水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep2

冒険者となる

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 冒険者ギルドは、ちょうど一日の活動を終えて戻ってくる人が多い時間帯だった。

「おら どけお前ら、ギムラ様のお帰りだ。
 ん なんだお前ら見ねぇ顔だな、新人か?
 オッサン一人にガキ二人かぁ。
 死なねぇように頑張れよ。
 俺様はBランクのギムラだ。
 わかったらそこをどけ。」

「Bランクかなんか知らないけど、なんでアンタに順番譲らなきゃならないのよ。
 強い人ほど礼儀正しく、みんなの手本とならないといけないでしょ。
 多少腕っぷしが強くても、順番も守れないようじゃ人として駄目ね」

「アクア!止めろ!」
 ジンベエが止めに入ったが、遅かった。

「なんだとこのメスガキ、物の道理を知らねぇのはお前の方だ。
 ションベンちびって泣いても許さねえぞ」

 ギムラはアクアに掴みかかってこようとしたが

「えっ」

 と一言だけ言って、倒れた。

「あなた、私に掴みかかってこようとしたから、正当防衛よね。
 このまま死ぬ?
 それとも周りの人みんなに謝って列の後に並ぶ?
 どっちにしても、もうその右手は一生使えないかも知れないけどね。」

ギムラの右手は、干からびたミイラの様になっていた。
そう、アクアは、干物の様にギムラの右手から水分=血液を抜き去ったのだ。
ギムラは左手で右ひじあたりを押さえながら、画面蒼白だ。

「てめぇ、俺に何を」

「ふぅーん。
 このまま死ぬ方を選んだのね。
 あなたの質問に答える気は無いわ。」

「わかった。謝る。
 順番守らなくてごめんなさい。
 ちゃんと後に………」

 それっきりギムラは気を失った。

「間に合うかなぁ。
この人の体力時代ね。」

アクアはギムラに血液を戻した。

するとギムラの顔色は倒れた時より少し赤みが戻って来だした。

「こんなとこで寝てられたら邪魔よね」

 アクアはウオーターベッドをギムラの下に作り出し、ギムラごとベッドを部屋の端に移動させ、それからベッドをソファに変えた。

アクアの意のままに、ベッドが何も無い所から現れ、人を載せて移動したのだ。
その場にいた誰もがポカンとしてアクアを見ていた。

「これでよし」

 アクアがそう言うと、一気に歓声があがった。

「すげぇーな嬢ちゃん、あのギムラを一捻りかよ」
「頼む俺たちのパーティーに入ってくれ」
「バカ、お前らじゃ釣り合わねぇよ、うちのパーティーに来てくれよ」

 アクアの周りに人集りひとだかりりができ、アクアは揉みくちゃにされていた。

「えーい 控え控え控え~~~い
このお方をどなたと心得る
下がれ下がれ、頭が高ぁ~~い
この乱れた世の中を、たださんが為に天が遣わした『水の申し子アクア』それこそがこの方ぞ。
フー フー」

大見得切って、ジンベエは肩で息をしている。

アサリが、おら知らねぇとばかりに両手を広げたポーズで

「アクアがいきなり大騒ぎ起こすからだよ、親父がこうでもしなきゃ収まらなかったよな。
大勢の前であんだけ能力も見せちゃつたら、『天女を内緒に』なんてどだい無理だよ。
覚悟するしか無いね。『水の申し子アクア』様」

「わかってるわよ。私もちょっとやり過ぎたかなぁとは思ったわよ。でも、あいつ頭にくるんだもん。
事故よ事故」

ジンベエは両手を広げてガードマンのように、アクアに近づく人がいないようにガードしている。
アサリは両手を頭の後で組んで、面倒臭そうにしている。

「あの~ それでご用は?」

アクアの順番が来たようで、受付嬢が恐る恐る声をかけてきた。

「冒険者登録をお願いします。」

アクアは元気に返事をした。

「新規の登録ですね。えーと、先程の件も有りますので、ちょっとここでこのままお待ち下さい」

受付嬢は、奥へピューっと小走りで消えた。

「登録前から騒ぎを起こした問題児には、さてお咎めが有るのかなぁ」
アサリが小声で耳打ちしてくる。

アクアがキッっとアサリを睨むと

「んだよ~おっかねーなぁ」

先程の受付嬢が戻ってきて

「アクアさんとお連れの方は、奥へどうぞ、ご案内します」

カウンターを跳ね上げて中に通してくれた。
『ギルド長室』と札の下がっている部屋の前まで来ると。
受付嬢がドアをノックした。

「先程お話した方をお連れしました。」

「どうぞ」

受付嬢は、アクアと目を合わせて一度ニッコリ微笑んでからドアを開けた。

大きなテーブルの向こうには、熊
?いや顔に傷のある大男が座っていた。

大男はジンベエを見ると
「なんだ、ジンベエじゃねぇか。久しぶりだなぁ。
ん?そうするとこいつがアサリか?
デカくなりやがったなぁ」

大男は、ジンベエと握手を交わしてから、アサリの頭をワシャワシャした。

「や やめてくれよぅ」

「どうしたアサリ。お前も冒険者になりに来たんだろ。」

「おれじゃねぇよハックのおっちゃん。こっちのアクアだよ」

「おいアサリ、ここじゃあ俺の事ギルド長って呼べって言っただろう。忘れたのか。」

「ああ、忘れたよ。誰かに頭をワシャワシャやられたせいだ。」

「アハハハ 相変わらずジンベエの息子は面白えガキだ」

「あの~~お楽しみの所すみません」
アクアが恐る恐る声をかけた。

「ああ、わりいわりい、あんたの新規登録の件で来たんだったな。
もう分かってると思うが、俺はこのギルドの長をやってるハックだ、宜しくな。」

〈ハックって言うより超人ハルクよね〉

「私はアクアです。宜しくお願いします。」

「で、アクアさんは、Bランクのギムラを一瞬で戦闘不能にしたそうだな。」

「ええ、並んでる列に横入りしてきて、それに私が文句を言ったら、掴みかかってきたので、返り討ちにしました。」

「そうそう。格好良かったですよ。痛快でした。
おかげで胸のつかえがとれてスッキリしました。」

受付嬢がニコニコして会話に加わった。

「私には何かお咎めが有るんですか」
恐る恐るアクアが聞くと。

「アハハ そんなこと心配してたのか。その件は不問だ。
これで君を罰したら、俺が皆んなから恨まれるよ。
ここに呼んだのは君のランクについてだよ。
通常新人はFランクからのスタートなんだが、Bランクのギムラを軽くあしらったということは、君の実力は、最低でもAランク相当のはずだ。」

「それでどうなるんですか。」

「俺と模擬戦をしてそれなりの実力と俺が認めればCランク。
模擬戦をしなくても、特例措置でDランクのスタートとなる。」

「それじゃあ」

「ちょっと待て待て!
結論を早まるなよ。
え~っと俺としては、模擬戦無しのDランクスタートをオススメする。
多分だが君は俺より強いだろう。
Dランクスタートだろうと直ぐにランクアップすると思うよ。
だから、わざわざ戦わなくてもいいと思うんだよ。
な そうだろう。」

「それじゃあ、模擬戦宜しくお願いします。」

「へっ 今俺の話聞いてたよね。
君ならDランクから始めても、直ぐにランクアップするから、わざわざ戦わなくてもっていいんじゃないかって言ったんだけど。」

「はい。聞いてました。
その上で模擬戦をお願いします。」

「ちょっと待った。
ん~~~ そうだなぁ~
特例の特例にしよう。
模擬戦はなし。Cランクスタート。これで手を打とう。」

「おいハック、お前アクア様にビビってんのか」
ジンベエがニヤけて話かけた。

「ジンベエ、お前なら勝てるのかよ」

「いや、オラは勝てねぇよ。
っていうか、アクア様に勝てるやつなんて、この世にいないと思うぞ」

「だったら戦ったって意味無いだろう。俺が痛い思いするだけじゃないか。
無しだ無し。模擬戦は無しでアクアさんはCランク。
それで決まりな。」

「戦ってみたかった」
ボソッとアクアが呟いた。

「えっ?」

「強い人と戦ってみたかったんです。」

「いやぁ でもあなたの期待に添えるほどの力は俺には無いと思うが」

隣ではジンベエがうんうんと頷いてる。

「私からは攻撃しないという条件ではどうですか」

「いやいやいや 俺にもチッポケだがプライドがあるんだ。
アクアさんに完封されたら、ちょっと立ち直れなくなりそうだから、遠慮させてくれ。」

「アクア、許してやれよ。ハックのおっちゃんだって、ギルド長としてのメンツが有るんだよ。
俺から見たらハックのおっちゃんだって雲の上の人なんだ。
情けない所は見たくないよ」

アサリの正論にみな黙ってしまった。




しばらく考えてアクアが口をきった。

「わかりました。
当初のお話の条件の模擬戦無しDランクスタートにします。
模擬戦は、私から辞退したということにしましょう。」

「え~~」
「え~~」
「え~~」
「え~~」

ハック・ジンベエ・アサリ・受付嬢の4人が驚きの声をあげた。

「私はランクにこだわりは無いので、問題ありませんわ。」

「なんだか、いきなり大きな借りが出来ちまったな。
俺は今後、いつでもアクアさんの力になると約束しよう。」

「ギルド長、聞きましたよ今の言葉。私とジンベエさんとアサリさんが証人ですからね。フフフ」

「シェリー 心配するな。俺に二言は無い。」


♤♡♢♧♤♡♢♧


アクアの冒険者スタートは、こうしてお約束どおりの「新人いびりの返り討ち」から始まりました
ギムラは出血性ショック状態になったんですね。
アクアの能力は、これからも増えていきます。
新章冒険者編お楽しみに。

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