水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

文字の大きさ
10 / 27
ep2

歓迎会

しおりを挟む
「ほらほら、みんな席に、つきなさい。
クラレンス あなたが座らないとポーラやメナードが座れないでしょう」

「私たちは皆さんのお世話が仕事ですので」

「今夜は、無礼講って言ったでしょ。あなた達も一緒に座ってアクアさんの歓迎会をするのよ。
拒否権は有りませんよ」

「奥様困らせないで下さい」

「困ってるのは、わたし達の方よ。
あなた達が席につかないと、いつまでたっても歓迎会が始められないわ」

この場は、エリザベートが押しきる形でパーティーが始まった。

挨拶の一瞬だけは大人しく座っていたクラレンスは、直ぐに忙しく厨房との往復を始めた。

エリザベートは、先王の弟の故ドラン公爵の側室だったそうだ。ドラン公爵は、このムルムルの街を含む一帯の領主で、今は長男のリグルドが領主となっている。
エリザベートとドラン公爵の間に子どもは無く、ドラン公爵の死後エリザベートはこの屋敷を与えられたそうだ。
生活に関する費用などは全く心配する必要ないのだが、エリザベートは空き部屋を有能な冒険者に貸し出すことにしたのだった。

冒険者のミルドは、女性ながら大柄な体躯でAランクの槍使いだ。

同じく冒険者のロキシーは、魔法使いで、炎と土の2属性持ちでやはりAランクだ。

シェリーは、冒険者ではないが実は光属性持ちで、回復や解毒ができるそうだ。

アクアの自己紹介の番になるとシェリーが割って入った。

小声で
「アクアは、余計なことまで話しそうだから、私が紹介するからね」
と耳打ちした。

「アクアのことは、担当の受付係兼専任教育係の私から紹介するわね。
アクアは11歳で、見ての通りの超絶美少女。水属性の魔法は全て使えるはず。
出身や両親は不明。過去の記憶を失っているようです。
天女との噂もあるけど本人は否定してます。
現在Cランク冒険者ですが、ギルド長のハックも彼女の実力は、Sランクもしくはそれ以上と評価しています。
以上 アクアの紹介です。」

「アクア あなたね。あのギムラのバカをやっつけた新人って」

ミルドがそう言い

「ああ、私も聞いたわ。一瞬でギムラを倒したとか奴の手がミイラみたいになったとかね。
それってどうやったの」

ロキシーも聞いてきた

「私は『水の申し子アクア』です。人の体に流れる血液も水からできてます。その水を少し抜いただけです」

「噛み付いたの?」

「念じただけです。その逆も簡単にできますよ。
こんな感じです。」


「ヒャッ えっ ダメ」
「待って もももも 漏れそう」



「えっ? 無くなった」
「やばかった。少しチビッたかも」


「こんな感じです」


「凄いな。あのまま水を増やされたら体が破裂するな」


「ミルドさん、そんなことしませんよ。
飛び散った死体なんて、グロ過ぎます」


「詠唱もしてなかったわよね。
いつもそうなの」

「呪文は必要ないんですが、気分が盛り上がると『サイクロン』とか声に出すことも有ります」

一瞬アクアの前のスープが竜巻のようになり、収まった。

「アクア!お行儀悪いわよ。魔法はやめなさい」

シェリーがすかさず注意した。

「はぁ~い ごめんなさい。」

「アクアって、こういう娘なんです。すぐハメを外してしまって、騒ぎを起こすんです。」

「まぁまぁシェリーさん
今宵は、アクアさんの歓迎会
大目に見てあげましょう。」

エリザベートが微笑んでいる。

「そろそろメインができてくるわよ」

エリザベートがそう言うとアクアは席を立って厨房へと走って行ってしまった。

「こら!アクア 今言ったばかりでしょ」

シェリーの声はアクアには届かなかった。

「元気なお嬢さんね。これから楽しくなりそうね。」

エリザベートの言葉にシェリーはため息しか出なかった。


「アクアさんちょっと、危ない。止めてください」

慌てた感じのクラレンスの声と共に何枚もの皿をフワフワと宙に浮かせてアクアが戻ってきた。

「フフフ あのクラレンスでもかたなしね。」

エリザベートがそう言うと、席にいたみんなも笑っていた。
ただし、シェリーだけは、少し困り顔をしていた。

テーブルの上に皿が並べ終ると

「アクアさん、こういうことは、二度としないで下さい。」

怒り顔のクラレンスが語気強く言った

「お手伝いしたかっただけなのに、怒られた~ むぅ」

「クラレンスあなただけですよ、恐い顔して、大きな声だして。
アクアのパフォーマンスをみんなニコニコして見てたのに。
あなた雰囲気ぶち壊しよ。」

「オーナー 申し訳有りません。私が間違っていたのですか。
今日は、これで下がらせていただき、部屋で反省したいと思います。」

クラレンスはエプロンで顔を覆って小走りに部屋を出て行った。

メイドのポーラとメナードは壁際でクスクス笑っている。

アクアは、舌をだして肩をすくめた。

「後で反省文書いてもらうからね」
シェリーの目は笑って無かった。

「はぁ~い」

「まぁまぁシェリーもさぁ、折角メインデッシュが来たんだからさぁ。みんなで美味しくいただこうよ」

ミルドがそう言うと

「そうね、私このオークソテー大好きよ。
美味しいだけじゃ無くて、魔力も含まれてて力が湧いてくるのよ。」

「そうね。どうぞ皆さん召し上がれ。」

オークソテーは絶品に美味しかったが、一度冷めた座の雰囲気は戻らなかった。
皆 余り喋ることもなく、デザートも食べ終わり、すぐに解散となった。

アクアが部屋に戻るとすぐにシェリーがやって来て

「クラレンスさん、ごめんなさい アクア ってこの紙に書きなさい。」

そう言って紙とペンを渡された。
アクアがそれを書き終わってシェリーに返すと


「これまで、あなたに起こった事を聞く約束だったわね。
今からでもいいかしら、それともまた今度にする?」

「シェリーさえ良ければ、今から話すわ。」

アクアは転生するきっかけとなった事情や女神と会い水のスキルを授かり、真っ裸で海に落とされたこと。
前世の記憶はあるが、性格や考え方はこの新しい体がベースになって、自分のキャラ自体が11歳の少女になった気がすることなどを話した。

「う~~ん
なるほど~とは、突拍子無くて言い辛いけど、アクアは無鉄砲でも嘘をつく娘じゃないと思うから、信じてあげるわ。
そうすると、ベースのマリからしたら、さっきのアクアの行動はどう思うの」

「周りの人のことを考え無いで、思うままに行動するこどもらしいこどもだとと思います。」

「そうでしょ。だったらあなたの中のマリがアクアを止められないの」

「それはできないわ。体も心もアクアよ。
マリの記憶がある、アクアなの」

「でも、こうして話してるときは、さっき迄のアクアは影を潜めて、大人と話してるみたいだけど」

「う~~ん
よくわかりません。」

「ということは、マリに期待しないで、アクアの成長を見守るしかないのね」

「ごめんなさい。」

「わかったわ。それじゃあ、もう寝ましょう。おやすみアクア」

「おやすみなさい。シェリー。」

「アクア なんで私の服の袖掴んでるのかな。」

「シェリー 私が寝るまででいいから、ここにいて欲しいの」

「………… マジかぁ~」

十分ぼどでアクアが、寝息をたて始めた。

〈こうして見ると、ただの子どもなのにね〉

シェリーは、そっと離れようとしたが、椅子を引くときに「ガタッ」っと音をたててしまった。

アクアを見ると
アクアと目があった。

「はあ~~」

シェリーが、ため息をつくと

「シェリー トイレ行きたい」

「はいはい今度はおトイレね」

結局この日アクアは、シェリーの部屋で、シェリーのベッドで、シェリーと一緒に寝た。





♤♡♢♧♤♡♢♧

アクアは、ときどき大人のようで、こどもな、二重人格みたいですね。
さて、そんなアクアが次話ではついにダンジョンに挑戦します。
あ楽しみに。

この作品が面白そうと思われたら「お気に入り」登録お願いします。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...