美奈子と健一

廣瀬純七

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気づかれてる……?気づかれてないよね!?

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翌朝。
健一は鏡の前で制服のリボンを何度も結び直していた。

「なんでこれ、毎回こうなるんだよ……女子ってすげぇな……」

結び目はなんとか形になったが、自分の姿を見るたびにまだ慣れない。ふわりと揺れるセミロングの髪、まつ毛の長い目元、そして、スカート。
「何度見てもやっぱドキドキする……自分なのに、自分じゃないみたいで……」

すでに何度も味わった不思議な感覚を振り切るように、健一(美奈子)は家を出た。
少し遅れて美奈子(健一)が家から出てきて、二人並んで登校する。

「……なんか変だよな、これ」

「うん、でも……変なこと言わなきゃバレないよ、きっと」

そう言った矢先――

「美奈子ー! おっはよー!」

元気な声が後ろから飛んできた。振り返ると、山田結衣が手を振っていた。
美奈子のクラスメイトで、誰とでもすぐ打ち解けるムードメーカーだ。

「おはよ、結衣……!」

美奈子(健一)が少しぎこちなく返事をすると、結衣は眉をひそめて二人をじっと見比べた。

「……あれ? 今日さ、美奈子の方がなんか健一ぽいし、健一が逆に美奈子っぽくない?」

ピクッと二人が同時に反応する。

「えっ!? そ、そんなことないよ!? 何言ってんの、結衣!」

「ヤダ~、何それ。気のせいだよ~、ほんっとに!」

健一(美奈子)の声が、明らかに慌てて上ずっていた。
それを聞いた結衣は、にやりと笑った。

「ふ~ん? じゃあ“気のせい”ってことにしといてあげる~。でも美奈子が朝からあんな焦った顔するの、レアだからね?」

「そ、そう? 今日はちょっと寝坊しちゃってさ~。なんか変だったらごめんね~」

「ま、いっか。じゃあ学校でね~♪」

くるっと踵を返し、先に行く結衣の背中を見送りながら、二人は顔を見合わせた。

「ヤバ……心臓止まるかと思った……」

「お前、声裏返ってたぞ。バレるって」

「しょうがないでしょ! 結衣って地味に観察力あるんだから……」

通学路のざわついた空気が、一気に静かになったような気がした。

「……でもさ、こういうの、続けていけるかな……?」

健一がポツリとつぶやく。

「うん……ちゃんと“美奈子”として自然に振る舞わないと、私たちの秘密、すぐバレちゃうね」

“自分を演じる”日々が、想像以上にスリリングで、そして切ない。
二人は互いに顔を見合わせ、無言でうなずいた。

これはただの入れ替わりじゃない。
他人の世界を生きるということ。
その重さを、二人はようやく少しずつ、実感し始めていた。

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