転校性

駅の階段

体が元に戻った悠斗と真奈は、あの日の出来事を秘密にして、普段通りの生活に戻った。神社の階段での奇妙な体験は、まるで夢だったかのように思えるほど日常は平穏だった。二人は口をつぐみ、話題にすることはなかったが、あの時の奇妙な感覚だけは忘れられなかった。

そんなある日、いつも通りの朝。悠斗は通学路の駅へ向かい、電車に乗るために階段を駆け上がっていた。少し急いでいた彼は、息を切らしながら駅のホームに続く階段を上がっていく。

「遅刻はしたくないな…」

その時、すぐ後ろから急ぎ足で階段を上ってくる気配がした。振り返ると、そこには真奈がいた。彼女もまた、いつも通り無表情だが、少し焦った様子で階段を上がっていた。

「お前も遅れそうか？」と、悠斗が軽くからかい気味に声をかけた。

「別に。あんたが急ぎすぎなんでしょ」と真奈はそっけなく答えた。

その瞬間、不意に悠斗の足がまたもや滑った。駅の階段は人が多く、少し湿った空気もあり、足元が不安定だったのだ。

「えっ、またかよ！？」

悠斗はバランスを崩し、まるでデジャヴのように後ろに倒れ込んだ。彼のすぐ後ろにいた真奈も巻き込まれて、二人は階段を転がり落ちた。

「うわっ！」  
「また！？」

ふたりはゴロゴロと転げ落ち、階段の下でごちゃごちゃに絡まった状態で止まった。周りの人たちは驚いて声を上げ、駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか！？」  
「気をつけてくださいよ！」

悠斗と真奈は痛みを感じながらも、なんとか立ち上がろうとした。しかし、立ち上がった瞬間、二人はまたもやお互いの体を見つめた。

「おい…まさか…」

「うそでしょ…」

またしても、悠斗は真奈の体に、真奈は悠斗の体に入れ替わってしまっていた。二人はしばらく無言で立ち尽くし、その状況をどうにか理解しようとしたが、現実はあまりにも理不尽だった。

「また入れ替わった…」

「何で駅の階段なんかで！？」真奈（悠斗の体）はため息をつきながら、頭を抱えた。

「俺が聞きたいよ！何かお前、呪われてるんじゃないか？」悠斗（真奈の体）は軽口を叩きながらも、明らかに動揺していた。

周りの人々が心配そうに見守る中、二人はとりあえず「大丈夫です」とだけ言い、慌ててその場を離れた。どうやら大きな怪我はないが、精神的にはかなりのショックを受けていた。

「どうする？このまま学校行く？」と真奈（悠斗の体）が言った。

「仕方ないだろ。ここでどうにかできるわけじゃないし…」悠斗（真奈の体）は渋々同意した。

こうして二人は再び入れ替わったまま、学校へ向かうことになった。通学途中、周りの学生たちの視線が気になったが、誰も二人が入れ替わっていることに気づくはずもなく、ただ普段通りに振る舞うしかなかった。

「お前、どうやって俺として過ごすつもりだ？」悠斗（真奈の体）が少し不安そうに聞いた。

「心配しないで。あなたのバカっぽい言動を真似すればいいんでしょ？」真奈（悠斗の体）は冷静に答えた。

「おい、バカってなんだよ！」悠斗は反論しようとしたが、どう考えても真奈のほうが頭が回る。

「それより、あんたこそ私の振る舞いをちゃんとやれるの？静かにしててよね」

悠斗（真奈の体）は何か言い返したそうだったが、結局黙るしかなかった。

学校に着くと、二人はそれぞれの教室に分かれた。悠斗は、真奈の体で自分のクラスメイトたちに話しかけられたが、なんとか無難に会話をこなしていた。一方、真奈は悠斗の体で周りの男子たちに混ざって雑談しながら、違和感を感じさせないよう努力していた。

だが、授業中、悠斗（真奈の体）は静かに座っていることが難しく、うっかり寝てしまいそうになった。

「おい、ちゃんと真奈みたいにしてくれよ…」悠斗は自分に言い聞かせた。

一方、真奈（悠斗の体）は意外にも男子の軽口にうまく対処しながら、悠斗のキャラクターを保つのに成功していた。

「こんな感じで行けるかも…」真奈はそう思い始めたが、それでも早く元の体に戻りたいという焦りは消えなかった。

休み時間に二人は再び廊下で顔を合わせた。お互いに溜息をつき、言葉を交わすことなくただ一緒に歩いていた。

「また元に戻る方法、考えないとな」と悠斗が小さく呟いた。

「神社に戻るしかないのかもね…」真奈はその言葉に同意するかのように静かに頷いた。

二人は再び元に戻る方法を探しながら、不思議な日常を続けることになるのだった。