美奈子と健一

廣瀬純七

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体育の授業

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午後の体育の授業。今日はグラウンドで、50メートル走のタイム測定だった。

ジャージ姿で整列した男子たちの中に健一(美奈子)は少し背をすくめて立っていた。

「なんか、すげぇガタイばっか……男子の世界ってこうなの……」

周囲の男子はやたら肩を回したり、腕をぶんぶん振ったりして準備運動中。
一方で、体は健一の美奈子は、ただ突っ立っているだけで妙にぎこちない。

「……よーい、ドン!」

先生の掛け声でスタート。
健一(美奈子)は自分の足が、まるで別の生き物のように力強く地面を蹴るのを感じた。

(えっ!? 速っ……!?)

周りの男子と並んでゴールに駆け込むと、息が切れるどころか、妙に呼吸が楽だった。

「健一、お前今日タイム良かったな!」

「マジで? やるじゃん!」

クラスメイトたちに軽く肩を叩かれながら、褒められる健一(美奈子)。

(え、なんか……ちょっと嬉しいかも……いやでも、筋肉ってこんなに反応早いの? 私、足こんな速かったっけ? いや、違うか、これは健一の……)

一方その頃――

女子グラウンドでは、美奈子(健一)が、女子の体の違和感にずっと悩まされていた。

(……走ると揺れる……あれ? なんか、腰の使い方も全然違う……足も軽いのに、力が出ない……)

フォームはバラバラ、タイムも冴えず、最後には軽く転びそうになってしまった。

「美奈子ー? 今日はどうしたのー? ドンくさいぞ~!」

結衣の茶化しに「てへっ」と笑ってみせるが、内心は混乱の渦。

(女の子の体って、こんなにバランス違うのかよ……力の入れ方、つかめねぇ……)

授業後、二人は体育倉庫の裏でこっそり合流した。

「……なあ美奈子、マジで走り方分かんなかった……。なんか、体がいつも通り動かなくてさ」

「私も……すっごい速く走れたけど、なんか全部“自分じゃない”って感じだった」

二人はしばらく無言になった。

風が吹き、制服の袖をふわりと揺らす。

「……自分の体って、知らず知らずのうちに“慣れて”たんだね」

「うん……使い慣れてるって、ただの感覚じゃなかったんだ……」

それぞれが、それぞれの体を通して、相手の人生の一部を初めて“肉体で”知る。

その事実は、思っていた以上に大きく、重たかった。

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