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ep2

常設依頼

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かあちゃんの店で一泊したアクアは、ジンベエ親子とはそこで別れ、冒険者ギルドへと顔を出した。

するとそこには、昨日絡んできたギムラが居た。

「ああ アクアさんアクアさん
やっと会えた。」

なんか手をスリスリして気持ち悪い感じだ。

「何か?またやられたいの?」

「やめてくださいよ。あれから反省して、心を入れ替えたんですから。」

「あなた右手。治ってるのね。」

「ああ、はい。これでもBランク冒険者ですからね。
教会にたっぷり絞り取られましたが、エクスヒールかけてもらって元通りになりました。
治療代1000万Gでしたよ」

「随分ボルのね。まぁ治って良かったわね。
じゃあ」

「ちょ ちょっと待って下さいよ」

「まだ何か用。私を恨んでるんでしょ。」

「いいえ。恨んでなんていませんよ。
心を入れ替えたって言ったじゃないですか。」


「それで?」

ギムラは床に手をついて

「俺を子分にしてください」

「嫌よ」

「なんでですか。俺お役に立つと思いますよ」

「あなた、気づいてないと思うから言っちゃうけど
そこそこ嫌われ者よ。
そんな人子分にしたら、私まで風評被害が来るわよ」

「俺、皆んなから嫌われないように、心入れ替えて頑張ります。」

「ならこうしましょう。
非公認の子分。つまり私との間に盃とか契約も交わしてない状態。それだけど、あなたが勝手に子分と思ってるだけ。
パーティーも組まないし寝食も共にしない。
人に言う時は『アクアの子分』じゃなくて『アクアの子分のつもり』って言うのよ。
私はあなたを子分にする気は、これっぽっちも無いからね。」

「それでもいいです。アクアさんの子分になったつもりで、これからは真っ当に生きて行きます」

「ああ、それから私に対してストーカー行為は絶対にしないこと。今日みたいに待ち伏せとか嫌だから」

「それじゃあ連絡したい時はどうしたらいいですか」

「ん~~~
そうね。ギルドの受付に私宛の手紙を預けてくれればいいわ。」

「文通、楽しみです。」

「………………」


ギムラからようやく解放されたアクアは、受付嬢のシェリーの所に行った。

「この依頼を受けたいんだけど」

「えっ本当にこれを受けるんですか?Fランクの依頼で、重労働の割に報酬が少なくて、みんな嫌がる仕事ですよ。それにこれは男性パーティー向けですけれど。」

「問題ないわ。私の能力と相性がいいから、私一人でも10ユニット位は1日でこなせるはずよ」


「10ユニットもですか!
普通男性3人のパーティーが1日かけて1ユニット出来るかどうかですよ。」

「確かにそうでしょうね。
汚くて臭い重労働だけど、私なら手も汚さず、スキルで簡単にできるはずよ。」

「わかりました。では、宜しくお願いします。
こちらが、このブロックの担当者です。あなた一人だと不審に思われるかも知れないので、ギルドからの推薦状を出しますので、ちょっとだけお待ち下さい。」

シェリーは、何度も下書きを書いては直しを繰り返して15分位かけてやっと清書をして、アクアに見せた。

『推薦状
Dランク冒険者のアクアは、当ご依頼に対して、極めて有効なスキルを所持しており、単独でも男性30人分以上の作業をこなす能力が有ると冒険者ギルドでは判断した。
上記理由により、アクアを当ご依頼に対して推薦いたします。
冒険者ギルド担当者 シェリー
冒険者ギルド長 ハック』

「こんな内容でいいかしら?」

「よく書けてると思います。」

「それじゃあギルド長のサインもらって来るから、もうちょっと待っててね」

シェリーはそう言って奥へ消えた。

〈たかが『ドブさらい』の仕事に丁寧ね。
シェリーは、受付嬢として信頼できるわ。〉

シェリーは、直ぐにニコニコしながら戻ってきて。

「はい、依頼書と推薦状。
作業終了後に担当者に確認してもらって作業したユニット数の記入とサインをもらって来てね。
じゃあ いってらっしゃーい
頑張ってね~」




「ぼくが、担当者のタナーです。君 一人で来たの?」

「はい、一人です。こちら依頼書と推薦状です」

「へぇー 女の子がこの依頼受けてくれたのは初めてだよ。
推薦状には男性30人分とか書いてあるね。そんなに出来るの?」

1ユニットは、50m区切りと依頼書には書いてあり、作業はヘドロの掻き出しだけではなく、蓋の上のゴミも含めて運搬し、指定場所に穴を掘り埋める所迄となっている。
依頼料は1ユニット当たり10000Gとなっている。
男性4人で受けたら、宿賃だけで消えてしまう金額の重労働だ。

「はい、お任せ下さい」

「だけどなぁー、どうしよう。」

「何か私じゃあ問題有りますか」

「いや、君が問題なんじゃなくて、やってもらう場所がねスラム街なんだ。
普通男性パーティーが来るからさ。
そこは、強盗・殺人・強姦・誘拐が日常的に起こる場所だからさぁ。君が餌食にならないか心配だなと思って。」

「自分の身は自分で守れます」

「ぼくは、案内したらここに帰って来て、夕方位に進捗状況を確認しに行くパターンだから、ほとんど君一人になるけど、大丈夫」

「私、Dランクですが、先日Bランクにも勝ちましたから。問題ありません」

「へぇー強いんだね。それなら問題なさそうだから案内するね。」



担当者のタナーについて行く

〈ここが言ってたスラム街ね〉

道端はゴミが散乱し、酔って寝ている人もいる。
其処此処から人が争っている音や怒鳴り声が聞こえてくる。
二人が歩いて行くと家家の窓がバタバタと閉められて行く。

「アクアさんは本当に強いんだよね。どうやらロックオンされたみたいだよ」

「大丈夫です。タナーさんの事も守ります」

二人が路地へと入ると前後それぞれ十人位の男たちが道を塞いだ。

「担当者さんじゃないか。今日はかわい子ちゃんのお土産持って来てくれたのかな」

「この方は、とても強い冒険者で、今日はここいらの臭いドブさらいをしていただけるそうで、お連れしたんだ。」

「ほう、だったらその娘を置いてアンタは帰りな。俺たちが案内してやるよ。へへへ」
男は下卑た笑いをして、周りの男たちもニタニタしている。

タナーさんが、私の手首を掴む
「やっぱり君には危険だ。帰ろう」

しかしアクアは動かない。

「ドブ以外にも綺麗に清掃しないといけない所が、たくさん有るようですね」

前後の男達がじりじりと距離を詰めて来る。

「わ わ わっ お前たち、止めろ。」
タナーがパニックになった。

水牢みずろう

男達の居る場所に水の檻が出現した。
水牢は、上部に少しだけ空気の層があって、男達がジャンプしたりしてやっと空気が吸える構造になっている。

「そこで大人しくしてなさい」

アクアは、さっきとは逆にタナーの手を引いて路地から出た。
そこは公園になっていたが、周りの側溝の上には落葉やゴミが散らかり、側溝からはヘドロで詰まっているのか異臭が漂っていた。

「ここが、予定してた現場です。周囲約3kmあって、西側から1km先の川へと通じてます。
掘り出したヘドロは、公園内に穴を掘って埋めています。」

「で、どこから手を付ければいいですか?」

「アクアさん、その前に
さっきのあの人たち、どうなるんですか」

「あのままにしとけば、溺れますね」

「溺れる前に出していただけませんか」

「出すんですか」

「ええ。元から悪い人達じゃないんです。」

「改心しますかね」

二人は、さっきの路地に戻った。何人かの女が包丁などで外から牢を壊そうとしていたが、二人を見かけると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
水牢の中では、背の高い男が小柄な男をかかえあげて助けていた。

「パチン」

アクアが指をならすと、水牢は無くなり、疲れた表情の男達が残った。

「担当者のタナーさんが『助けてあげて欲しい』というので、水牢を解除したのよ。
あなた達タナーさんに感謝しなさいよ。
それと、私の仕事の邪魔しないこと。あなた達の住むエリアを綺麗にしに来てあげたんだからね。
少しは、私にも感謝なさいよ」

アクアはそれだけ言うと踵を返して公園の方に向かった。
タナーは、まだスラムの住人と何か話していた。

〈全部やっちゃえばいいか。〉

「サイクロン」

いくつもの竜巻が現れて側溝の蓋の上の落葉やゴミを巻上げる
やがて、サイクロンが集まり合体して1つの大きな竜巻となる。

「シュレッド」

竜巻が収まり枝葉が細かく切り刻まれ小山となった。

〈公園に穴を掘ってゴミやヘドロを埋めるのよね〉

「ディグダグ、ディグダグ」

アクアは公園に入って、ドリル刃の水流で、どでかい穴を掘った。

先程の落葉の山を水のベールで包んで、掘った穴に放り込んだ。

「よし、やっと側溝にかかれるわね」

「凄い魔法ですね。驚きました。」
いつの間にかタナーはじめスラムの住人達が、ギャラリーとなってアクアの仕事を見ていた。

「わっ タナーさんかぁ
集中してて気が付かなかったわ。急に声かけられて驚きました。」

「驚かせちゃいましたか。
すみません。
手際といい、見事ですね。
このまま見ててもいいですか」

「はい。勿論どうぞ、見てて下さい。」

「オープン」
ドミノ倒しの逆みたいに、端から次々と側溝な蓋が開いていく。

「ベール ムーブ」
蓋の開いた所から次々とベールに包まれたヘドロが空中を移動して先程掘った穴の所に捨てられて行く

「ドライ」
時折アクアがそう唱えると、穴のヘドロから水分が抜けて乾いていく。

「クローズ」
ヘドロの回収が終わった所から、側溝の蓋が閉じられて行く。

「フライ」
アクアが上空に舞い上がった。
空から進捗状況を見ながら、先程迄の魔法をテキパキと放っていく。

公園の外周3kmと西の川迄の1km全てが、ものの1時間程で終わった。

アクアは空中で見渡し

「よし、これで終了」

一言呟いて地上に降りると
タナーをはじめスラムの住人達がひれ伏していた。

「あれ どうしたんですか」

「アクア様 お声をおかけ下さり畏れ多いです。
我々下賤の者の為にお手を煩わせ誠に申し訳ございません。
このご恩は末代まで語り継がせていただきます」

「なんか、勘違いしてませんか?私は冒険者ギルドの依頼で来た、ただの新米冒険者ですけれど」

「ははあ ご身分を隠されてのご事情がお有りなのですね。
私たちは、アクア様が天女だとは決して口外しないとお約束いたしましょう。」

〈また、勝手に天女にされちゃつたわ。
空飛んだのがまずかったかなぁ〉

「タナーさん 依頼書にサインください。」

「もちろんです。天……アクア様」

老婆が近寄って来てアクアを拝むので、握手をしたら、泣き出してしまった。

さっきの路地を過ぎたあたりでは、アクアの通る道を女達が掃除をしていた。
アクアが近くに行くと、次々とその手を止めてひれ伏していった。

〈アサリが見てたらなんて言われるかしら。
まぁやっちゃったことは、仕方ないわね。〉



♧♢♡♤♧♢♡♤



アクアは、やっぱり人並み外れた能力のスキルを使ってしまいましたね。

この先アクアのスキルは、もっと増えて、強力になります。

こうご期待を。
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