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恋のライバルの出現
しおりを挟む静かな昼寝の時間——
やっとやんちゃなユウキが寝てくれて、沙織の体の拓也はほっとひと息ついていた。
(ふぅ……まさか園児にプロポーズされるとは思わなかったな)
そんなことを考えていると、突然隣の布団からむくっと小さな頭が起き上がった。
結衣だった。
結衣はクラスの中でも特にしっかり者で、おままごとでは必ず「ママ」役を担当するような子だった。
けれど今は、目をこすりながらもキリッとした表情で沙織の体の拓也をじっと見つめている。
「……どうしたの? トイレ?」
拓也がそっと声をかけると、結衣はぷくっと頬を膨らませながら、力強く言い放った。
**「ユウキと結婚するのは私だから、沙織先生はユウキを取らないでね!」**
「えっ?」
あまりにも唐突な宣戦布告に、思わず変な声が出てしまう。
「ユウキは私のお婿さんなの! ずっと前から決めてたの!」
「そ、そうなの?」
「そうなの! だから先生はユウキと結婚しちゃダメ!」
(いや、そもそも俺、結婚するつもりないんだけど……)
どうやら結衣は、さっきのユウキの「俺が沙織先生と結婚する!」という発言を聞いていたらしい。
ユウキが眠りについたのを見届けた後、必死に訴えに来たようだ。
結衣は小さな手をぎゅっと握りしめ、真剣な表情で続けた。
「ユウキは、私が大人になったら結婚するって言ってくれたもん!」
(おお……子どもながらにしっかり約束してたのか……)
沙織の体の拓也は、必死に訴える結衣を見て苦笑した。
「そっか、結衣ちゃんはユウキのことが好きなんだね」
「うん!」
結衣は力強くうなずく。
「じゃあ、大丈夫! 先生はユウキと結婚しないよ!」
「ほんと?」
「うん! ユウキが大人になったら結衣ちゃんと結婚するのね、先生も応援するよ!」
すると結衣は安心したようにふんわり笑い、「よかったぁ」と小さくつぶやいた。
「じゃあ、先生もちゃんといいお婿さんを見つけなきゃダメだよ?」
「そ、そうだね……(俺、今女の体だから余計ややこしいな……)」
結衣は満足したのか、もう一度布団に入り、ほどなくしてスヤスヤと寝息を立て始めた。
(……俺、今日だけで人生で一番プロポーズ関連の話をされた気がする)
静かになった保育室で、沙織の体の拓也は小さくため息をつくのだった。
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