もしも僕がいなくなったら

そらね

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第2章

無常高等学校~はじまり3~

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 僕は宿に帰った。帰れと言われたら帰るしかない。僕は何か重大な罪でも犯したのだろうか?悪い事なんて一つもしていない。
「あっ、愼くんじゃないか。もう飽きちゃった?」
「先生に帰れって言われたから帰ってきた」
「みんな同じか」
「えっ?」
「こうやって新しい人を迎える時はいつもこうなんだ。坂に少女が倒れていて、助けてあげようと思って玄関まで抱いて行ったら、たくさんの生徒が待ち構えていた。でしょ?パターンはいつも同じなんだ。でも」
「でも?」
「坂に倒れている少女を助けなかった場合は、普通に学校に入れて、普通に歓迎してくれるみたいだよ」
「何だそれ」
 何がしたい?あの人たちは一体何を伝えたいんだ?
「で、愼くんさ」
「うん」
「助けちゃったんだよね?」
「うん。助けるのが普通だから」
「助けた人は、この高校はかなりきつくなるんだ」
「何で?」
「お前もこいつと同じかみたいなこと言ってたでしょ?全くその通り何だ。あの少女は感情がある人に近づいてきているって設定になっているみたいなんだ。助けた人は、感情があると見なしてしまうんだ。僕もよくわからないけど」
「設定?じゃぁ、あの先生も最初っから知っていた……?」
「もちろん。知らない方がおかしいよ。長年勤務しているんだから」
「感情がある人は罪って先生は言ってた。犯罪みたいなものだって」
「犯罪ね……。作り話が上手なんだね。この世界に犯罪なんかないし、自由なんだからそんなこと聞き入れない方がいいよ」
 確かにこの世界は自由だ。自由だから別に何を言われようと何をしようと関係ない。
 けど、違う気がする。自由だけど、自由だけど……。
「僕は……」
 言葉が出てこない。
「無理して考えないこと。今日はゆっくり休んで」
「けど……」
「そんなに真相を知りたいなら、僕が連れて行ってあげる」
「どこに?」
「図書館に」
「図書館?」
「歴史、知りたいでしょ?」
「歴史って無常高等学校の…?」
「そう。この世界の歴史も含んでいるけど。無常高等学校の近くにあるんだ」
「あの坂きついんだけど…」
「じゃぁ、やめる?」
「…行く」
 こうして僕たちは図書館に行くことになった。
「ここ、通ったことない道だ」
「愼くんが坂がきついって言うから」
「でも近くってことは結局坂があるってことでしょ?」
「んー、ないよ」
 学校の近くだから坂は必ずあるはずだ。
「ないの?」
「ない。エレベーターがある」
「エレベーター?じゃぁ学校行く時も…」
「あぁ、無理だね。図書館専用だから」
「そっか」
 エレベーターという手段があったのか。
「エレベーターなんてないよ」
「あるよ。愼くんの目の前に」
「ただの木じゃないか」
「どうかな?」
 僕には木にしか見えない。これがエレベーターだとしても、木は途中までしかない。
「もしもこの木がエレベーターだとしても、図書館まで行かないと思うけど」
「じゃぁ乗ってみよっか」
「木に?」
「時よ、戻れ。この我の元へ」
 カゲが呪文のようなものを唱えた。
 すると、木の中に道が見えてきた。
「すごい…けど真っ暗だ」
「このまま進むと……」
 僕は真っ暗な道を進んだ。その時、僕の体がふわりと浮き上がり、上の方へと浮かんでいく。
「ほら、もう着いた」
「あれ?どうして?」
「ここだけ魔法があるみたいでね」
「どうなっているんだよ、この世界は。しかもエレベーターじゃないじゃないか」
「上にあがればエレベーターだよ」
「何それ。しかも体が浮いたし」
「魔法の力だよ。まぁ、でも幽体離脱みたいなものかな」
「幽体離脱?じゃぁ魔法でもないってこと?」
 幽体離脱……。では今ここにいる僕は幽霊みたいな感じだろうか?僕の本体はどこに……。
「あら、また考え込んで。何でもいいでしょ。ほら行くよ」
「あっ、待って!」
 カゲの後を追うとそこにはかなりでかくて高い棚がずらりと並んでいる。本もびっしり詰まっている。棚が高すぎてはしごを使わないとおそらく1番上ら辺の本は届かない。
「えーと、確かここら辺に…」
 たくさんの本が綺麗に並べてあり、歴史本は多分五千冊以上ある気がする。
「こんなに本があるんだね」
「まぁね。確か一億冊あるはずだけど……おっ、見つけた!」
 一億冊だなんて……。こんな図書館生まれて初めてだ。
「これこれ。一緒に読んでいこう」
「うん」
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