と空気の境界を作り出す事もできた。

それなら、水中でも境界を作れるかも知れない。

アクアは小魚の群れを取り囲むように境界を作り出した。

小魚を囲んだ境界は、先程のベッドのように、自由に動かす事が出来た。

〈これなら見える範囲の物は何でも取り放題ね。
今更だけど、凄い能力よね〉

小魚を解放して、珊瑚礁へと向かった。

〈海老が食べたいなぁ〉

すると直ぐに大きな伊勢海老が見つかった。

伊勢海老の周りに境界を作り出して手元に持ってくる。
それだけで漁になる。

〈なんだか簡単過ぎて漁師さんに申し訳ないなぁ〉

10匹ほどの伊勢海老を捕まえて悠々と戻ろうとすると、伊勢海老を狙って大ダコがやって来た。
タコはアクアより大きくて、伊勢海老どころか、アクアの事も狩りの対象にしていた。
太い吸盤の付いた足をアクアを捕えようと伸ばしてきた。

〈私を狙うなんて、バカね〉

大ダコの周りを境界で囲んで、捕獲完了だ。
境界の中の海水を熱湯にして運んだ。

浜に着いた頃にはゆでダコが完成していた。

小屋の囲炉裏で、ゆでダコの足を串刺しにして、伊勢海老と一緒に焼いて、アラ汁の残りの中にもタコと小ぶりな伊勢海老を放り込んだ。

「なんか美味そうな匂いがする」

そう言ってジンベエが起きてきた。

「アクア様 こりゃあいったいどうなってるんだ。
化物みたいな大ダコに、海に潜らないと捕れない海老じゃないか」

「私は『水の申し子アクア』よ
水を自在に扱えるの。タコだろうが海老だろうが捕まえるのは簡単なのよ。
どうぞ召し上がれ。」

ジンベエは、凄い勢いで食べ始めた。
「うんめえ~ タコも海老もうんめえ~」

タコ足の串焼を持ってジンベエはアサリの所に行って

「うんめえ~から、お前も食え!」

アサリを抱き起こしてタコを口に持っていくのかと思ったら

「アチッ バカ親父
ほっぺたにくっつけるなよ
熱いじゃねぇか」

アクアは、前世で見たお笑い芸人のような二人のやり取りに、大笑いしてしまった。

〈ジンベエさんて、おちゃめな所もあるのね〉

「ちゃんと食って休まないと、魔力も回復しないぞ、ほれアーン」

「止めてくれ、自分で食うよ」

アサリは手をのばして串焼を受け取った。

アサリは、力無い感じだったが、タコの串焼を一口二口食べると

「親父 このタコ 魔物だよな」

「ああ、そうだな。魔力を感じるだろう。今のお前に一番足りないもんだ。
俺たちじゃあ仕留められない奴だよ。アクア様に感謝しろよ。」

「アクア様、ありがとうございます。おかげで、早く元気に成れそうです。」

アサリは、もう二本タコ串を食べてから「寝るわ」といって横になった。

翌日もアサリは「まだ辛い」と言っていたので、アクアはジンベエの漁に連れてってもらうように頼んだ。

「漁に連れて行くのはいいが、大ダコの残りを処理しねえと勿体ないから、先にやるのはそっちだな」


♧♢♡♤♧♢♡♤

お読みいただきありがとうございます。

この先どんどんと、マリはアクアになっていきます。
少しづつ成長していくアクアをこれからも見守っていただけると幸いです。

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