パラレルワールド

廣瀬純七

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美紀の部屋を探る

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風呂から上がり、タオルで髪を拭きながら脱衣所の鏡を見た。  
湯上がりの頬は少し赤く、長い髪がしっとりと濡れている。  

(……やっぱり、どう見ても"女の子"だよな……)  

まだ自分の体に慣れない。  
でも、この世界では俺は"田中美紀"で、これが"当たり前"になっているんだろう。  

ため息をつきながら、俺はクローゼットを開けて下着を手に取った。  

(……もう慣れるしかないよな……)  

ぎこちなくブラを身につけ、ショーツを履く。  
何度か苦戦しながらも、なんとか着替え終わり、部屋着のパジャマを羽織った。  

(ふぅ……)  

違和感はあるが、とりあえず身支度は完了した。  
俺は自分の部屋――いや、美紀の部屋に戻る。  

***  

部屋に入ると、やっぱり"女の子らしい"雰囲気が漂っている。  
白を基調にしたベッド、ふわふわのクッション、机の上に並べられた可愛い文房具。  

(……本当に、俺の部屋じゃないんだな……)  

ベッドに腰掛け、机の上を見渡す。  
まず目に入ったのは、スマホ。  

(これ……ロック解除できるのか?)  

試しに指でスライドすると、あっさりとホーム画面が開いた。  

(……顔認証か? それとも、この体が美紀だから普通に解除できるのか……?)  

どちらにせよ、俺の指紋でもロック解除できるなら、この世界の"美紀"として完全に適応されているのかもしれない。  

ホーム画面には、友達との写真やカメラアプリ、メッセージアプリが並んでいる。  
LINEを開くと、"結衣"や"由美"の名前があり、メッセージのやりとりが残っていた。  

(……俺が知らない"美紀"の交友関係が、ここにはある……)  

メッセージをじっくり読む気にはなれず、スマホを置く。  

次に机の引き出しを開けると、可愛らしい文房具や小さな鏡、リップクリームが入っていた。  
奥には日記帳のようなノートがある。  

(……これは、美紀の……?)  

少しだけ迷ったが、俺はそっと表紙をめくった。  

「4月10日 今日は結衣と一緒にカフェに行った!新作のパフェ、おいしかった~!」  

「5月3日 由美の誕生日プレゼント、悩んだけど結局アクセサリーにした! 喜んでくれるといいな♪」  

そこには、"田中美紀"の何気ない日常が綴られていた。  
俺の記憶にはない、"俺ではない美紀の記憶"。  

(……やっぱり、この世界の美紀は、俺とは別の存在だったんだ……)  

この部屋には、"俺"のものは何一つない。  
あるのは"田中美紀"としての生活の痕跡だけ。  

本当に、俺は"田中健太"として生きていたのか?  
この世界に"健太"は存在しないのに?  

――不安と混乱が押し寄せる。  

でも、考えても答えは出ない。  

(……とにかく、今日はもう寝よう……)  

俺はそっと日記帳を閉じ、ベッドに横たわった。  
慣れない部屋、慣れない体――でも、明日も"田中美紀"として過ごさなければならない。  

(……元に戻れるのか……?)  

そんな疑問を抱えながら、俺は静かに目を閉じた。
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