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フィリーネ12歳 後
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再び目を覚ますとさっきまで明るかった空はすっかり夜の帳をおろそうと赤く染まった空を山の奥へ押し込んでいるところだった。どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。
目の周りが腫れているのではと心配になったが、どうやらマリーさんが私の寝ている間に処置を施してくれていたらしく触ってもあのピリリとした痛みもない。
まだ両親を失い胸にぽっかりと空いてしまった喪失感は埋まっていないけれど、泣いた事で前を見ることはできそうだ。
さっきまでの私は逃げることに必死だったのに、いざ隣国についてもどうしようとも考えていなかった。
強いてあげるなら復讐の準備で身も心も削げるまで削いで諸共に死んでしまおうと思っていた位だ。
今は諸共に死ぬつもりは無いが、然るべき報いは受けて貰う。それは復讐からではなく、無作為に殺されてしまった両親と村人への弔いの為だ。このままでは浮かばれない。
精霊の加護の気配はあの村にはもう無い。きっとあの村はもう花を咲かせることも美しい泉を湧きだす事も朝を歌う小鳥の鳴き声もしないのだろう。
彼らの手向けへ動こうとする私にまるまるその加護を与えてくれている。ありがとう、と小さく呟くと私の周りの空気が嬉しそうに揺れた。
この部屋の明かりはどうやら魔術式の様なので、そっと[灯りを]と唱えると部屋は淡いオレンジの光で包まれる。
灯りの問題は解決したはいいが、この先はどうしようかと考えあぐねていると控えめなノックの音が聞こえて返事を返した。
「フィリーネ様。お目覚めですか」
顔を覗かせたのは既に見知った顔であるマリーさんで、ほっと息を吐いた。
こくりと頷くと彼女は良かったですと相好を崩す。
「お腹は空いていませんか?今夜はお部屋で召し上がってください、と旦那様からの言伝でしたのでお持ちしましたわ」
そういってガラガラとカートを押して彼女は部屋へ入った。
目を覚ました今からここのご家族とご対面かと思って緊張していたから、その心配りはとても嬉しい。
…思い出したように言うけれど前世ではこういった人付き合いが不得手なコミュ障だったんだ。察してほしい。
「あら?そういえば私灯りを点けていきましたか…?フィリーネ様、よく眠れましたか?」
勝手に点けていた灯りに気付いて困惑した様に告げるマリーさんに慌ててブンブンと首を振る
「わ、私が…勝手に、点けました」
思わず頭を下げるとマリーさんはまあ!と感嘆の声を上げて「お好きに使って頂いて結構ですよ」と言った。
「フィリーネ様は魔法がお使えになられるのですね。この部屋の明かりは魔術式でございましょう?」
「あ、はい。父が、教えてくれていた…ので」
一通りは使えるかと。そう答えるとマリーさんは父の事を出してしまった事に気付き悲しそうに眉を下げた。気を遣わせてしまった。
「フィリーネ様、お食事後旦那様がお話をしたいと仰っていましたが、後日にいたしますか?」
気遣いに溢れた言葉に小さく首を振る。こういう事は早い方がいい。お世話になっているのだから。
「いえ、伺います。そうお伝えください」
「かしこまりました。他のメイドに伝えてまいりますので少し席をはずしますね」
分かりました、と答えるとマリーさんは机に料理を並べて部屋を出て行った。
配膳したばかりなのだろう料理はさっき食べたものと同じ様に温かくて、私の緊張する心をほぐしてくれた。
食事を終えてまた着替えた私はマリーさんに連れられて初めて部屋から出た。
前世今世含めて一度も見たことが無い豪奢な装飾がちりばめられた回廊に好奇心から視線が滑る。
これでも控えめなんですよ。旦那様は派手がお嫌いで。とマリーさんは少し恥ずかしそうに言うけれど倹約家なのは素晴らしい事だ、と答えると満足いく答えだったのか嬉しそうに頷いた。
私がいた部屋は客室として用意されている部屋で、この屋敷の主人である領主さまが暮らす部屋の一つ下の階に位置している。
階段を上り、これまた広い廊下を歩き、歩き、シンプルだけど厳かなデザインの扉の前に着いた。
マリーさんが軽く扉を叩き中にいる人へ声をかけると入室を許可する声が聞こえた。
「どうぞ、こちらへかけて。」
「失礼します」
扉を開けると空と深森と混ぜた様な美しい藍色の髪をふわりと撫でつけた、美しいのに温和そうな優しさを感じる顔立ちの男性が歓迎してくれた。
灰を混ぜた綺麗な銀色の瞳は柔らかく細められている。
おずおずと勧められたソファに身を沈めると、彼仕えの執事さんがさっとお茶を置いてくれた。
「どうぞ。客室からここまで遠かったでしょう。甘くしていますのでどうぞ」
「ありがとうございます」
小さく頭を下げ、言われた通りカップを持ち上げ一口含んだ。
ミルクと砂糖で甘く味付けされたそれは舌の上で蕩けてそのまま体内へと流れてしまった。
「美味しいです。有難うございます」
「恐縮です。ご満足いただけてよかった」
そういって彼もまた、その少し鋭い目を和らげて優しく微笑んだ。ここの家の人たちはたとえ平民でも幼い女子供には優しい人たちなのだろう。
私に甘い、素敵な場所で長居をしたくなってしまいそうだ。そうなる前に早くここを出なければ。
「あの、領主さま。この度はお世話になりました。素性も不明で身寄りもなく、平民の私に丁寧に世話をして頂きありがとうございました。
明朝には出ていきますので恐れ多い事なのですが、盗みもしませんし、手伝えることなら手伝いますので今晩は泊めて頂けませんか?」
一足跳びに言ってしまったがこれで言いたいことは全部言えた。頭を下げて懇願する。
流石にこの暗い中出されてしまっても今更宿も見つからないだろうから。
____________
一話5000字はさすがに長いな!と思ってやっぱり分けました。内容は弄ってません。
目の周りが腫れているのではと心配になったが、どうやらマリーさんが私の寝ている間に処置を施してくれていたらしく触ってもあのピリリとした痛みもない。
まだ両親を失い胸にぽっかりと空いてしまった喪失感は埋まっていないけれど、泣いた事で前を見ることはできそうだ。
さっきまでの私は逃げることに必死だったのに、いざ隣国についてもどうしようとも考えていなかった。
強いてあげるなら復讐の準備で身も心も削げるまで削いで諸共に死んでしまおうと思っていた位だ。
今は諸共に死ぬつもりは無いが、然るべき報いは受けて貰う。それは復讐からではなく、無作為に殺されてしまった両親と村人への弔いの為だ。このままでは浮かばれない。
精霊の加護の気配はあの村にはもう無い。きっとあの村はもう花を咲かせることも美しい泉を湧きだす事も朝を歌う小鳥の鳴き声もしないのだろう。
彼らの手向けへ動こうとする私にまるまるその加護を与えてくれている。ありがとう、と小さく呟くと私の周りの空気が嬉しそうに揺れた。
この部屋の明かりはどうやら魔術式の様なので、そっと[灯りを]と唱えると部屋は淡いオレンジの光で包まれる。
灯りの問題は解決したはいいが、この先はどうしようかと考えあぐねていると控えめなノックの音が聞こえて返事を返した。
「フィリーネ様。お目覚めですか」
顔を覗かせたのは既に見知った顔であるマリーさんで、ほっと息を吐いた。
こくりと頷くと彼女は良かったですと相好を崩す。
「お腹は空いていませんか?今夜はお部屋で召し上がってください、と旦那様からの言伝でしたのでお持ちしましたわ」
そういってガラガラとカートを押して彼女は部屋へ入った。
目を覚ました今からここのご家族とご対面かと思って緊張していたから、その心配りはとても嬉しい。
…思い出したように言うけれど前世ではこういった人付き合いが不得手なコミュ障だったんだ。察してほしい。
「あら?そういえば私灯りを点けていきましたか…?フィリーネ様、よく眠れましたか?」
勝手に点けていた灯りに気付いて困惑した様に告げるマリーさんに慌ててブンブンと首を振る
「わ、私が…勝手に、点けました」
思わず頭を下げるとマリーさんはまあ!と感嘆の声を上げて「お好きに使って頂いて結構ですよ」と言った。
「フィリーネ様は魔法がお使えになられるのですね。この部屋の明かりは魔術式でございましょう?」
「あ、はい。父が、教えてくれていた…ので」
一通りは使えるかと。そう答えるとマリーさんは父の事を出してしまった事に気付き悲しそうに眉を下げた。気を遣わせてしまった。
「フィリーネ様、お食事後旦那様がお話をしたいと仰っていましたが、後日にいたしますか?」
気遣いに溢れた言葉に小さく首を振る。こういう事は早い方がいい。お世話になっているのだから。
「いえ、伺います。そうお伝えください」
「かしこまりました。他のメイドに伝えてまいりますので少し席をはずしますね」
分かりました、と答えるとマリーさんは机に料理を並べて部屋を出て行った。
配膳したばかりなのだろう料理はさっき食べたものと同じ様に温かくて、私の緊張する心をほぐしてくれた。
食事を終えてまた着替えた私はマリーさんに連れられて初めて部屋から出た。
前世今世含めて一度も見たことが無い豪奢な装飾がちりばめられた回廊に好奇心から視線が滑る。
これでも控えめなんですよ。旦那様は派手がお嫌いで。とマリーさんは少し恥ずかしそうに言うけれど倹約家なのは素晴らしい事だ、と答えると満足いく答えだったのか嬉しそうに頷いた。
私がいた部屋は客室として用意されている部屋で、この屋敷の主人である領主さまが暮らす部屋の一つ下の階に位置している。
階段を上り、これまた広い廊下を歩き、歩き、シンプルだけど厳かなデザインの扉の前に着いた。
マリーさんが軽く扉を叩き中にいる人へ声をかけると入室を許可する声が聞こえた。
「どうぞ、こちらへかけて。」
「失礼します」
扉を開けると空と深森と混ぜた様な美しい藍色の髪をふわりと撫でつけた、美しいのに温和そうな優しさを感じる顔立ちの男性が歓迎してくれた。
灰を混ぜた綺麗な銀色の瞳は柔らかく細められている。
おずおずと勧められたソファに身を沈めると、彼仕えの執事さんがさっとお茶を置いてくれた。
「どうぞ。客室からここまで遠かったでしょう。甘くしていますのでどうぞ」
「ありがとうございます」
小さく頭を下げ、言われた通りカップを持ち上げ一口含んだ。
ミルクと砂糖で甘く味付けされたそれは舌の上で蕩けてそのまま体内へと流れてしまった。
「美味しいです。有難うございます」
「恐縮です。ご満足いただけてよかった」
そういって彼もまた、その少し鋭い目を和らげて優しく微笑んだ。ここの家の人たちはたとえ平民でも幼い女子供には優しい人たちなのだろう。
私に甘い、素敵な場所で長居をしたくなってしまいそうだ。そうなる前に早くここを出なければ。
「あの、領主さま。この度はお世話になりました。素性も不明で身寄りもなく、平民の私に丁寧に世話をして頂きありがとうございました。
明朝には出ていきますので恐れ多い事なのですが、盗みもしませんし、手伝えることなら手伝いますので今晩は泊めて頂けませんか?」
一足跳びに言ってしまったがこれで言いたいことは全部言えた。頭を下げて懇願する。
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一話5000字はさすがに長いな!と思ってやっぱり分けました。内容は弄ってません。
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