妊娠中の妻と入れ替わった夫

廣瀬純七

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ふたたび戻る日

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### 🕰【予定日直前の夜】

深夜2時――  
外は静かな雨。  
田中健一(見た目:穏やかな妊婦/中身:夫)は、寝室でごろんと横になりながら、胎動を感じていた。

健一「よしよし……もうすぐ、君と会えるんだな……」

隣では、美奈(見た目:ガタイのいいパパ/中身:妻)がスマホで出産時の呼吸法を読み上げている。

美奈「ヒッ、ヒッフー、ね。あなた、ちゃんとできる?」

健一「できるできる。……って、ていうかさ」

健一はゆっくりとお腹に手を置いた。

健一「この体……前回の出産のときのこと、覚えてるみたいなんだ。  
下腹の奥が、さっきから……なんか、懐かしい痛みを思い出してる」

美奈「……“体が記憶してる”ってこと?」

健一「うん。不思議だよな……でもなんか、心強い」

ふたりは目を合わせて、小さく笑い合った。

---

### 💥【陣痛、そしてあの日と同じ分娩台】

翌朝――  

健一「き、来た……かも……いたたたっ!!」  
美奈「え!?マジ!?予定日より早いじゃん!?……病院!!タクシー!!!」

病院に駆け込み、バタバタと分娩室へ。  
助産師さんたちが慣れた手つきで対応するが、  
その姿に、美奈はあの時の記憶がフラッシュバックしていた。

美奈(心の声)「ああ……あの時も、同じように彼はこの体で苦しんで……耐えて……」

健一が苦しげに息を吐く。

健一「美奈……手、握ってくれ……!うわあああああああ!!」

美奈は力いっぱい手を握った。  
今度は「妻として」、命の誕生に立ち会う。

---

### 🕊【そして生まれた、命】

――――

「おぎゃあ……!」

赤ん坊の泣き声が部屋に響く。

助産師「おめでとうございます、元気な男の子ですよ!」

健一は、全身の力が抜けていた。

健一「……生まれた……俺の体で、また命を迎えられた……」

美奈は涙を浮かべながら赤ん坊を見つめる。

美奈「……ありがとう。私じゃなくても、あなたが“この体”でまた命を産んでくれたこと、  
何より嬉しい。……でも……」

と、その時だった。

――ふわりと、視界が揺れた。

---

### 💫【入れ替わる、ふたたび】

健一「……え?」  
美奈「……まって、これ……」

感覚が、ぐるりと回転する。  
体温、体重、重心、匂い――

――気づけば、**ふたりの体は元に戻っていた。**

健一(元の体)「……元に……戻ってる」  
美奈(元の体)「え……嘘……ええええ!?」

助産師「……? あの、おふたりともどうかされました?」

健一と美奈はしばらくぽかんとした後――

顔を見合わせ、ふっと笑った。

---

### 🌈【エピローグ ~新しいスタート~】

それから数日後。  
自宅には、結衣と新生児、そしてようやく「自分の体に戻った」父と母の姿があった。

健一「いやー、久々に“俺の声”で喋れるって感動」  
美奈「それ言ったら、私はやっとスカート履けるっていうね」  
健一「でも、もうちょっとだけ俺の体、マタニティ仕様だったわ」  
美奈「可愛かったよ。あんたの妊婦姿」

2人は、揃って赤ちゃんのそばに座り、静かに見つめた。

美奈「……私たち、本当に変わった家族だね」  
健一「でも……どんな形でも、命が生まれてきてくれて、家族が増えて、  
今こうして笑えてる。それだけで――最高だよな」

手を重ね、優しく寝息を立てるふたりの子どもたちにキスを落とす。

そして、二人の「新しい普通」が始まった。

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