姉になった隆司

朝の異変

### タイトル：**「姉と入れ替わった日」**

朝日が差し込む部屋の中、隆司はゆっくりと目を覚ました。昨夜は少し遅くまで勉強していたので、まだ眠気が残っている。それでも、今日も学校があると思いながら布団から抜け出そうとしたとき、何か違和感があった。

「ん…？」

自分の体がいつもと違う。いや、違うどころか、まるで他人の体のようだ。慌てて手を伸ばしてみると、目の前に現れたのは細くて柔らかい女性の手。

「えっ…？」

隆司は跳ね起きて、鏡を見た。そこに映っていたのは、自分ではなく――姉の美咲だった。

「なんで…美咲姉ちゃんになってるんだよ！」

驚きと戸惑いで、隆司は鏡の前でパニックになった。しかし、どんなに鏡を覗き込んでもそこに映るのは美咲の顔。これは夢じゃない。冷静さを取り戻そうと深呼吸するが、心臓は激しく鼓動を打っていた。

「どうしよう…」

一方で、美咲も同じように混乱していた。彼女は隆司の体で布団の中で目を覚まし、見知らぬ男性の手や低い声に驚いていた。しかし、今はお互いに何が起こったのかもわからず、どう対応するべきかすら不明だった。

その時、隆司のスマートフォンが鳴り響いた。姉の会社からの通知だった。美咲は朝から重要な会議があると言っていたことを思い出し、彼女が普段通りに出勤しなければならないことに気づいた。

「会社、行かなきゃ…でもどうやって？」

焦る気持ちを抑えつつ、隆司は美咲の服に着替えようとしたが、これがまた大変だった。スカートを履くのも一苦労で、靴を履くときには何度もバランスを崩してしまう。

「こんな体でよく毎日過ごしてるな…姉ちゃん、すげえよ…」

ようやく準備が整ったところで、彼は美咲のカバンを持ち、家を出た。道中、慣れないヒールに何度もつまずきそうになりながら、何とか電車に乗り込んだ。

会社に着くと、周囲の視線が自分に集まるのを感じた。美咲は普段から頼りにされている社員で、皆が彼女を尊敬しているようだったが、隆司はそのプレッシャーに耐え切れない。

「おはようございます、美咲さん！」

同僚たちから声をかけられ、慣れない笑顔を返す。何とか美咲のフリをして会議室へ向かったが、資料を読んでも内容がさっぱりわからない。高校生の隆司にとって、ビジネス用語や業界の話は未知の領域だった。

会議が始まると、さらに混乱は深まった。上司が質問を投げかけてくるが、何を言えばいいのかわからない隆司は、適当な返事を繰り返す。

「そ、そうですね…。もう少し検討して…対応します…」

なんとか会議を乗り切ったものの、同僚たちの顔には微妙な表情が浮かんでいた。

昼休み、隆司は一息つこうと休憩室に行ったが、周りには美咲の友達がいた。何を話していいかもわからず、会話に混ざるのが恐ろしく感じた。仕方なく、スマートフォンを取り出し、美咲の体を借りて自分にメッセージを送ることにした。

「美咲姉ちゃん！　どうしよう！　会社やばい！　どうやって戻ればいいのかもわからない！」

すぐに返事が返ってきた。

「私だって学校にいるんだけど、どうしたらいいのよ！　クラスメイトに変だって思われないようにするだけで精一杯！」

二人とも絶望的な状況に追い込まれたが、今はお互いを信じて一日を乗り切るしかなかった。隆司は美咲として会社にいる間、ミスを犯さないように何とか耐え続けた。

夕方、ようやく仕事が終わり、隆司は疲れ果てた体を引きずりながら家に帰った。家に戻ると、玄関先で待っていた美咲が彼を出迎えた。

「早く元に戻りたいよ…」

二人はお互いに顔を見合わせ、同時に深い溜息をついた。しかし、その瞬間、不思議な感覚が二人を包み込み、気づけばそれぞれの元の体に戻っていた。

「戻った…！」

二人は驚きと喜びで笑顔になり、再び自分たちの生活に戻れることに安堵した。

「でも、姉ちゃんの仕事って本当に大変なんだな。今まで全然知らなかったよ…」

「あなたも高校生で大変だってこと、今日よくわかったわ。お互いに感謝しなきゃね」

その日から、二人はお互いの世界を少しだけ理解し合えるようになった。