セカンドライフは魔皇の花嫁

仁蕾

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第7章

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「城の外まで影響が出ておりましたので、もう少し制御出来るように練習した方が宜しいかもしれませんね」
 ふふと口元を緩く握った手で隠して笑むミオンに、生徒である康泰は苦々しく表情を歪める。
「…あれでもマシになったとは思うが…」
「マシであるなしでは無いと、ご自身が重々承知されているのであまり申し上げたくはありませんが、強過ぎる力は時に不利な状況を招きます。隠せるのならば、隠しておくのが宜しいではないですか」
 ぐうの音も出ない。
 ある意味、今回がその例にあたるのだろう。
 ミオン曰く、探知術式も結界も問題なく展開され、発動されていたとの事。だが。
「魔力残滓は微かに感じましたが、本当に微々たるもの。コータ様の魔力に圧し潰され、四散しておりました。まだ僅かに感知できる残滓を拾い上げは致しましたが…」
 床に跪き、真っ新のソーサーをテーブルに置いた。白磁の中心を人差し指でカツンと軽く叩けば、半透明の蓮の蕾が姿を現しゆっくりと花開く。
 柔らかな光の中、ふわふわと踊る数粒の雪の結晶。光の壁は、魔力の塊である結晶と空気中に漂う魔力が混ざり合わないように保護の役割を果たしている。
「こちらの結晶が、コータ様の魔力の残滓になります。そして、目に見えませんがこの結晶の周囲に、疎らではありますがガロン様の魔力でも人魚族の青年の魔力でもない何者かの魔力の残滓が漂っております」
 それを、掬い上げてくださいませ。
「…え」
 向けられる笑みには拒否を許さぬ圧が込められ、臣下よりも師としての色を濃くしている。
 その視線の強さに僅かばかり気後れし、康泰の双眸はガロンに向けられた。当のガロンは、ひょいと柳眉を持ち上げる。
「兄さんがやんのが妥当やね。今、その花結びの中の主軸は兄さんの魔力。まあ、ボクや宰相なら上手い事取り出せんくも無いけど…失敗した時の代償が大き過ぎるんよ。最小限に抑えても、こっちの被害は体半分っちゅうところか?」
 つまり、運が悪ければ『死』。
 それを聞いてしまえば、否とは言えない。元から断る気も無かったが、ある種の諦めが付いた。
「それでは、お渡しいたします」
 ミオンの指先が花びらにそっと触れれば、蓮の花は閉じ、再び蕾へと姿を戻す。そっと押し出せば、ふわりと浮き上がって康泰の胸の前で静止した。
「一度手を離れた魔力は、少しばかり扱い辛くなる場合もあります。気を落ち着け、集中できるタイミングで作業に取り掛かられてください」
「…わかった」
 手のひらを差し出し、氷の鳥籠を創り出す。
「…そう言うんを創るんは上手いのになあ…」
 しみじみと呟いたガロンの声は聞こえぬフリ。テーブルの上に鳥籠を置いて息を吐く。
「それでは、わたくしは部下たちからの引継ぎがありますのでこれで失礼いたします」
 慌ただしくて申し訳ないと謝罪するミオンに、改めて労いの言葉を掛けてその背を見送った。
「ほんなら、ボクもそろそろ戻るわ。あの子等の弔いもしてやらんと…」
 翳るガロンの表情に、掛ける言葉が見つからない。
 侵入者の何かしらの痕跡が無いか調査する為、殺された兵たちもそのままの状態でガロンの魔力で保護されていたのだが、もう新たな発見は無いだろう。明日、弔いの儀を行うと言う。
「今度、花持って行くよ」
「ありがとさん、あいつらも喜ぶわ」
 ひらりと手を振ったガロンも見送り、康泰はひとり大広間の天井を見上げる。
「はあ…役立たずじゃん…」
 唸り声をあげ、目を閉じた。じわりと蘇るのは、微かな血の臭い。
 あの日。人魚族の青年―リンザの姿が消えた日。
 なかなか目を覚まさないリンザの様子を見に、康泰はガロンの居城を訪れていた。
 やはり今日も目覚めぬかと息を吐き、客室で他愛のない世間話をしていた時だった。不意に安定していたリンザの魔力が揺らぎ、嫌な予感が去来した。即座に康泰は取り駆けだしたのだが、部屋に着いた時には既にその白い姿は無かった。
 残っていたのは、展開された康泰の結界術。そして、リンザの血肉。
 ガロンの従僕魔スピニアであるノディの取り乱しように、胸が痛んだ。。
 記憶の中に深く沈み込んでいると、かたんと小さな物音が康泰の思考を止めた。
「あなたが役立たずならば、ガロン王はそれ以下ですね」
 独り言だった呟きを拾い上げたのは、康泰の奇妙な同居人―天使族のモニスだった。本人が居たならば憤慨しているであろう言葉を吐き捨てたモニスに、康泰は天井を見つめたまま失笑を零した。
「俺はガロンさんの足元にも及ばない」
「…そうですね、否定はしませんよ。現にあなたは、魔力操作に関してはまだまだ赤子。いや、赤子にも劣るでしょう。魔力を持たぬ人間であった弊害ですから、そこは諦めて鍛錬されてください」
 康泰の傍、モニスは背凭れに体重を掛け、康泰の顔を覗き込んだ。白銀の髪がさらりと揺れる。
「もっと根本的な話です。持って生まれた魔力の総量が違う。これもまた、人間であった弊害と言ってもいいのでしょう」
「魔力の総量…」
「暫定的であり、確定的なあなたの『魔力』はとても恐ろしいものです。あなたが思っているよりも、ずっと。けれども、その魔力はあなた次第でその辺の子供にも劣るものとなる。魔族にとって魔力は命、本能、理性。でも、人間であったあなたにとっては、『意志の力』と言う側面が強いのかもしれません」
 その膨大な魔力さえ制御してしまえば、ロイウェンと肩を並べるほどの存在となる事は間違いないだろう。それこそ、魔王の一角であるガロンや随一の魔力の使い手であるミオンですら足元にも及ばない。
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