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うっかり“わたし”の席
しおりを挟むホームルームが始まる数分前、ガヤガヤとした教室の中に、健一(中身は美奈子)が足を踏み入れた。
「おはようございまーす……っと」
無意識に向かったのは、教室の**窓際、三列目**。
美奈子のいつもの席だ。
椅子に座り、カバンを机に置いたその瞬間――
「……え? 健一? そこって美奈子の席だよ?」
そう声をかけてきたのは、またしても山田結衣だった。
隣の席から、首をかしげながらじっと健一(美奈子)を見つめている。
一瞬、時が止まったような感覚。
健一の顔をした美奈子の身体が、ピクリと固まった。
「えっ……あっ、あぁ~~~っ、そうだよねっ!!」
ややオーバーリアクション気味に立ち上がると、両手をぱんっと合わせて言い訳モード全開。
「いやー、なんかさ、前からこの**窓際の席**、いいなぁって思ってて……うっかり座っちゃったというか……ははっ」
「えー? 健一ってそんなこと思ってたんだ?」
結衣は目を細めてニヤニヤ。
「っていうかさ、さっきからちょっと美奈子っぽいよね? さっきもだけど、なんか不思議~」
「え、えっ、そうかな!? 気のせいじゃないかな!?」
「うーん……」
結衣はなおもじっと見てくる。その視線に、健一(美奈子)は内心で冷や汗をかいていた。
(ヤバいヤバいヤバい……! 完全に“中身”バレそうじゃん……!)
そのとき、ちょうど美奈子(健一)が教室に入ってきた。
そして窓際の美奈子の席にさっと座る。
美奈子と健一の目が合い、ほんの一瞬だけ、うっすら笑みを浮かべて小さく頷いた。
(ナイス、美奈子……!)
健一(美奈子)はごまかすように笑いながら、教室の後ろの「健一の席」に戻っていった。
結衣はしばらくじっと二人の様子を見比べた後、ぼそっとつぶやいた。
「やっぱなんか変だな……でも、まぁいっか。面白いし♪」
その“面白い”の裏に、どこまでの疑惑が潜んでいるのか――
健一も美奈子も、まだ知る由もなかった。
だが、確実に言えるのは、彼らの“ごまかしの日々”は、そう簡単には終わらないということだった。
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